21 第19話 冒険者ランクアップ
「小僧……」
熊……まだいたのか。もう用が無くなって買い取り窓口に戻ったと思ってたぞ。
「…まさかとは思うが、まだ持ってるとか言わねーよな?」
熊? が、恐る恐る聞いてくるが、タックが持ってるのも知っているのだ。俺がまだ収納バッグを持ってる事ぐらい、予想をしての質問だろう。
「持ってたらなんだ」
「それも売ってくれ! 頼む! 実は今度、大量の輸送を控えてんだが、収納バッグの数が全く足りねー。今回のこれで、少しは挽回できそうだが、まだまだ足りねぇ。すまんが、あと十個か、十個分入る収納バッグを持ってねぇか」
まぁ、持ってるが、大容量のものか。なら、アレを出してやるか。
さっき渡した物と同じ収納バッグを十個と、ミャールに渡したポシェットタイプを一個出してやった。
それを見て、おお! と喜ぶ熊?
釣られて『おお!』と完成を上げる野次馬。
熊? は、喜んだが、最後に出した小さなポシェットタイプを見て首を捻る。
ま、小さいから容量が少ないと思うのは仕方がないところか。なので、説明してやった。
「この十個は、それと同じものだ。このポシェットタイプはその収納バッグの百倍入る。それだけあればいいか?」
ミャールに渡したものに似ているが、今出したポシェットタイプは二度目の魔王を倒した後に作ったものだから、物は小さくとも収納容量はタックが持ってる収納バッグの百倍入る。
さすがに、これは大して数を持ってない。千個ぐらいしか持ってないからな。
「ひゃ、ひゃくばい~!! そ、そ、それを売ってくれるのか! も、もう、返さんぞ! 小僧が売ると言ったのだからな!」
「ああ、構わない、金額は任す」
俺には不要な物だ、何個かは売ってもいいだろ。今なら、あれよりもっと収納能力が高い物も作れるしな。
「話が途中だったな。それで、俺のランクはどうなるのだ」
熊? とのやり取りの間、大人しくしていた受付姉さんに話を再開とばかりに聞いてみた。
「……え?」
「俺のランクはと聞いている」
「え? あ…そう」
「お前、大丈夫か」
「え? ええ、大丈夫よ。だけど、少し休憩が必要かも」
「そうか。だが、俺のランクぐらいは分かるだろ。それだけ言って休憩に行けばいい」
「ちょっと! 私のランクも! 私だって、オークの群れを六つも討伐したのよ! 私だって絶対上がってるわよ!」
煩い奴が復活したな。前にトリップした時は長かったが、今回は早く戻って来たな。タックの介抱が利いたか。
「そうだね、僕と姉ちゃんはCランクだったから、Bランクは行ったんじゃない?」
「そんなわけないでしょ! 『森の主』討伐はチームでやったのよ? 私だってヨウドウ作戦ってやつをやったもの!」
「そっか、でもそうは言っても僕達はオークを倒してただけなんだけどね。だけど、僕達は『惰眠を貪る猫』だもんね。『森の主』討伐にも一役買ったし、Aランクまで行ったかな」
「当たり前でしょ! 『森の主』よ? 『森の主』なのよ? 絶対Aに決まってるわ」
やっぱり喧しいな。だが、俺もAランクにはなりたかったのだ。どうなったかは早く知りたいものだ。
受付姉さんに目を向けると、姉弟のやり取りを見て微笑んでいる。さっきより、顔色も良くなったように見える。
「ふぅ、あなた達姉弟を見てたら少し気分がよくなって来たわ。普通の冒険者って、こんなに和むものだったのね」
何が和むのか分からないが、休憩はいらんようだな。
「なら、俺の質問に答えろ」
「ええ、『惰眠を貪る猫』のパーティランクはAランクでいいわ。三人のランクは、リーダーのミャールがB、タックがB、アスラムはAAAね。AAAの上には、まだSランクがあるから頑張りなさいよ」
「な、なんで私がBなのよ! ちゃんと説明してよ!」
「ちょ、姉ちゃん、文句を言ったら降格させられるよ! Bランクでも凄いんだから、次に頑張ればいいじゃないか」
「ぐっ……」
受付で文句を言ったら降格というルールがあるのか。だが、この差については俺も知りたいところだな。それに、ランクは誰が決めてるのか。
「なぜ、こんなに差が付いたのだ」
「もちろん『森の主』討伐ね。レベル25でどうやったのかは分からないけど、ほとんど一人でやったんじゃないの?」
ほぅ、意外と見抜く目を持ってるようだな。ま、あれだけ姉弟が自分達で陽動とかオークだけとか言ってたからバレるか。
「それと、さっきの収納バッグね。収納バッグなんて、めったに売りに出ないの。しかも、一つはあれでしょ? あんなに小さくて収納能力が巨木二〇〇本以上入るものなんて、元々ほとんど無いもの。それを冒険者ギルドに売ってくれた貢献度を加味したの」
収納バッグでランクが一つか二つ上がったのか。あの程度で上がるのなら、もっと出してやろうか。
「Bランクになったあなた達の事も評価してるのよ? レベル的はAAでも十分な実力だとは思ってるのよ。でもね、六つのオークの集落を潰した割には提出した討伐部位が少ないのよね」
「「あっ……」」
レオフラフィが潰したオークは討伐部位が取れてないのを思い出したようだ。レオフラフィが倒したオークは、全てミンチ肉行きだったからな。
しかし、さっき出したばかりのものまで既に報告されているとは。どういう仕組みになっているか気になるところだな。
「思い当たる事があるみたいね。なら、分かるでしょ?」
「はい、すみませんでした」
「……」
素直に謝るタックに対して、俯いて押し黙るミャール。
「悔しい気持ちは分かるけど、リーダーとして、そういうのはどうなのかな」
「……すみません……」
「でもね、こうも考えられるわよ? 冒険者の依頼はランクの上下一つまで受ける事ができるのはあなたも知ってるわね? だったら、あなた達はCランクからSランクの依頼まで幅広く受けられるのよ。これって得だと思わない? そんな冒険者なんていないもの」
「本当だ! これは凄いよ姉ちゃん! 受けられない依頼なんて無いんじゃない?」
姉弟がBだから、C・B・Aが受けられる。俺がAAAだからAA・AAA・Sが受けられるって事か。
ついでに言うと、パーティランクがAだからB・A・AAが受けられるな。
俺は、自分の目的を達成したからもう依頼を受ける必要は無いんだが、冒険者ランクを上げておくと国境を越える時みたいに優遇される事もあるようだから、上げておいて損は無いな。
「『惰眠を貪る猫』に相応しいランクね。フッフッフ、計算通りよ!」
「……姉ちゃんってホントいい性格してるよ」
最後に受付姉さんが「もう少し貢献度を上げてくれれば、あなた達二人もすぐにランクも上がるわよ」と付け加えてくれたが、ご機嫌になって燥ぐミャールの耳には届いてなかった。
熊? が、買い取り金を持って来たので商業ギルドのプラチナカードに入金した。
内訳は、魔石が九個で大金貨九枚、収納バッグ(中)が十一個で白金貨十一枚。収納バッグ(小・大容量版)が白金貨五〇枚、『森の主』討伐が白金貨一枚、素材が大金貨六〇枚だった。収納容量が多くても、ある一定以上は同じ価格になると説明を受けた。別にいくらでも構わないから何も言わずに受け取った。俺は銀貨さえあれば文句は無いのだ。
結果、俺のプラチナカードの表示はこうなった。
白金貨一一五、大金貨七四、金貨九九、銀貨八四、銅貨四九。
一度、食事で使っただけなので、ほとんど減ってない上での追加報酬だったので、お金は増える一方だ。今後も使う予定は無い。
姉弟も、さっきのオーク素材のお金を受け取っていた。
白金貨には程遠かったが、大金貨を何枚か手にして二人とも破顔一笑して喜んでいた。
なぜか熊? には、別々にお金を渡された。
パーティだから、一緒になるのでは? と思ったのだが、『森の主』の件や収納バッグは、明らかに俺だけのものだと分かるため、別にしたのだとか。こっちでもバレバレだったようだ。
だが、姉弟も納得のようなので、あえて俺も何も言わなかった。
受付姉さんの説明では、今回の『森の主』討伐もオーク討伐も『惰眠を貪る猫』の成績としては評価されているようだ。その上でのパーティランクAの評価だと説明は受けた。
結局、依頼書を提出はしていないが、実物|(偽者のニンフ本体)があったため、討伐達成も認められた。魔石を出してやったのも拍車を掛けたのかもしれない。
あの程度の魔石なら大量に持ってるからな、九個全部出してやっても全く問題ない。
魔石には魔物の属性が付いている場合が多い。今回出した魔石も樹属性が付いていた。
そして魔石の大きさは、その魔物の強さを表す。出した魔石の大きさは、直径十センチだ。黒狼のボスが直径四センチ程度だった事を考えると、強さからいって妥当な大きさだろう。討伐証明にも一役買ってくれたみたいだ。
因みに、アスラムが監禁中に兄アーノルドから投げ渡されていた魔石は、直径一センチ程度のクズ魔石だった。
「それで、あなたがこれだけ急いでランクを上げたかったのには理由があったのかしら」
ランクの変動、買い取り、精算の全てが終わったあとに受付姉さんが尋ねてきた。周囲の冒険者達も徐々に引いて行って、周囲にはもういなくなっていた。
「そうだな、国境を自由に越えたかっただけだ」
「国境を? あなた商業ギルドカードを持ってるわよね?」
「ああ、これの事か?」
と、プラチナカードを見せた。
「そう、それよ。やっぱりプラチナカードじゃない。商業ギルドカードなら、ゴールドから国境を自由に行き来できるわよ? それってプラチナカードよね? だったら国境も自由に通れるし、通行料も町に入る入門料も免除になってるはずよ」
「なっ!」
マジか……知らなかった……
両手を地面に着いて項垂れる俺。こんな所でも運の悪さが出てしまった。冒険者ランクを上げる必要はなかったのか……
早々に運気アップアイテムを入手しなければ。




