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謎の少女がこちらを見ている

 魔法訓練の授業が終わった。

 そのタイミングで、俺はフィーナ先生のもとを訪れた。


「先生、質問があるのですが」

「まぁ!? なんて勉強熱心! 先生、なんでも答えちゃいますよー!」


 少し、勘違いされてしまったようだ。

 俺が知りたいのは、アリシアとの模擬決闘についてなんだが。


 ちなみに、魔法訓練の授業は、日常生活に関わる内容のものだった。

 戦闘で扱うような魔法を教えるのかと思っていたから、少し驚いた。


 まあ、日常生活でも魔法が利用できれば便利だろうから、授業自体は否定しない。

 俺にとっては縁のない授業になりそうなのが、悲しいところではあるが。


「授業の内容ではなく、あのアリシアという子についての質問です」

「あ……そっちですかー……」


 露骨に残念がっているな。

 だからといって、ここで質問の内容を変えても仕方がない。

 このまま話を進めさせてもらおう。


「彼女、魔法の使い方に難がありませんか?」


 俺の疑問。

 それは、アリシアの魔法についてだ。


 彼女は決闘中、炎の魔法を使おうとしていた。

 が、その魔法は途中で暴走しかけ、魔法使用者に牙を()こうとしていた。


 あのときは、俺がなんとかしたから問題もなかった。

 しかし、それ以前の彼女は、魔法とどう向き合っていたのか。


「やっぱり、ナギくんにはわかっちゃいますか」

「……ご存知だったんですね」

「そりゃまあ、教師ですから」

「…………なら、なぜ決闘を承諾したんですか。一歩間違えれば大事故に発展してましたよ」

「わたし、最初は止めてたじゃないですか! なのに、ナギくんも戦う気マンマンになっちゃってて……どうすればよかったっていうんですかー! もー!」


 ……この人、本当に俺より年上なのだろうか。

 言動がまるっきりお子様じみている。


「まあ……もし本当に彼女の魔法が危険そうだったら、即座にわたしが水魔法をぶっかけてましたよ。今回はそれより前に、ナギくんが打ち消してくれたみたいですけど」


 そうなのか。

 であれば、今回の決闘は一応安全面を考慮していたわけだな。


 すぐ近くでは、フィーナ先生がスタンバイしてくれていた。

 ただ、決闘中の俺は、アリシアの魔法に目がいっていたから気づかなかった。


 しかし……。


「もしかして……アリシアは魔法の制御を失敗するたびに、水魔法を浴びせられているんですか?」

「そうですよ。その辺は、たとえ王女様であろうとも容赦なくいけと、国王さまから仰せつかってます」


 シュールだな……。

 そうしないと命に関わるわけだから、笑いごとではないとわかっているんだが……。


「アリシアさんは、常に上級魔法士の監視下で魔法を使用するよう義務付けられています」

「それだけ、彼女の魔法……というより、魔力が恐ろしいものだからですよね?」

「その通りです。ナギくんには、その辺も筒抜けですね」


 なるほど。

 だいたいわかった。


 なぜフィーナ先生が、魔法士として不安定なアリシアの模擬決闘を認めたのか。

 その辺りが、よくわからなかったんだが。

 今の話を聞いて、合点がいった。


 おそらく、彼女が炎の魔法を使ったのも、外部からの水魔法で容易に消せるから、というのが理由だな。

 水や土、風といった魔法だと、暴走した場合の対処は難しい。


「それにしても……誰か、彼女にアドバイスできる人はいなかったんですか? 彼女、中級の魔法式に、極大級の魔法が同時に数発並列展開できそうな量の魔力を注ごうとしていましたよ?」


 もっとも、その魔力のほとんどは魔法式に流れることなく、彼女の中に(とど)まったままだったが。

 魔力を流しきる前に、魔法式のほうが耐えられなくなったのだから、それも当然だ。


「え……そうなんですか……?」

「……わからなかったんですか?」

「いやいや、わたしをナギくんと同じだと思わないでくださいよー……」


 ……俺以外の人には魔力が見えないんだったな。

 であれば、そこに気づかないのも仕方がない。


「確かに、アリシアさんからは常人離れした魔力を感じます。ですが……流石に極大魔法数発分の魔力を流そうとしていたとまでは、思ってませんでした……」


 フィーナ先生は、俺ほどは魔力の流れを把握できなかったようだ。

 ハイスペックと自称していただけに、少し残念だな。


「わたしたちは、通常、魔法が暴走する場合は魔法式に問題があると考えます。魔力の流しすぎで暴走するだなんてことは、普通ありえないですから」


 ロスは大きくなるが、中魔法クラスの魔法式であっても、大魔法クラスに必要な量の魔力くらいなら、流すことはできる。

 なので、フィーナ先生の言っていることは、おおむね正しい。


 また、魔法士の魔力保有量は、大魔法を一発撃てるかどうかといったところが平均だ。

 これを考えると、アリシアのような魔力の使い方をする人間がいかに少なかったかというのも理解できる。


「だから、彼女の抱える問題は、魔法式にあるのだとばかり?」

「はい……」

「…………」


 まあ……改善点が見つかったのなら、それは喜ばしいことだ。

 彼女もまだ俺と同じ年だろうし、今からでも改善はできるだろうさ。


「にしても……極大魔法を数発同時にって……ちょっと盛りすぎじゃないですか……? それ、小さい島が軽く吹き飛ぶレベルですよ……?」

「誤差はあると思いますが、俺から見たら、そんなものでしたよ」


 俺も、彼女ほどの魔力は今まで見たことがない。

 世が世なら、英雄として名を馳せることもできるんじゃないだろうか


「ちなみに、彼女も入学時、魔力測定を受けたと思うのですが。その結果はちゃんと測定できたんですか?」

「それは流石に個人情報と言いたいところなんですが……お察しの通り、測定不能でした」


 やはりか。

 彼女の魔力量は、通常のやり方では測定しきれないだろう。


「そういえば、ナギくんは魔力ゼロでしたね」

「彼女とは対極的ですね」

「でも、魔法を使わせたらピカイチですから、アリシアさんと足して2つに割れば、きっと凄い魔法士になりますよ」

「そんなことができるのなら、是非お願いしたいですね」


 知りたい情報は大体手に入った。

 そろそろ次の授業の準備に入ろう。


 こうして俺は、フィーナ先生と軽口をかわし、訓練場をあとにしたのだった。





「ナギ! さっきの話の続きよ!」


 次の授業が終了した直後。

 隣の席についていたアリシアが、大声で話しかけてきた。


「いったいなんだ。俺はもう、君と話す必要がないんだが」

「話す必要がないってなによ!? ワタシを馬鹿にしているの!?」


 馬鹿にはしていない。

 が、こうも騒がれると、喋る気も失せてしまう。


「……話すのはいいが、もう少し声を抑えてくれないか。クラスメイトが俺たちを見ている」

「あ……それもそうね。わかったわ」


 とりあえず、彼女は話せばわかるタイプのようだ。

 ここで逆ギレでもされようものなら、俺はこれから、彼女の隣に座るのをやめるところだった。


「それで、王女様は俺と、どんな話をしたいんだ?」

「……ワタシ、さっきあなたに名前の呼び方で注意されたんだけど?」


 どうやら、アリシアは王女様と呼ばれることに不満を抱いたようだ。

 であれば、仕方がない。


「それじゃあ、これからはアリシアと呼ばせてもらうことにする」

「あ……」

「なにか問題でもあるか?」

「い、いいえ。その呼び方で大丈夫よ」

「そうか」


 いちいちブレンフォードと呼ぶのでは長ったらしい。

 なので、名前呼びを許してくれるのは助かる。


「……で、さっきの話の続きだけど」

「さっきの話とは、いったいどの時系列の話だ?」

「模擬決闘直後の話に決まってるでしょ! それくらい察しなさいよ!」

「確かめてみただけだ」


 もしかしたら、クラスメイトが俺たちを見ていることについての言及かもしれなかったからな。


 ……それにしても、シア、だったか?

 さっきから彼女の視線が気になるな。


 俺がフィーナ先生と話していたときも、ジッと観察していた。

 いったい、なんなのだろうか。


「あなた、魔力が見えるのよね?」

「君がそれを聞くことに、なんのメリットがある?」

「強いて言うなら、ワタシが抱いてるモヤモヤ感が、ちょっとだけスッキリするわ」

「それだけの理由か……」


 なら、話す必要はない。

 いくらでもモヤモヤしていてくれ。


「それと、このクラス内における、あなたの名誉が回復するわ」

「名誉?」

「あなた、気づいてないの? 自分が今、どんなふうに見られてるのか」


 どんなふうに、か。

 まあ、ある程度なら推測できる。


 周りから見れば、現状の俺は、魔力を持たない一般人にしか思えないだろう。

 それに、なぜ魔法学院に入ることが許されたのかわからず、ヤキモキしている生徒もいるはずだ。

 裏口入学のようなものを疑われている可能性だってある。


 魔力がないなら、すなわち魔法士ではない。

 では、なぜ魔法学院に入れたか。

 それは、なにかしらの裏取引が国とあったからだ。

 ……というような論法だ。


 留学話の裏側には、様々な思惑あるのだろう。

 実際、俺はその思惑の1つを知っている。


 だが、そんなことはどうでもいい。

 俺は、もはや送ることができないと思っていた学校生活が満喫できれば、それでいい。


「このままじゃ、あなたは周りから低く見られちゃうわよ。それでいいの?」

「別に構わない」

「そ、即答したわね……」


 当たり前だ。

 確かに、俺がこの辺りの説明をしないことで、クラスから浮いた存在になってしまうだろう。

 だが、正直に自分の手の内をさらすことと比べると、後者に軍配が上がる。


 たとえ、いずれ知られるかもしれない秘密であっても、それを自らが積極的にバラす気にはなれない。


 しかし……アリシアには、一部といえど、バレている。

 この事実を、どう受け止めるべきか。


「あの決闘は、ボーっとしていた君の負け。それでいいんじゃないか?」

「よくないわよ。あなたが自分の力を隠したがるのは勝手にしてくれていいけど、ワタシまで馬鹿にされちゃうのは我慢ならないわ」


 ならば、どうすればいいというのか。

 クラスメイトに、あの勝負で起こったことを説明し、俺の力を証明しろというのか。


「……ちなみに君は、自分の魔法の成功率がどんなものか、計っているか?」


 ふと、俺は頭に思い浮かんだことをアリシアに訊ねた。


「そ、それはもちろん…………だいたい3回に1回くらいの割合で成功するわ!」


 思っていたよりは高いな。

 模擬決闘では、慌てて魔法を使おうとしたから、その分余計に魔力を流してしまったのだろう。


 ……が、それでも低すぎる。

 3回に1回の成功率では、馬鹿にされても仕方がない。


「せめて95パーセント以上の確率で成功させてくれ。でないと、実戦では話にならない」

「実戦って……あなた、いったいどういう状況を想定しているのよ」


 実戦は実戦だ。

 命のやりとりをする際、いちいち魔法が失敗する可能性なんかを考慮していられない。


「とにかく、俺から言えることは以上だ。わかったら、もう詮索しないでくれ」

「なによ。そんなにワタシと話すのが苦痛なわけ?」

「そうじゃない。ただ、俺は自分のことを喋るのが好きじゃないだけだ」

「ふーん…………じゃあ、わかったわよ。ワタシはこれ以上、あなたの持つ力について訊くことはしないわ」


 ……なんだ。

 初めからそう言えば、彼女は引き下がっていたのか。

 余計な手間をかけさせてしまったな。


「でも、ワタシはこれからも、あなたがなにかしらの特別な力を持っていると思ってるからね」

「その妄想をみだりに人に話したりすることがないなら、どうぞご自由に」

「トゲのある言い方ね」

「駄目か?」

「駄目じゃないけど、私にそんな軽口を叩いたのは、あなたが初めてよ」

「それはどうもすみませんでした、王女様」


 軽口がお気に召さなかったようなので、俺はわざとらしい敬語を使ってみる。

 すると、アリシアは急にしおらしくなった。


「……でも、下手な敬語を使われるよりは万倍もマシだわ」

「そうか、なら俺は君に対して遠慮しないでいく」

「ええ、そうしなさい」


 どうやら、彼女は敬語で話されたくないらしい。

 それなら、俺もいつも通りの調子でいかせてもらうとしよう。


 こうして俺は、その休み時間をアリシアと過ごしたのだった。





 次の休みは、昼食を取るために、1時間ほどの長い休憩時間が設けられている。

 俺はその休み時間になった瞬間、席を立って教室の外へと歩いていく。


 ……やはり、背後からシアという少女が追いかけてきた。


 なにが目的で、俺の動向を観察しているのだろうか。

 やはり、その辺りはきちんと把握しておいたほうがいいだろう。


「クオンさん……どこいっちゃったんですか……」


 シアがキョロキョロと周囲を見回している。

 俺は、そんな彼女の背後へと、気づかれぬよう回った。


「おい」

「!? むぐっ!?」


 背後から声をかけ、彼女の口をふさぐ。

 その際、抵抗できぬよう腕を拘束することも同時に行う。


「俺にいったい、なんの用だ」

「!?」


 ひとまず俺は、彼女に用件を訊ねた。


「返答次第では……痛い目を見ることになるぞ」

「…………」


 もしもだ。

 この子が俺のことを探るエージェントであるのなら。

 尋問のために骨を5、6本折ることになるかもしれない。


 できることなら、そんなことはしたくないが。

 はたして、彼女の返答は……。


「……ああ、口をふさがれてたんじゃ、答えられないか…………絶対に騒ぐな」


 俺はシアの口から手をどける。

 すると、彼女は大きく息を吐いた。

 そして、さらに息を吸う動作を行った後、俺に聞こえる程度の音量で、弱々しく喋った。


「あ、あの……昼食を奢らせては……もらえませんか…………今朝、助けていただいたお礼に…………」

「…………」


 そう口にするシアは……涙目になっていた。

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