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16 第14話 討伐依頼


 ミャールと別れてタックと共に買い取り窓口へ。

 ここではタックが声を掛けてくれた。


「すいません、売りたい物があるんですが」

「おぅ、何を売ってくれるんだ?」

 窓口にいたのは大きな獣人だった。たぶん熊? の獣人だろう。


「はい、オークの皮など森で獲れたものが色々あります」

「ん? 見たとこ何も持って無さそうだが?」

「あ、これです」

 と、タックは肩下げ鞄を見せた。俺がやった収納バッグだ。


「ほぉ~? 収納バッグか、景気がいいな。期待してるぜ」

「はい、結構あるんで期待してください」

「だったら、ここは手狭だな。裏に来い。そこから出て左に行ったとこだ」

 指示された場所を見ると通用口があった。そこから出て裏に回れと言うことだろう。


 指示通りに俺とタックは裏へ回った。大きな倉庫があり、その前でさっきの熊? が待っていた。


「こっちだ。この倉庫に出してくれ」

 倉庫に中に入ると解体作業場が三箇所あり、それ以外は土魔法で作られているのか、大きな一枚岩のフロアになっていた。非常時には、どこででも解体作業ができるように一枚岩のフロアにしてるのだろう。


「出来る限り作業場に近いとこに出してくれ」

「はい、解体済みのものはどうしますか」

「解体済みなら入り口に近い方がいいな。こっちの方に積んでくれ」


 タックは熊? みたいなおっさんの指示通りに出して行く。


 オーク関係は全部解体済みだ。他も黒狼ブラックウルフの素材や森狒々フォレグノンの素材は姉弟で倒して解体したものだ。俺が雑魚を倒す時は、余程美味いやつじゃないと魔石以外は焼却処分だからな。タックもそれにならって美味い肉以外は処分しているから、毛皮や牙、爪などの肉以外の素材を出して並べている。

 タックは他にも爬虫類系、ネコ系、虎系、牛系、虫系、犬系の魔物を出して行く。全て解体済みだ。


「なんでい、全部解体してんのかよ。楽しみねぇなぁ」

 それはそうだろう。姉弟の解体技術を高めるために狩ったと言ってもいいぐらいなのだ。解体してないのはスライム系ぐらいだろう。姉弟は蜘蛛でも解体したら食おうとしやがったから慌てて止めたからな。美味いものを食いたいために、全力で解体に励んでいたよ。


「しかし、うめぇもんだな。儂らがやるのと変わらねぇ腕してやがんな。これなら文句ねぇ、最高ランクで買い取ってやるぜ」

 タックが出した解体済みの素材を見て、合格を出した熊?

 タックはまだ出してるので、その間に俺から質問した。


「ゴブリンの耳もここでいいのか」

「あ~? ゴブリンの耳だ? そんな食えねぇもんはその辺に捨てとけ」

「わかった」

 先日、女性を盗賊とゴブリンから助けた時に収集したゴブリンの耳だ。三〇匹分ある。どこでもいいというので、入り口の横に捨てた。


「何匹分あるんだ?」

「三〇匹分だ」

「お、意外とあるな。小僧、お前のランクは?」

「Eだ」

「だったらDにしてやるぜ。お前は解体できるもんは持ってねえのか」

「あるにはあるが……」

「お、持ってるのか。最近、上位魔物を持ってくる奴がいなくてよぉ。腕が鈍ってしょうがねぇ。あまり期待はしてねぇが、上位種を持ってんなら出しな」

「いいのか?」

「ああ」

「ちょっと待った―――――!!」


 俺が暗黒龍ダークネスドラゴンを出そうとしたらタックから待ったが入った。

 そのままタックに壁際まで連れて行かれ小声で尋問を受けた。


「ねぇねぇアスラム。今、何を出そうとしたの?」

暗黒龍ダークネスドラゴンだが」

「ダメ――――――――!! そんな伝説にしか出てこないものを出したらダメだから!」

「だが、他には未解体など……まだあったぞ。シャークダラーという鮫の魔物だ。雷魔法で一網打尽にして大量に獲った事があってな、多すぎて解体できなかった残りだ。こいつらの解体は少々特殊でな……」

「それもダメ――!!」

「これもか、お前達姉弟は注文が多いな。だったらこれはどうだ。ワイバーンだ。スカイドラゴンが眷属として連れていてな、結構な数の群れだったんだ。何体かは解体したんだが、それほど美味くないので途中で放置したんだ。あとは収納の肥やしになってたもんだ」

「……それならギリありか……な!?」

 タックの後ろに熊がいた。


「おい、お前ぇら。全部聞こえてんだよ。シャークダラーだぁ? ワイバーンだぁ? 本当にあるんなら見せてみな。全部、儂が解体してやんぜ」

「だが、シャークダラーの解体は特殊で難しいぞ」

「そんなこたぁ知ってんだよ。つべこべ言わずに出せったら出せ」

 初めの暗黒龍ダークネスドラゴンは聞こえて無かったのか? 一言も言わなかったな。ま、解体してくれると言うなら出すか。


 まずは一体、シャークダラーを出した。全長五メートルの巨大な鮫の魔物だ。


「ホントに持ってやがった! しかも鮮度がいいじゃねぇか! こりゃ腕が鳴るぜ!」

 出したらすぐに頭を切断し、逆さに吊り上げた。続いて腹を下から掻っ捌き、血抜きと同時に内臓を全て掻き出した。

 こいつ、知ってるな。完全に力技だが、伊達に熊? じゃないな。だが、俺なら重力操作で浮かせて頭と尾を切り、逆さ吊りにして血抜きをし、頭を切った所から先に内臓を全て掻き出してから腹を切るがな。その後に三枚に卸せば美味い身になる。

 そして、魔石を取るのは最後だ。あのやり方だと、手順が少なくて早く捌けるだろうが、僅かだがアンモニア臭が残るのだ。熊? は、内臓を掻き出した時に魔石も一緒に取り出してたからな。


「さあ、もっと来い! まだ持ってんだろ!」

 仕方が無い、出してやるか。どうせ今後も解体する予定も無いからな。

 一体目は素早く三枚に卸していた。

 次を出すと、素早く下処理をしてすぐに三枚に卸す。

 次、また次と、どんどん出してやった。


 最終的に五〇体で終えた。まだあったが、場所を広げすぎてに少休憩となったからだ。

「よし、解体料として一体分頂くぞ。それと小僧のランクはBでいいだろ。これだけの物を持っててDランクはねぇわな。そっちの兄ちゃんのランクは?」

「はい、Dになりました」

「だったら兄ちゃんはCだな。儂から報告しといてやるぜ」

「それなら姉ちゃんもいるんです。強さは僕と同じぐらいです」

「そうか、姉ちゃんもCにするよう言っといてやるぜ」

「ありがとうございます!」

「じゃあな!」

 颯爽と倉庫から出て行く熊? やり切って満足したのか上機嫌で鼻歌を歌いながら出て行った。


 おい! この残った解体済みシャークダラーはどうするんだ。買い取ってくれるんじゃないのか?

 いくら姉弟が大食らいだと言っても、三人で一体も食べられないぞ。やれやれ、結局手数料文の一体を残し、収納の肥やしに逆戻りしただけだな。喜んだのは熊? だけか。

 タック達のランクも上がったようだし、まぁヨシとするか。だが、熊? にランクアップの権限なんてあるのか? あいつはただの買い取り係じゃないのか?


 買い取り受付に戻ると、熊? が待っていた。

「ほらよ」

 と、金貨袋を出してきた。

「兄ちゃんの分だ。素材だけで大金貨一枚と金貨七二枚と銀貨三五枚とは大したもんだ。もし、討伐依頼が掛かってたら大金貨二枚は超えてたぜ」

「お、大金貨……凄い」

 がははは! と、タックの背中をバーン! と叩く熊? 「あと、肉もあったらよ」とか「解体も儂にさせれば、もっとあったぜ!」という声もタックには届いてなかった。


 目をまんまるにして大金貨を手に驚いているタック。

 なるほど、白金貨でミャールがあーなってしまったのも少し納得だな。


「そっちの小僧には無い。その代わりランクアップには口添えしてやったぜ。もう変わってんじゃねぇか?」

 言われてカードに魔力を通して確認したらBランクに変わっていた。

 「いいもん解体させてくれたからよ」という熊? だが、さっきのタックへの言葉といい、こいつの基準がズレてるのは俺でもわかる。

 タックもCランクに変わったようで隣で喜んでいる。パーティランクもBに変わっていた。


「シャークダラーは買い取れないのか」

「ん? 買い取り希望だったか? 売りてぇんなら買い取るぜ。魔石も込みで一体金貨十五枚でどうだ」

「金には困ってないが、食う予定も無い。そもそも全部は食えん」

「わかった。何体売ってくれるんだ」

「四〇体売ろう」

「わかったぜ。さっきのとこに出しといてくれ。その間に金は用意する」

「うむ。いくらか引かれるのか? 商業ギルドでは二割引かれたが」

「あー、そういう面倒なのは冒険者ギルドでは先に引いての買い取り価格だ。商業ギルドと違って、こっちの奴らは計算が苦手だからな」


 俺は別に計算が苦手では無いが、集計後の手取り額だけの方が面倒が無くていいな。

 俺が倉庫に向かうと、タックも後ろから付いて来る。


「えーと…四〇体で、一体が金貨十五枚で……金貨六〇〇枚―!」

「そうだな」

「凄っごーい! アスラム、超お金持ちじゃん! 金貨六〇〇枚って言ったら大金貨六枚だよ!」

 ……白金貨の事は黙っておこう。


 倉庫でシャークダラーを出すと、また買い取り窓口へ戻った。

 戻る途中でタックが質問して来た。


「ねぇアスラム。あんなに大雑把な置き方で構わないの?」

「あの倉庫には状態保持の魔法陣があった。だから大丈夫だ」

「え? そんなのどこにあったの? 全然分からなかったけど」

「床の下や壁の裏や天井まで魔法陣が描いてあったな」

「アスラムはよくわかるね。ホントそういうとこだけは凄いんだよねぇ」

 だから姉弟揃って『だけ』は余計だ。


「それと、魔石は出さなくてよかったの? 結構あるんだけど」

 解体の時に取った魔石は別にして持たせている。


「ああ、魔石は魔道具を起動させるのに必要だ。後から買えるかもしれんが、素材が売れるのなら売る必要も無いだろう」

「魔道具かぁ。魔道具もいいけど魔道武器もいいよね」

 魔道武器な。俺が作った武器は自分の魔力を使うものが多いが、こいつらに渡してる武器は魔石を使ってるからな。魔力切れを起こした時の補充にも使えるし、魔石はいくらでも持っていた方がいい。収納しても、そんなに場所も取らないしな。


 買い取り窓口に戻って金貨袋を受け取る時に、商業ギルドカードを使ってお金をしまうと、熊? が「プラチナカードか!」と驚いていた。

 そんな熊? はスルーして依頼ボードに戻ってみると、ミャールを見つけた。ミャールはオーク討伐の依頼を受ける手続きをした後、ずっと依頼ボードとにらめっこをしてたようだ。

 ミャールは字が読めるのか? タックは読めるようだから、ミャールも読めてもおかしくないんだが、どうなんだろうか。


「姉ちゃん、こっちは終わったよ。僕達、大金持ちになった!」

「白金貨!?」

「そこまでは無理だよー。でもね大金貨一枚と金貨七二枚と銀貨三五枚もあったんだ。凄くない?」

「……凄いわね」

「なんだよ、姉ちゃん。嬉しくないの?」

「……嬉しい…わよ?」

「なんで疑問系? あんまり嬉しく無さそうだね」

「う、嬉しいに決まってるじゃないの。それより、これ見て」

 ミャールの示す依頼書に注目した。


「達成料、白金貨一枚! これを受けるわよ!」

 お金の事は読めるんだな。だが、金額だけで決めていいのか。


「姉ちゃん、それ『魔の森の主』討伐って書いてあるよ。僕達が通ってきた『森の主』の事みたいだけど」

「……そ、そうなの? あの森のね……」

 依頼内容をタックに教えてもらい、森の魔物の事を思い出し、一気に意気消沈するミャールだった。が、ある事を思い出し、気を取り直した。


「ねえアスラム。これってさぁ、レオの事じゃない? あなた、レオに『森の主』になれって言ってたでしょ?」

「ああ、言ったな」

「やっぱり!? だったらレオを連れて来たら依頼達成じゃないの!」

 連れて来る=依頼達成=討伐ではないのか? ミャールは俺に殺すなって言ってたはずだが。


「殺すのか」

「えー!? レオを? 殺すわけ無いじゃん! ちょっと来てもらうだけよ」

 レオフラフィが来ると軍隊が出てくると言ってなかったか?


「連れて来ていいのか?」

 というか、連れて来るだけで依頼達成になるのか?


「ちょっとぐらいならいいんじゃない?」

「ダメだよ姉ちゃん! ヤバイって!」

「でも、白金貨よ! レオに頼んでみよっか」

「何を頼むのだ。それに、奴はまだ主にはなってない、もうすぐなるだろうがな。この『森の主』というのは、恐らく途中で倒したグリフォンロードか……いや、違うな、あいつの事か」

「確かにグリフォンロードは強かったよね。アスラムもグリフォンロードがあの森で一番強いって言ってたから、あれが主よね」

「でもさ、さっきグリフォンロードの素材も出して来たけど、依頼のものは無いって言われたよ」

「じゃあ、違うのかしら。あれだけ強かったのに?」

「ああ、俺達が通って来たあの森が魔の森で合ってるのなら、ぬしはあいつだろうな」

「ええ!? グリフォンロードより強いの!?」

「いや、強さだけならグリフォンロードの方が強い」

「じゃあ、楽勝じゃない! これ受ける!」

「いや、辞めた方がいい。それを受けるぐらいならレオフラフィが主になった後に、レオフラフィを倒す方が楽だ」

「えー! そんなの可哀想じゃない! レオは絶対に殺さないの! それにレオって凄く強くなってたのよ? 今だったら全然敵わないと思うけど」

「ああ、お前達では敵わないだろうな」

「じゃあ、なんでそんな事言うのよ」

「お前達とは非常に相性に悪いやつだからだ」

「相性?」

「アスラムは主がどんな魔物だか知ってるの?」

「ああ」

「知ってるなら、それを先に言いなさいよ」

「うん、僕も知りたい」

「ニンフだ」

「「ニンフ?」」


 ニンフとは、トレントやエント、ドライアドなどの樹の魔物の総称であり、トップの個体名でもある。

 森の樹の魔物達は、命令系統がしっかりしていて、トップからの指令には従順だ。

 樹の魔物だから居場所を特定できれば動けないので攻略は難しくないのだが、森全体が敵となるため、ニンフを倒そうとすると、森全体を相手にしなければならない。

 今回、森を通りぬけた時には極力、樹の魔物には手を出さないようにして来た。ニンフを敵に回すと厄介だからだ。

 この『魔の森の主討伐』依頼は、ニンフ討伐である。討伐に行けば、奴らもそれを察するだろう。そうなればニンフに辿り着くまでに、相当な邪魔が入ると予想される。

 しかも、樹の魔物が得意とするのは精神干渉魔法だ。これはこの姉弟には非常に相性が悪い。

 奴らは、まず視覚、嗅覚から攻めて来る。獣人である姉弟は視覚も嗅覚も人間より並外れて優れている。レベルが上がった事で、それがより顕著に出ている。

 そんな姉弟が討伐に行った所で樹の魔物の格好の餌になるだけだ。この依頼は辞めた方がいい、命を無駄にするだけだ。

 いや、待てよ。そうか、いい事を思いついたぞ。


「その依頼を受けよう」

「え、いいの?」

「でも、さっきはダメって言ったよね?」

「ああ、依頼はパーティとして受けるが、仕事は俺一人でやる」

「それはダメよ! だって初仕事だもん!」

「そうだよ、そんなのおかしいよ。僕だって役に立つから」

「お前達が来ると足手まといになるだけだ。それに初仕事はオーク討伐だ、何の問題もない」

「えー、そんなぁ」

「僕だって役に立つのにー」

 俺の役立たず発言にしょげる姉弟。だが、次の言葉で復活した。


「もちろん、お前達にも役に立ってもらう」

「ホント!?」

「僕も!?」

「ニンフを倒すには、初手でどこまで近づけるかに係ってる。それで、お前達にはオークの群れを討伐しまくって、奴の気を逸らしてほしい」

「オークの群れを倒すだけでいいの?」

「なるべく派手にな」

「それって陽動だね。わかったよ、一緒に行けないのは残念だけど、それが主討伐に繋がるんなら頑張るよ」

「少しは期待している」

「そこは凄く期待してるって言うところよ?」

「そうだよ、僕だって強くなったんだから」

「討伐達成証明はなんだ。ここには書いてないぞ」

「ちょっと聞いてる?」

「ダメだ、姉ちゃん。こうなるともう、アスラムには僕らの常識が通じないよ」

「受付で聞いてくる」

「ホントに、もう……」

「だね…」

 姉弟を残し、一人で受付に向かった。



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