15 第13話 冒険者登録
商業ギルドを出ると、予定では冒険者ギルドだったが、先に食堂へ向かった。
食堂ではオークキングステーキとまでは行かなかったが、オークステーキを気の済むまで食べた。
姉弟は「僕の焼いた方が美味しいね」とか「オークキング~」とか文句を言ってたが、十枚ずつペロリと完食していた。
俺も、他人が作ったものはどんな味だろうかと興味津々で食べたが、大した味では無かった。【解体】が下手な奴が解体した肉をタックが焼くとこんな感じになるだろうという感想だ。
それでも、オークステーキ一枚で銀貨二枚取られた。王都だから物価も高いのだろうが、少々納得は行かなかった。
支払いは俺が済ませ、店を出た。次はいよいよ冒険者ギルドだ。
俺は何も期待はしていないのだが、ミャールのテンションがおかしい。
食堂でトリップ状態からは元に戻ってたはずなのだが、冒険者ギルドに着くと、変なスイッチが入ったようだ。
「さぁ、行くわよ!」
と、先頭になって冒険者ギルドの扉を潜って行った。
今は昼過ぎ、ギルド内にいる冒険者の数は少なかった。
ここは商業ギルドとは少し造りが違って、受付窓口は三つ。登録窓口は兼任してるようだ。
その代わり、一番奥に買い取り窓口があり、大きくスペースを取っていた。
逆の隣が酒場兼食堂になってるようで、入り口は外だが、このフロアとも繋がっていた。扉が閉まっていてここからは中は見えないが、営業中のようだ。
俺達は今食べて来たところなので食堂には興味はないが、買い取り窓口には興味が沸いた。
お金はいらないのだが、いくらで買い取ってくれるのかには非常に興味がある。買い取り表みたいなものがあれば貰えないだろうか。
そんな事を考えながらミャールの後ろを付いて行った。
「すいません、登録をお願いします」
テンションは上がってても、言葉は普通に話していた。顔は満面の笑顔だけどな。
「あら、登録するの? 新規登録?」
受付は女性が多いのだろうか。さっきの商業ギルドもそうだったな。そして共通する所はそれだけじゃないな。胸がデカイ。そういう決まりでもあるのだろうか。
しかし、商業ギルドに比べて砕けた感じの受付だな。ギルドによって、こうも違うのか。
「はい、新規です。あ、私と弟はもう登録していてFランクですけど、この人が新規なんです。そして! パーティ登録もしてほしいんです!」
最後のところに力を込めて言ったな。本当にパーティ登録したかったんだな。
「三人いるわね。じゃあ、先に新規登録を済ませましょう。この用紙に記入してね、字は書ける?」
「はい、大丈夫です」
ミャールが用紙を受け取り、俺に渡してくれた。もう張り切りまくってるな。
やはりここでも名前と年齢だけを書いて提出した。
「じゃあ、次はこっちの水晶玉に手を翳して」
言われた通り手を翳すと、受付姉さんは水晶玉の向こう側に出ているだろう何かをジッと見て、俺の提出した用紙を見てこちらに向き直った。
「結構よ、説明はいる?」
「いえ、私が説明しましたのでいりません」
確かに説明は受けたが、薬草採取の注意点しか聞いてないのだが。
「そう。じゃ、これが冒険者カードね。パーティ登録はこちらですると反映されるから後でするわね。先にそのカードに魔力を通してみて」
魔力を通す? 武器に魔力を通す感じか?
渡されたカードに魔力を通すと、上手くできたようで、カードに文字が浮かび上がって来た。
パーティ名 ―――
名前 アスラム
年齢 15
性別 男
ランク G
これだけか。便利そうだが、これで何が分かるんだ。
「これだけって顔してるわね。もちろんそれだけじゃないわよ。あなたのレベルは25。他もステータスも分かるんだけど、それは有料なの。もし見たければ銀貨五枚で教えて上げられるわよ。レベルだけは初回サービスで教えて上げられるんだけど、これも次からは有料ね。こればっかりは規則だから許してね」
「いや、結構だ。それより一つ聞きたい」
「なぁに?」
「この冒険者カードというのは身分証明となっていて町にも自由に入れると聞いたが」
「ええ、入れるわよ。それがどうかした?」
「なら、隣国はどうだ」
「国境を越えるの? Aランクになれば冒険者カードだけで越えられるけど、Bランク以下だと手続きが必要ね。他国でもカードは共通だから町に入る時の身分証にはなるわよ」
「そうか」
「それで、パーティ名は決まってるの?」
「ああ、それは……」
ミャールが、と言おうとしてミャールに視線を移すと、凄い顔で驚いていた。妙な気配を感じタックを見ても同じ顔で驚いていた。
「に…にじゅうご?」
「……にじゅ?」
あー、そっちか。【鑑定偽装】でレベルも偽装してるからな。現在はレベル143だが、本当のレベルを教える必要は無い。
魔王戦の時もそうだった。魔王は【鑑定】を出来る眼を持っていたから、欺くためにもステータスを偽装していた。その時から二人目の魔王を倒すまでずっと偽装していたが、ほぼバレる事は無かった。二人目の魔王にもバレなかったしな。
誰が作ったか知らないが、たかが鑑定水晶ごときで俺のステータス偽装を見破れるはずがない。
だが、お前達がそんな態度を取ったら折角の偽装がバレるだろ!
「おい、ミャール。おかしな事を言うなよ」
と、少し殺気を出して威嚇しておく。
何かを思い出したようにコクコクと肯くミャール。後ろでタックもコクコク肯いていた。
「パーティ名を聞かれてるぞ」
俺の言葉で思い出したのか、バッと顔を受付に向けてパーティ名を叫んだ。
「『惰眠を貪る猫』でお願いします!」
勢い良く受付に乗り出すミャール。驚いた受付姉さんはミャールから視線を俺に移し、『いいの?』みたいな顔を向けてくるが、こればっかりは反対できない。ミャールがずっと言い続けてた事だからな。
その代わりと言ってはなんだが、一つ質問してみた。
「パーティ名はそれでいいんだが、もし誰かが抜けて二人になると解散になるのか」
「いいえ、ならないわよ。一度結成したら解散届けが出るまでそのままよ。例外としてパーティ全滅ってのがあるけど、一人になってもパーティ名は消えないわよ」
ヨッシャー! っと声を上げてガッツポーズを作るミャール。
確かに夢が叶ったのだからガッツポーズも出るか。
「それでリーダーは誰なの?」
受付姉さんの声に反応して手を何度も上げるミャール。
「はいはいはいはいはいはいー! 私でーす!」
またまた受付姉さんが『いいの?』って顔を向けてくるが、これもミャールが言い続けて来た事だからな。一つ肯いて了承のサインを送った。
受付姉さんが了承し、何かゴソゴソやったあと、「確認して」と言われて冒険者カードに魔力を通しを確認すると、パーティ名に『惰眠を貪る猫』が出ていた。
ミャールのカードを見せてもらうと、『惰眠を貪る猫』の右側に『L』と入っていた。リーダーという意味なのだろう。
「じゃあ、早速『惰眠を貪る猫』としての初仕事を受けちゃおう! 薬草採取、行くよ!」
「……」
「……」
「あれ? 二人とも何してんの? ほら、早く行くよ」
「ちょっと姉ちゃん、いつまで薬草採取するつもりだよ。もう僕達、薬草採取は卒業だろ?」
「何言ってんのよ、『惰眠を貪る猫』はFランクなんだから薬草採取に行くに決まってるじゃない」
「いやいや、他もあるだろうから、依頼ボードを見てみようよ」
「んー、仕方が無いわね。でも見るだけだからね、薬草採取には行くんだからね」
「いつから姉ちゃんがそんなに薬草採取好きになったんだよ。いつもどうやってさぼろうかとしてたじゃないか」
「そんな過去もあったかもね。でも、正式に『惰眠を貪る猫』のリーダーになったからには、ちゃんと薬草採取をするのよ」
「勝手言ってら。おっ! オーク討伐あるよ、姉ちゃん。もしかしたらオークキングがいるかも」
「え! オークキング!? ジュル…行く行く、絶対行くー!」
依頼ボード前でいつも通り騒がしくする姉弟。俺はまだ聞きたい事があったので受付に残っていた。
「大変ねぇ、あの娘がリーダーで大丈夫? レベルは一番高いようだけど、一番リーダーには向かないように見えるけどねぇ」
何年も冒険者を見てるからか、それなりに評論してくれる受付姉さん。
今の俺はレベル25に偽装してるし、ミャールがレベル73、タックがレベル72だから、ミャールが一番レベルが高いと認識されている。俺の本当はレベル143なのだが。
「ま、今のとこ作戦は俺が指示を出すから問題ない。それより聞きたいんだが、買い取り表は無いのか」
「指示はあなたが出す…ねぇ。レベル25のあなたが? おかしな話よねぇ……そうそう、買い取り表だったわね、全部は載ってないけど、これにある程度載ってるわよ」
疑い深い目で見られたが、買い取り表は差し出してくれた。弱くてもブレイン的な役割の者もいると思うのだが。
しかし、更に砕けた感じになって来たな。これが本来の姿か。
俺が差し出された紙を取ろうとすると、ひょいと紙を引っ込める受付姉さん。
代わりに空いてる左手を差し出してきた。ひょいひょいと掌を見せた。
「それは何の真似だ」
「何のって、金よ。代金を払いなさいって事。そんな事も知らないの?」
「……いくらだ」
「銀貨一枚…と言いたい所だけど、一つ頼み事を聞いてくれたらタダでいいわよ」
俺は受付姉さんの言葉を無視して銀貨一枚を置いた。プラチナカードがあるから銀貨はあるのだ。
「面倒事はもう腹いっぱいなんだ。他を当たってくれ」
そう言って姉弟の方を親指で示した。
受付姉さんも「確かにねぇ」と納得して諦めてくれた。
「だったら、一つ伝言よ。あなた達『惰眠を貪る猫』はレベル査定で今からDランクになったから薬草採取はいいけど、ゴブリン討伐なんかの低ランク依頼はできないからね。そうあの子達に伝えといて」
いつ変わったと連絡があったのだろう。さっきの鑑定水晶玉といい冒険者ギルドも色々と便利魔道具があるようだ。もしかしたらスキルかもしれないが、受付全員が同じ事をできるスキルを持ってるとも限らない。恐らく前者だろう。
去り際に、あんたのランクも変わってるから、ちゃんと見とくんだよ。と言われた。確かにEランクに変わっていた。冒険者カードとはどういう仕組みの魔道具なのだ? すぐにでも解析したいところだな。
依頼ボードに行くと、普通にテンプレ通りに姉弟が他の冒険者に絡まれていた。
ま、あれだけ騒いでいれば喧嘩を売られる可能性はあったな。しかもFランクを連呼してるのにオークキングと騒いでるのだ。世間知らずの俺でも悪目立ちする立ち居振る舞いだ。絡まれる要素はいくらでもあったな。
幸い、冒険者の数が少ないので、そう大事にはならないだろう。
あっ! マズイ!
ミャールが振るって来た拳を交わして反撃に出た。こちら側の冒険者に向かってパンチを繰り出した。
俺はダッシュで冒険者の脇をすり抜け、ミャールの右腕の付け根に掌底を当てた。吹き飛ばす目的ではなく、止めるために当てたのだ。
何とか間に合い、ミャールのパンチは途中で止まった。それでもパンチの余韻があったので、その余韻の風圧だけで対峙していた冒険者が少し吹き飛んだ。
タックを見ると、やはりこっちも同じだった。
だが、こちらはもう遅かった。
相手から繰り出されたパンチを払っただけで、相手の腕が折れてしまった。すかさず回復を施した。
【一指回復弾】
折れた腕がすぐに回復した。痛みはあっただろうが、相手は折れた事には気付いてないだろう。
二人共、武器を抜かなかったのは立派だが、人間相手にはもっと手加減を覚えないとな。魔物相手ならいつも全力でいいが、人間相手なら殺さないように手加減をしないとダメだ。
俺には相手のレベルが分かってたが、姉弟には分からなかったのだろう。後で教育だな。
「何で喧嘩になってるか知らないが、ミャールもタックも相手を殺す気か。なぜ全力なんだ、相手が死んだらお前達は犯罪者になってしまうんだぞ」
「……ゴメン、アスラム……」
「……ごめん、リーダー失格かな……」
ふっ、こうやってすぐに反省できる所が、こいつらのいいところだな。
しかし、こいつらといると忘れていた過去の記憶も所々だが甦ってくるな。犯罪者か……そんなの俺には関係なかったのにな。
「リーダーになったばかりで失格もなにも無い。そんなリーダーに伝言だ。二人とも冒険者カードを見ろ」
「うわっ! 私、Dランクになってる!」
「おお! 僕もだ! パーティランクもDだよ!」
俺が止めに入った事と、ランクアップに喜ぶ姉弟に毒気を抜かれたか、はたまた自分達よりランクが上だったので諦めたかは知らないが、絡んでいた冒険者達も去って行った。
「上がってる事が確認できたな。ランクによって依頼も変わると言ってたぞ。だが、薬草採取はアリだとも言われた」
「やっぱり薬草採取は最強ね」
「意味が分かんないけど、今更薬草採取に行く意味ある?」
ここにも大量に持ってんだけど、と収納バッグを叩くタック。
「バカねぇ、薬草はどこの冒険者ギルドでもいつも不足してるのよ。だからランク上げにはもってこいの依頼なの」
「薬草採取でランクが上がるの? でも、僕は魔物討伐の方がやりたいな」
「それはやればいいのよ、私もやるよ? 移動中なんかに薬草採取すればいいのよ。食後とかね」
「それいいかも。姉ちゃんは料理しないんだから、僕が料理してる時に薬草採取に行って来てね」
「うぐっ、薬草採取はみんなでやるもんなの」
「だったら姉ちゃんも料理を覚えればいいんだよ」
「私はリーダーだからいいの!」
やはり賑やかな姉弟だ。
「それで、何か依頼を受けるのか?」
「うん、オーク討伐を受けようと思うんだ。依頼のランクもDだし丁度いいからね」
「もしかしたらオークキングがいるかもしれないでしょ?…ジュル」
やはりお前達は肉中心思考なんだな。
「依頼は任せる。それより、森で獲ったものを売りたい。お前達もあるんじゃないか?」
「そうだね、色々あるよ。じゃあ、姉ちゃんはこのオークの依頼を受けて来て。僕とアスラムは買い取り窓口に行ってくるよ」
「リーダーとしての初依頼。むふー! たぎるわね」
やる気満々のミャールであった。




