<1ー3>認識
「ま、待ってくれっ!・・・」
見知った天井、机、椅子。そして、チクタクと進む針の音だけが辺りに響いている。
「・・・はあっ・・・夢、か・・・」
そこは奏翔との自室だった。
さっきのは、本当に夢だったのか?
あの少女が言っていた通りならもうここは違う世界なはずである。
しかし、部屋を見回してみても、特に変わった点は見つからなかった。いつもと違う所といえば、普段より1時間近く、早く起きてしまったという事だけだった。
にしても、つまり本屋にいた時から全部夢だったっていうのか・・・
実際、さっきの少女がいた謎の空間に行ってしまう前に、奏翔は本屋で本を買っていたはずなので、その全てが夢だったという事である。
夢にしてはかなりリアルな夢。
これだけ、すごい夢が見られるなら、将来、映画監督にでも成れてしまうんじゃないか?
まず、夢からアイデアを得る、この事自体が、大きな映画になりそうである。
落ち着いてくると、奏翔は自分の体は大量の汗で濡れていることに気づいた。
なので、こう考えた。
「とりあえず、風呂でも入るか・・・」
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「は?・・・・・・・」
俺はまだ夢の中にいるってのか?
学校に着き、校門をくぐり抜けた奏翔はその光景に立ち尽くしていた。
「いやいや、待て待て。まあ、確かに俺の学校は中高一貫校で周りの高校よりはそれなりに大きいが・・・なんで・・・なんで豪邸になってるんだよーーーっ!?」
整えられた芝生、左右に大きく広がった敷地、それに負けないぐらい大きな校舎、中央にはこれまた大きな噴水があった。
ビフォーアフターとかいうレベルを越えた完成度である。
一夜城とかいうのを建てさせた、何処ぞの信長もこれを見ればびっくりするだろう。
もはや何も出せる言葉が無く、呆然と突っ立っていた奏翔の後ろから強い風が吹いた。
・・・おかしい。
後ろから風が吹くわけがない。後ろは広い交差点ではなく、確か普通の民家だったはずだ。
溢れ出る奇妙な汗が止まらない。覚悟を決められないまま振り返ると、そこにはありふれた家などなく、広大な緑に染まった大地に、天に届いていそうなほどの巨大な木が佇んでいた。
奏翔の頭に少女から言われた言葉が自然と思い出される。
「・・・笑えねぇ」
どうやら俺は、本当に別の世界・・・異世界へと迷いこんでしまったらしい。