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14 第12話 商業ギルドで売る


 商業ギルドに戻り、受付を見てみるが、タックの姿は確認できなかった。どこか別室でも行ってるのだろうか。

 【周辺探索サーチ】で確認すると、思った通り別室で誰かと話をしているようだ。内容までは分からないが、脳内マップでは相手が緑色で標されているから敵ではないという事だ。味方を標す青でもないが、中立の緑だから問題は無いだろう。


 タックの事は放置で良さそうなので、俺はミャールと共に受付に行く。

 向かって一番右が登録窓口なので、登録をしない俺には関係ない。

 別の窓口で、一番列の短い所に並んだ。


 順番が来たので用件を言った。

「ダイヤを売りたい」

「え? あ、はい、買い取りですね。ようこそ、商業ギルド王都本店へ。ダイヤの買い取りという事ですが、商業ギルドへの登録はお済みですか?」

「いや、入ってないし、入る気も無い」

「……では、商業ギルド会員以外の買い取りになりますが、それだと買い取り価格の五割を納めて頂く事になります。それでも構いませんか?」

「構わん」


 買い取り価格が銀貨十枚としても、銀貨五枚は残るわけだ。足らなければ数を売ればいいし問題ないだろ。


「……では、そのように……」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 横で聞いていたミャールが口を挟んだ。


「はい、どうされましたか?」

「あの…まずは、言葉が乱暴ですみません。この人、田舎者であまり人と話した事がないもので」

 俺の話し方をミャールが謝罪した。

 どこがマズかったのだろうか。


「いいえ、お気になさらずに。こちらは気にしていません。それで、何かご用ですか?」

「あ、はい。もし、商業ギルドに登録すると何割になるんですか?」

「商業ギルド会員ですと、二割分支払って頂ければ結構です。登録費は最低ランクで銀貨一枚頂きますが、今後も売却されるのでしたらお得かと思います」


 ミャールがなにやら考え始めたが、算術の苦手なミャールにそんな計算ができるのだろうかと訝しく思っていた。


「登録は窓口が違うようなので、この後すぐに登録します。会員扱いでお願いできますか?」

 ミャールは計算した結果、登録する事を選んだようだ。

 どんな計算したんだろうか。だが、割合だと十までだから意外と計算できるかもな。


「はい、それは構いません。ご登録頂けるのですね、ありがとうございます。登録については、専用窓口で詳細をお伝えしますので、まずは売却したいダイヤを見せて頂けますか?」

 受付の女性に促されて、俺はダイヤを五つ出した。

 ミャールに言われて用意していた布袋に入れておき、その布袋を受付テーブルに置き、その中から一つ一つダイヤを取り出した。


 一つ取り出す毎に、受付の女性の目が大きくなって行く。三個目以降は「ひっ!」と小さな悲鳴も漏れていた。

 受付テーブルに五個並べた時には、瞳孔が開いてるんじゃないかと思うぐらい大きく目を見開き瞬きもしない受付の女性。

 それを見たミャールは「あちゃ~、やっぱりか~」と言って額に手を当てていた。

 ミャールが受付の女性に「あのー」と声を掛けているが、受付女性はダイヤを見たまま動かない。


 このままジッとしていても無駄なので、一番気になる事を聞いてみた。

「いくらだ」

「は、は、はひ?」

 俺の声は届いたようだ。少し声が裏返ったようだが返事はしてくれた。


「いくらだと聞いている」

「は、はひ…白金貨一枚は行くかと……」

「白金貨!?」


 白金貨とはなんだ。ミャールは知っていたようだが、俺には教えてくれなかったな。銀貨か銅貨じゃないと使えないのだが。


 一応、姉弟にお金の常識は習った。

 一般的に良く使うお金として銅貨と銀貨があるという。銅貨が百枚で銀貨一枚になり、銀貨百枚で金貨一枚になるという。まぁ、計算はしやすい。

 価値としては、ミャールの好きなオークステーキが銀貨一枚、宿に泊まるには銀貨三枚程度。町で売ってるパン一個が銅貨一枚、果実汁も銅貨一枚。姉弟は二人部屋だったので一泊銀貨五枚だったそうだ。

 姉弟がよく行ってた食堂では、一人前の食事が銅貨四〇枚~銀貨一枚ぐらいが相場だったらしい。


 ここは王都だから物価もザッツェランドより高いと思うし、銀貨五〇枚ぐらいは最低でも確保しておきたいところだ。

 白金貨が何か聞いてないので分からないが、一枚では困る。せめて五〇枚は確保しなければな。


 そう思ってミャールを見るが、ミャールもなにやらブツブツ呟いていて俺の視線に気付かない。

 仕方が無い、五個出しても一枚にしかならないのなら、ワンランク上のものを出すしかないな。

 そう思って、十センチ大のダイヤを一つ出した。

 俺が持ってるダイヤの中では中の中と言ったところか。これでも足りなければ更に大きなものを出すか、それとももっと数を出すか。いや、別のものの方が高く買い取ってくれるかもな。


「これで五〇枚にならないか」

 ドンっと出された十センチ大のダイヤを見て震えながらカクカクと肯く受付女性。スムーズな動きができていない。先程まで見せていた洗練された動きの片鱗も無い。


「……す、すいません…このまま、このまま、このまま……」

 受付女性がやっと声を絞り出すと、落ち着かせるように両手をパーにして、受付テーブルに出されたダイヤには触れないようにして『このまま、このまま』と言って席を立ってどこかに行ってしまった。

 少しふらついてたようだが大丈夫だろうか。最近、使える事を思い出した回復魔法でもかけてやろうか。


「どこへ行ったんだ?」

 と、ミャールに声を掛けるが、目が金貨になってて正気とは思えなかった。

「オークキングのステーキ……ファイアバードの串……豪華な宿……タックルボアの丸焼き……ホーンブルの鉄板焼き……」

 呪文のように呟くミャールは当分戻って来ないだろうな。

 目が金貨からマンガ肉に変わっていた。


 実はミャールも白金貨は話でしか聞いた事が無い。この数ヶ月は、金貨すら見た事が無い。

 そんな彼女が白金貨と聞いただけで、トリップしてしまうのも致し方ない事だった。


 待てと言われているので、この場から動く事もできない。

 列の後ろは並んでいるし、後ろからの視線が痛い。俺が悪いのではないと言いたいが、目立つのは辞めろと言われたばかりだ。ここは大人しく待つしかないか。


 少し待つと、男性事務員が出て来た。ツカツカと急ぎ足で俺達の所まで来ると自己紹介を始めた。


「お待たせしました。私がこの商業ギルドのサブギルドマスターをしているラッツェンです。あなたが買い取り希望のお客様ですね」

 と、到着するなり自己紹介を始めたのでダイヤに気付くのが遅れたみたいだ。


「うおっと、これは凄い……いや、失礼しました。それでは別室で商談と参りましょう」

 それだけ言うと、副ギルドマスターのラッツェンは、手袋をはめ、ダイヤを一つ一つ丁寧に個別に袋に入れていく。

 入れ終えると、掌大の小さな収納バッグに収納し、俺に渡してきた。


「さ、行きましょう」と促されるまま、未だトリップ中のミャールの手を引き、ラッツェンに付いて行った。

 別室に着くとそのまま四人で着席した。

 あちら側は副ギルドマスターのラッツェンと受付女性のフラーヴ。

 こちらはアスラムとミャールとそれぞれ自己紹介を済ませた。フードは被ったままだが、初見の奴らに黒髪黒目を晒すのは躊躇われる。顔は見せているし、フードはこのまま被っておこう。


 そして、先程渡された収納バッグをラッツェンに手渡すと、ラッツェンが中身を取り出し机の上に並べた。


「この部屋には遮音魔法が掛けられていますので、よほどの大声を出さない限りは外には漏れません。もっと機密性の高い商談では盗聴遮断が掛かった部屋に行きますが、今回はここで十分だと判断しました」

 こちらに不足が無い事を確認し、ラッツェンが話を続けた。


「今回、ダイヤを売って頂けるとお伺いしています。このダイヤで間違いございませんか?」

 俺が肯くと、更にラッツェンが話を続けた。


「全て当商業ギルドで買い取りでよろしいですね? もちろん適正価格で鑑定させて頂きますが、鑑定額が分かった後に売らないとおっしゃられても高額の鑑定料が発生する事をご了承頂けますか?」

「他所で売るつもりは無いから構わん。それでいくらになるんだ」

「ご了承頂きありがとうございます。価格については今から鑑定させて頂きますが、少々時間が掛かります。その間に登録を済ませて頂ければよろしいでしょう。私はこの部屋で鑑定しておりますので、登録が終わりましたら、この部屋まで戻って来てください。案内にはこのフラーヴを付けますので、登録もすぐに済むでしょう」


 確かにミャールが登録するって言ったな。俺には登録するなと言っていたから自分が登録する気なんだろうか。

 だが、トリップは終わったようだが放心状態のようだし、ミャールは動けそうに無いな。俺が登録してもいいのだろうか…判断に困る。


「では、早速ご案内します。おや? どうなさいましたか?」

「い、いや、俺はこの後、冒険者ギルドで登録する事になっている。こちらでも登録してもいいものかどうか分からないんだ」

「それならご心配には及びません。複数のギルドに登録すると登録料などのデメリットはございますが、出来ないわけではございません。複数のギルドに登録している方も少数ではありますがいらっしゃいます。それに、これだけのダイヤを売却していただけるのでしたら、更新費も免除させて頂きます。もちろん、今回の登録料もサービス致します」


 ほぉ、商業ギルドとはサービスがいいのだな。

「毎年ダイヤ一個で更新費も免除か」

「はい、大きさが大きさですから、一年間免除させて頂きます」|(大きいですから)

「ふむ、大きさか……だが、一年免除だと分かりやすくていいか」|(小さいのだから仕方が無い。数を出すか)

「ええ、大きさです」

「大きさだな」

「ふふふふふふふ」

「ははははははは」

 この女とは気持ちが通じ合ったようで気分がいい。よし、三〇年免除にしておこう。次に町に入るのがいつになるか分からないからな。


 ガラガラガラガラガラ……


 三〇個の五センチ大のダイヤを机に出した。

「これで三〇年免除でいいか?」

「「!!!!!!」」


「こ、これは……」

 驚く二人に答えてやった。

「三〇個だから三〇年の更新料が免除。合ってないか?」

「……フラーヴ、登録カードをミスリルカードで手配しなさい」

「……はい、承知いたしました」


 登録受付には行かなかった。フラーヴが用紙と水晶玉を持ってきて、門の時と同じく名前と年齢を記入すると、水晶玉に手を置き登録完了。

 その手配に部屋を出て行こうとするフラーヴを副ギルドマスターのラッツェンが止めた。


「フラーヴ、少し待ちなさい」

「え? は、はい」

「登録カードを発行する前に、一つ気になる事がありますので、それを確認してからにしましょう」

「は、はぁ」

 腑に落ちない返事のフラーヴを気にせず、ラッツェンが俺に質問をして来た。


「アスラムさん、あなたに教えて頂きたい事があります」

「なんだ」

「アスラムさんは、まだ宝石を持ってらっしゃいますね?」

「ああ、持ってる」

 別に隠す事でもない。今回は無一文が嫌だったので、少しでもお金になればいいと思い売りに来ただけだ。


「どのぐらい、持ってらっしゃるのでしょう。いえ、言えない部分も多いでしょうから、私どもに言える範囲で構いません。教えて頂けませんか?」

「別に隠すほどでもない。たくさん持ってるぞ」


 宝石などに全く用は無い。武器にも防具にもほとんど使えないからな。ルビーなど少しは使える物もあるが、魔石に比べれば魔力量も少ないし、まず使う事は無い。召喚の儀式には使う事もあると聞いた事はあるが、魔石でも十分代用できるだろうしな。


「おお! それを売りに出す予定はありますか」

「別に無い。いるのか?」

「は、はい――――!!」

 満面の笑顔で返事をするラッツェン。声もデカくなってる。


「どっちだ」

「どっち…と言いますと」

「数か、大きさか、それとも種類か」

「……」

 ゴクリと生唾を飲み、一拍置いて「それならば」と、ラッツェンが質問を再開した。


「少し話が変わりますが、まずはこちらの話を聞いてください。こちらから質問をしていて申し分けないのですが、別の話をさせてください」

「何の話だ」

「アスラムさん…幻のレッドダイヤなんてお持ちでは……いえいえ、そんなはずはありませんね。今の言葉は忘れてください。これだけのダイヤをお持ちでしたので、私もついバカな事を言ってしまいました」

「あるぞ、これでいいか?」


 コトン。と、テーブルに五センチ大の赤く輝くダイヤを置いてやった。

 【鑑定】でもレッドダイヤと出てるから間違いないだろう。【鑑定】で、価格まで出てくれたら楽なんだがな。


「おおおおおお!! これはまさしくレッドダイヤ! しかも何という大きさだ!」

 一人興奮しまくるラッツェン。いや、二人か。フラーヴも一緒になって興奮してるな。これはもっと喜ばせるために更に大きい……いやいや、辞めておこう。またミャールに怒られそうな、そんな気がする。

 しかし、大丈夫か? ここは防音とは言ってたが、これだけ大音量だと声が漏れるんじゃないのか?

 そんな俺の心配をよそに、まだ二人は興奮して騒いでいる。


 俺は買い取ってさえくれればいいのだ、俺には銀貨が必要なのだからな。


「それで、これはいくらになるんだ」

「「ハッ!」」


 俺の一言で、二人の興奮が一気に覚めたようだ。

 冷静になったラッツェンが伏し目がちに回答してくれた。


「アスラムさん…いえ、アスラム様。大変申し訳ございません。大変申し上げにくいのですが、私どもにも予算がございます。今回出して頂いた分で相当の金額になります。しかし、このダイヤを捌けば予算にもかなりの余裕が出ます。それを見越してのお願いです。二週間…いえ一週間で予算を整えて見せます。予算も無いのに交渉する愚鈍な者の願いではございますが、なんとかそれまで何処にも売らずに待って頂けないでしょうか」


 レッドダイヤを買うには予算が足らない? レッドダイヤとは意外と高いのか? 確かに他のダイヤに比べると数は少ないが結構持ってるぞ。

 こいつも副ギルドマスターという割には権限が無いんだな。副ギルドマスターぐらいになれば商業ギルドの予算ぐらいどうにでもできそうだと思うのだが、そうでも無いのだな。

 俺が出したダイヤ程度でこれだけ大きなギルドの予算が揺らぐはずも無いだろうから、個人で購入するつもりなのか。そうか、個人で購入したいんだな。ラッツェン個人の予算が足らないというなら納得だ。


「さっきも言ったが、売る予定は無い」

「おお! それでは待って頂けるのですね」

 仕方が無い、こいつも小遣いが少ないのだろう。銀貨五枚は個人では大変な額だと姉弟に教わったからな。待てるだけは待ってやろう、俺にもそれぐらいの常識はあるのだ。


「いつまで待てるか分からんが、これはお前のために取っておこう」

 俺は早くこの地から移動したいが、姉弟もいるのだ。俺がいなくとも姉弟に託しておけばいいだろう。


「おお! ありがとうございます!」

 何度も頭を下げるラッツェン。隣ではフラーヴも同じように頭を下げている。

 魔石なら分かるが、たかがダイヤで大袈裟な奴らだ。



 二人の興奮が収まると、フラーヴは俺の登録の為に部屋から出て行った。どうやら俺の登録カードはプラチナになるようだ。

 フラーヴが登録を完了させ、登録カードを持って来た。それと入れ替わりにラッツェンが部屋から出て行った。

 ラッツェンがいない間に、フラーヴから商業ギルドの説明をされたが、商売をしない俺には全く関係ない話ばかりだった。唯一有意義だったのは、永久に更新料は無料にしてくれるという事だった。


 フラーヴの説明が終わる頃、ラッツェンが男性を一人連れて戻って来た。

 連れの男性は大事そうに十センチぐらいの袋を五つと更に小さな小袋を一つ抱えていた。

 その袋を机に降ろすとラッツェンから説明が始まった。


「五つのダイヤ(特大)と後から出して頂いた三〇個のダイヤ(特大)はカットも素晴らしく、白金貨一枚とさせて頂きました。そして、大きい方のダイヤ(超特大)は白金貨三〇枚とさせて頂きました。個別に少しの誤差はありますが、ダイヤ(特大)三五個で白金貨三五枚、ダイヤ(超特大)三〇枚で、計白金貨六五枚です。そこから申し訳ありませんが規則ですので二割引いて白金貨五二枚をご用意しました。どうぞお納めください」


 袋の中を確認すると、光加減によって虹色に色を変える綺麗な硬貨が入っていた。が、俺は不満だった。

 ミャールに確認してから文句を言おうと思っていたが、ミャールは再度トリップ中だ。

 一度、我を取り戻してたようだが、目の前に金貨袋を置かれて、またどこかへ旅立ったようだ。


「これはなんだ|(銅貨と銀貨が無い)」

「はい、今回の買い取り金額です」

「|(銅貨と銀貨が)足らんな」

「そ、そうおっしゃいましても、私どもとしましては、これが精一杯でございます」

「本当にこれだけか? |(本当に銅貨と銀貨は無いのか?)」

「……分かりました、白金貨をもう一枚付けましょう」


 ラッツェンは、そう言って小さな小袋に白金貨を一枚足した。これで白金貨五三枚になった。破格の上げ幅である。

 実は白金貨は、金貨百枚で大金貨一枚、大金貨百枚で白金貨一枚だから、白金貨一枚で金貨一万枚分なのだ。銀貨に換算すると百万枚分だ。銅貨だと一億万枚、町で売ってるパンが一億個買えるのだ。その白金貨を一枚上乗せして来たのだ。破格の譲歩と言えるであろう。


「だから、なんだそれは|(銅貨と銀貨がないじゃないか)」

「かなり勉強させて頂きましたが|(破格の上乗せです!)」

「話にならんな。だが、連れがこの状態では話ができん。今日の所はこれで引くが、次の時には頼むぞ|(銅貨と銀貨ぐらいは出せよ)」

「はい、もちろんでございます。あ、それと、そのプラチナカードには先程は説明しなかった目玉機能がもう一つございます。今回発行した商業ギルドカードには両替機能が付いております。プラチナカードに限り、商業ギルドの専用金庫と連動しておりまして、銅貨や銀貨や金貨を一枚からでも出す事ができます」


 ほぉ、それは便利な魔道具だな。銀貨を手に入れたら早速試してみよう。


 実演でご説明しましょう。と、ラッツェンが実際に見せてくれた。

「入金される時には、こうやって袋のままでも結構です」

 ラッツェンがそう言って、机に置いていた金貨袋にカードを翳した。

 すると、金貨袋が消え、カードに数字が表示された。

 白金貨一〇、大金貨〇、金貨〇、銀貨〇、銅貨〇、と表示されている。


 おお、これは便利だな。早速全部入れてやろう。

 金貨袋を全部入れると、白金貨五三に表示が変わったが、銀貨も銅貨も表示は0だった。

 やはり、早めに銀貨をどうにかして手に入れないとな。


 「ここからが、このカードの更に凄い所です」と、ラッツェンが銅貨一枚を取り出した。

カードの銅貨の文字を一回チョンと押したのだ。すると銅貨が一枚出てカードの表示が変わった。

 因みに後で聞いたが、長押しすると十枚出るそうだ。


「おお!?」

 おー!? 銅貨が出た? おい! 銀貨と銅貨が表示されてるじゃないか。


 白金貨五二、大金貨九九、金貨九九、銀貨九九、銅貨九九、と表示が変わった。


 しかし、白金貨しか入れてないんだぞ? どういう事だ?

 そうか、この表示の並びから行くと、白金貨とは金貨より上の通貨単位だったか。姉弟の説明には無かったから、かなり下の通貨単位だと思っていたぞ。そうか、そういう事だったか。

 という事はだ。白金貨を持ってる俺はお金持ちじゃないか、凄い勘違いをしてたぞ。

わはははは、まったく使う予定は無いが嬉しいものだな。


 そんな俺を見て、にこやかにラッツェンが話し掛けてきた。

「お気に召して頂けましたでしょうか」

「おお、凄く気に入った。なので、これは預けておく」

 と、ぽーんとレッドダイヤを投げて渡してやった。

 何か分からず受け取ったラッツェンは、受け取った物がレッドダイヤだと分かると大慌てで両手で包み込んだ。「手袋、手袋」と大慌てだ。


「金額はそちらに任す。そっちからでもこのカードに振り込めるんだろ?」

 金庫と連動と言ってたから出来るはずだ。


「は、は、はい。できますが」

「だったら、それは預けておくから入金してくれたら、お前達のものだ」

「そ、それで宜しいのでしょうか」

「ああ、信用してるぞ」

「畏まりました。信用頂きありがとうございます。間違いなく入金はさせて頂きます」

 ま、盗られたとしても収納の肥やしになってたものだ。それにまだまだある、俺としては全く痛痒はない。何より今は気分がいい! わははは、銀貨があるじゃないか!



 別室から受付の広間に戻るとタックが笑顔で待っていた。

 商業ギルドに登録したのだとか。ブロンズに輝く商業ギルドカードを笑顔で自慢していた。


「時間が掛かったんだね、何か買い取りしてもらってたって聞いたけど」

「うむ、少し手間取ってしまった。お前の姉がこの状態だからな」

 未だにトリップ中のミャールを指差し、嫌味を言った。


「どうしたの? 姉ちゃん、大丈夫?」

「ひゃははは~、あ、タック~。姉ちゃんもうお腹いっぱい!」

 何も食べてないはずだが。


「アスラム? 姉ちゃんと何食べてたの?」

「いや、何も食ってないぞ」

「でも、姉ちゃんがお腹いっぱいって」

「あー、たぶん、妄想の中で食いまくってたんだろ、ほっとけ」

「妄想!? どういう事?」

「知らん。ほっとけば、そのうち帰ってくるだろ」

「どこから?」

「知るか。それより、飯でも行くか」

「そうだね、それって僕の商業ギルド登録祝い?」

「飯ー! オークキングステーキ!」

「いくらお祝いでもそんなお金は無いよ」

「タックルボアの丸焼き~」

「だから、そんなお金なんて無いって!」

「ホーンブルの……」

「だからー……」


 いつも通り、騒がしい姉弟と商業ギルドを後にするのだった。

 後ろでは職員がズラリと並んでお辞儀をし、俺達を見送ってくれているが、姉弟は気付いてないのだろうな。


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