19 第17話 討伐の証拠
今回はレオフラフィの時のような『フィーディング』は必要ない。食べる必要が無いからだ。元からスキルも結構持ってるようだし、属性を少し足せばいいだけだな。後は、大量に魔石を本体の樹に溶け込ませてやればいい。
小の魔石以下のクズ魔石を大量に本体の樹に与えてやる。
魔石を手に持ち、俺の魔力を馴染ませながらニンフの本体である樹に魔石を当て、ニンフの魔力に同調させると魔石が本体に吸収されていく。
その繰り返しだが、量が多いので面倒になり、手で持てるだけの魔石を一気に投入したりした。
隣では、悩ましい声で悶える念仮身体がいたが、そんなのは無視だ。さっさと作業を済ませたい。
【鑑定】で確認したが、まだまだだな。これだと、元のこいつの七~八体分しかない。魔石はまだまだあるが、もう面倒だ。と、魔石(特大)を投入してやった。
念仮身体が更に大きな声で悶えたが、これでようやく俺の思い描いたステータスを超えたな。うむ、納得だ。これで森全域に干渉できるようになっただろう。
名前 ――― ♀ 4878歳
レベル 65
種族 魔樹
状態 正常
HP 1323/8788 MP 2771/9811
攻撃力 3244 防御力 7735 速さ 1320
器用 7675 賢さ 9022 運 4842
スキル 【魔力同調】【探索】【念話】【念体】【再生】【並列思考】
アーツ
適正魔法 樹・水・風・土・闇・精神・回復・解呪・解毒
ユニークスキル 【森同調】【精神支配】
称号 元魔の森の主 十女 アスラムの従魔 レオフラフィ傘下
名前はもちろん無いな。俺の従魔にした覚えは無いが、レオフラフィの傘下にはちゃんと入る決意ができたようだな。既にレオフラフィとも接触を終えて来たという事か。
速さは遅いようだが、移動はできないんだ、関係ないだろう。それに、森の何処にでも一瞬で【念体】で念仮身体を出せるんだから速さなど意味が無い。本体を攻められた時には関係あるが、防御力も高くなってるし森の守護者としてはこれでいいだろう。
「今、レオフラフィ様に報告を済ませました」
さっきまで悶えてたがもういいのか? と、思わなくも無いが、まだ頬に赤みを残した念仮身体が報告してきた。
「そうか。では、もう一度行って姉弟に俺からの伝言を伝えろ。『オークはまだいるんだ、休んでる暇は無い』と。ついでに、オークの群れの残数も教えてやれ」
「畏まりました」
一瞬で伝言を済ませるニンフに一つ尋ねた。
こいつがずっとここにいたという事は、【念体】は複数出せるのだろうなどと考えながら、俺の為になる事を尋ねた。
「俺は討伐部位が必要なのだが、何か無いか」
「討伐部位ですね。よく人間がゴブリンの耳を斬ってる時に聞きますが、私の討伐証明でよろしいですか?」
流石に賢さが上がってるだけある。理解が早くて結構だ。これならレオフラフィのサポートも上手くやるだろう。
「ああ、何かあるか」
「お姉さま達の身体ではどうでしょうか。ご主人様より授かった力で、お姉さま達の身体だけは再現させる事ができますが」
「それはいいな。では頼む。あ、二体あればいいぞ」
「その前に、一つお願いを聞いてくださいませんか」
「なんだ」
「いつまでもご主人様の従者でいられるよう、名前をくださいませ」
「名前か。別に構わんが…ならば名前はニンフで……いや、待て」
ニンフでいいだろ。と、言いかけて途中で思い留まった。ミャールの言葉を思い出したのだ。
従者なら名前が無いと可哀想だと言っていた気がする。常識だと言われた気もする。種族名はダメだとも言われたな、ならば皆が唸る様ないい名前を名付けてやろう。
実際はそこまで言われてないのだが、常識という言葉に過剰な意識を持ってるため、そう思い込んでいたアスラムだった。
しかし、いざ名付けるとなると、何も思い浮かばんものだな。レオフラフィの時もすべて却下されたからな。
だが、今回は俺の素晴らしいネーミングセンスでミャールを呻らせてみせよう。
こいつは樹だからキだな。
「お前の名前はキにしよう」
「キ? ですか?」
「あ、い、いや、待て、今のは無しだ」
今のこいつの反応を見る限り、おかしな名前だったようだ。では、ニンフだからニン? これも違う気がする。
そうだ! ミャールは見た目で決めていたな。俺もそうしよう。
こいつの見た目……樹だな。キはさっきダメだったから、太いからフトシなどどうだろうか。どうせ魔物だし、なんでもいいだろう。いや、そうではない、ミャールをギャフンと言わせるのだ。
ん? 念仮身体は女か。ではオンナならどうだ。少し語呂が悪いか。ニョではどうだろう。ジョでもいいか。樹でジュでもいいな。
「よし、決めたぞ。お前の名前はジュジョだ」
「ジュジョ? ですか? それは私が十女だったからでしょうか」
いや、樹の女だからなのだが、どうも気に入らないようだな。
「いや、やっぱり辞めだ。もう少し待て」
むぅ……まったく思いつかん。希望を聞いてみるか。
「どういう名前がいいのだ」
「森の管理者に相応しい名前をお願いします」
そんな抽象的な言い方だと、何も思いつかんじゃないか。
「具体的には?」
「フォレストレディですとか、フォレストマネジャーですとか、スピリットレディですとか、ドメスティックレディですとか。少し長めにして頂いて、愛称で呼ばれたりするのも嬉しいです」
これは、あれか。レオフラフィの事をレオと呼ぶようなやつか。そこまで考えないといけないのか? 希望を聞いて更にハードルが上がったぞ。
だが、候補を聞いていい事を思いついたぞ。混ぜればいいんだ。
「よし、これで決まりだ。名前はフォレスピックドレディ。愛称はレディだ」
「……」
「ダメか?」
「……ご主人様には、これ以上は無理なご様子。愛称は気に入りましたので、その名を名乗らせて頂きます」
ふぅ、ようやく終わったか。倒した後の方が苦労したぞ。
「では、ご希望のものを用意致します」
レディは返事をすると、少し離れた場所に元のレディの本体そっくりな、高さ三〇メートルの樹現れた。今のレディの本体は五〇メートルはあるから近くだと小さく感じるが、十分巨大な樹だった。
芽からニョキニョキと超早回しのように大きくなる様は、生命の誕生のような神秘的なものを感じた。
「意思はありませんが魔力は宿してますので、お姉さま達とソックリの樹です」
「これは伐っても同じか」
「はい、伐ってもすぐには魔力は変わりません」
「という事は、魔石も持ってるのか」
「いえ、魔石までは再生できていません。見た目と内包している魔力の流れだけです」
「わかった、ご苦労」
魔石はさっき倒した奴らのものを持ってるから問題ない。
レディが作った三〇メートル級の樹をサクッと伐って【亜空間収納】へ収納。後はこれを冒険者ギルドに持って行けば依頼達成となるだろう。
だが、俺だけで行っても俺のランクが上がるだけだろうから、姉弟と一緒に行ってやるか。
「今、レオフラフィ達はどこにいる。俺をそこまで運べないか」
「申し訳ございません。私の【念体】は森の中なら何処にでも出現させられますが、誰かを運ぶ事はできません」
もしやと思って聞いてみたが、できなかった。
「ですが、お姉さま達と合わせた力を更に数倍上回る力を授けて頂けましたので、支配できる魔物は増えました。移動のための魔物を使役致しましょうか?」
「そうだな、早めに合流もしたいし、頼む」
自分で移動してもいいのだが、送ってくれると言うなら甘えておこう。こいつが役に立つのかどうかも確認しておきたいからな。
少し待つと、大きな鳥の魔物がやって来た。
ガルーダ レベル46 ♀ 322歳
ほぉ、中々便利な魔物を使役できるようになったのだな。虫系だけじゃなく、こういったレベルの魔物もバリケードに織り交ぜられていたら、あと十秒程度は苦戦させられていたかもしれんな。
もしかして、この森に龍がいないのはこいつがいたせいか? ガルーダは龍の天敵と言われてたはずだが……しかし、このガルーダはまだ若い。果たしてそれだけの力がこのガルーダにあるのだろうか。
レディの使役したガルーダのお陰で、すぐに姉弟とは合流できた。流石は鳥系の魔物の中でも速さを誇る魔物だけはある。
こいつを倒す時にはトップスピードにさせないようにしないと梃子摺りそうだ。と、ガルーダの背中で移動しながら考えていた。
だが、乗り心地はイマイチだな、少し震えているのか振動が気に入らん。
姉弟の近くでガルーダに降ろしてもらうと、ガルーダは一目散に帰っていった。
姉弟はオークの群れとの交戦中だった。さっきは休憩中だとレディが言っていたから、次に行けとの伝言は上手く伝わったようだな。
だが、戦闘は既に終盤で、残す所は雑魚が数体。すぐに戦闘は終わるだろう。
上位種の何体かが潰されていたのはレオフラフィの仕事なのだろう。斬られた後のある上位種も何体かは確認できた。ただ、まだ一撃で倒すには至ってないようだ。
これは戦術を変えるべきだな。二人で片手剣を使っているからああなるのだ。弟タックは身体も大きくなったのだし、盾を教えるか。姉ミャールも、もう数ランク上の剣を持たせられそうだし、今思いついた戦術なら弟が防御した上で姉が余裕を持って溜めた一撃を放てるだろう。
この戦闘が終わったら、説教&特訓だな。
それから十分と掛からず戦闘は終了した。一応、姉弟は無傷だが、疲労の色が濃い。まだまだ未熟だな。
「休んでないで、さっさと解体をやれ」
「アスラム! 助っ人に来てくれたの!?」
「なんでアスラムが……まさか、もう終わったの?」
なぜ俺がオーク退治の助っ人に来ないといけないのだ。それはお前達の仕事だ。
「ほぉ、手伝えと言うのだな」
「そりゃ、同じパーティメンバーなんだから少しぐらい手伝ってくれてもいいと思うわよ」
「姉ちゃん! アスラムは別行動でもっと凄い『森の主』討伐をやってるんだから、こっちは僕達でやるべきだよ」
「それは分かってるけど、どうせ『森の主』討伐なんて一日でできないでしょ? だったら少しぐらい手伝ってくれてもいいと思うのよ。実際、今もこうやって来てるんだし」
「でも、僕達には手伝えない事をアスラムがやってるんだよ。オーク討伐がアスラムの陽動になるからって、姉ちゃんも納得してたじゃないか」
「それはそうだけど……ねぇ、アスラム。今ってどのぐらいまで攻略してるの? 『森の主』討伐に目処は立った?」
どうやら姉弟は、まだ俺が『森の主』討伐を終えていないと思っているようだ。
「『森の主』か。さっき使いで来なかったか」
「「え?」」
確かさっきレディに伝言を頼んだはずだが。
「さっきって、『休んでないで早く次に行け』って言った人?」
「そんなにキツイ言い方じゃ無かったけど、綺麗な女の人が来たよ。あの人がどうしたの?」
「あいつが『森の主』だった奴だ」
シーンと静寂が辺りを包んだ。
姉弟は理解できていないのか、二人とも呆けた顔で眼をパチクリさせている。
「「え――――――――――――――――――っ!!」」
顔を見合わせた姉弟の叫び声が、森の静寂に木霊した。
「『森の主』はニンフだと教えただろ」
「いや、聞いてたけど、あんな綺麗な女の人だなんて思って無かったよ!」
「そうよ! あれが『森の主』なら…え? え? もう終わったの?」
「ニンフを見た事が無かったのか。なら、今から紹介させよう。だが、もう『森の主』では無いぞ。主の座は既にレオフラフィに移ってるからな」
「「え――――――――――――――――――っ!!」」
喧しい奴らだな。レディもさっき来た時に言わなかったのか? あいつも説教だな。
「レディ、聞こえているのだろ。すぐに来い」
「はい、お呼びでしょうか」
俺の呼びかけに間髪入れずにフォレスピックドレディの【念体】が現れた。本当に、森の中ならどこにでもすぐに【念体】を出せるようだ。
「改めて紹介しよう。フォ……何とかレディだ」
「「「……」」」
(全然分かんないよ!)と思う姉弟。
(覚えられない名前を付けてんじゃねー!)と心の中で罵倒するレディ。
気を取り直し、レディが自己紹介をした。
「……ニンフのフォレスピックドレディです。覚えられないようでしたらレディとお呼びください」
「うむ」
嫌味を混ぜながらのレディの自己紹介にも、なぜか納得顔のアスラムであった。
「さっき、レオフラフィに主の交代を告げに来た時には言わなかったのか。この姉弟が伝言は聞いたが、お前の名前も正体も知らないと言ってぞ。だから紹介しただけだ」
「いえ、私からは申し上げたのですが、『次に向かえ』というご主人様の伝言を伝えましたら、ずっと罵声を上げておられて聞こえていなかったのだと思います」
レディは自己紹介もしたし、レオフラフィが次の『森の主』になった事も伝えたらしい。ただ、俺の伝言を先に伝えたため、文句を言う姉弟が聞いて無かったのだと言う。
その言葉を聞いて姉弟に目を向けると、あれだけ煩かったにも関わらず、俺と目線を合わさない。
「何か言う事はあるか」
「「ごめんなさい」」
「俺にオーク討伐を手伝えと言うのだな」
「「ごめんなさい」」
「では、これからお前達の戦闘スタイルを変えるために訓練をする。レオフラフィ、相手をしてやれ」
「ごめんな……ちょ、ちょっと待って! まさか今から訓練するの!? こっちはヘトヘトなのよ!」
「そうだよ、訓練は勘弁してよ。今日は無理だよ」
折角、訓練してやるというのに、軟弱な奴らだ。
仕方が無いので解体だけをさせて、町に戻る事にした。もちろん、自分の足でだ。
「なんで、一番疲れてないあんただけレオに乗ってるのよ!」
「もう僕、走れない……」
「俺はこいつの主だからいいんだ。お前達は弱いんだからもっと鍛えろ」
ステータスがメインのこの世界でも、鍛えると少しはHPがアップしたりする。それも狙いではあるのだが、やはりトレーニングは重要だ。
魔物との戦闘を何度も熟す事によって、自分の戦闘方法を確立させて行くのだが、その戦闘をするために訓練をするのだ。そうすれば、いざ魔物との戦いになった時にもスムーズに身体が動きやすい。魔物との戦闘の予行演習みたいなものだな。
だから訓練はすればするほど効果的だ。
今、走らせているのは、心の方のためだ。苦しい時でも踏ん張れる心を作っておく事で、戦闘時にも踏ん張りが利くからな。
ついでにアーツの熟練度も上げさせている。何かをやりながら別のアーツ併用すると効果的だからな。熟練度が上がりやすくなるのだ。
今も、森の中を走っているが、道はレディに作らせているから躓いてこける事は無い。その代わり、(索敵)や【隠蔽】スキルを使わせて、熟練度を上げさせている。【隠蔽】はスキルだが、使い続けると【隠密】になる事もあるからな。




