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気弱な少女はお礼を言いたい

「やっぱりあの人……凄い力を持ってるんですね……」


 ナギとアリシアの決闘を見届けていたクラスEの生徒、シア。

 彼女は、1人で納得するように目を輝かせていた。


(私を助けてくれたときも、なにかをしたみたいですし……今回も、アリシア様の反応を見れば、なにかがあったことは間違いないですよね……)


 決闘の終了直後。

 ほとんどの生徒は緊張が解け、決闘の内容について意見を交わしていた。


 そんな中、シアだけはナギたちの動向を見逃さなかった。


「なんだか肩透かしな決闘だったな……」


「結局、アリシア様は棒立ちで留学生の攻撃を受けただけだったしね……」


「よせ。それ以上はアリシア様を侮辱していると受け取られかねない」


「でも……これでは、あの留学生に舐められるばかりだぞ。いいのかそれで」


「アリシア様がこの結果を受けいれてるんだから、しょうがないだろ」


「それなら、俺たちがとやかく言うべきではない……か」


「く……なぜアリシア様は魔法を使わなかったんだ……」


 シアはクラスメイトの話し声を耳にした。


 その瞬間、彼女は『それは違う!』と言いたくなる衝動にかられた。

 が、それはなんとか耐えることにした。


(ここからじゃ聞き取れなかったけど、アリシア様はあの人に、なにかを訊ねている素振りだった……絶対なにかあります)


 結果だけ見たならば、アリシアは魔法を発動させていない。

 けれど、決闘開始直後、確かに魔法を使う素振りがあった。

 あれが演技であるようには見えない。


 と、シアは思考し、さらにそこから、自分なりの解釈を進める。


(アリシア様は魔法を使った。でも、どういうわけか、魔法が発動しなかった……だから、あんな棒立ち状態で剣を突きつけられちゃった、ということでしょうか……)


 魔法が打ち消される、などという不意を突かれた。

 こう考えるなら、これほどまでに容易く決闘の決着がついたのにも納得がいく。


 そして、そんな不意の突かれ方は、魔法士にとっては想像の埒外(らちがい)である。


(魔法を打ち消す能力……もしくは、それらしい効果が得られる魔法の使い手…………どう考えても、並みの魔法士じゃない……学院生徒の域を遥かに超えてます……)


 そのような魔法は、ブレンフォード王国の宮廷魔法士ですら使えない。

 当然、ただの学院生が使えるような魔法では、断じてない。


 魔法士について深い知識があるわけではないものの、それくらいのことはシアにも理解できた。


(でも、どうしてそんな人がクラスEなんでしょう?)


 通常、クラスEに入る者は、なにかしらの問題を抱えていることが多い。

 では、あのナギと名乗る少年はどうか。


(留学生だから、言語学とか歴史学の試験ができなかったせいでクラスEになったとか? んー……今ある情報だけだと、なんとも言えないですよね……)


 魔法士としての才は、間違いなくずば抜けている。

 なので、それ以外のなにかが問題であるのだろう、とシアは考える。


 が、その問題がなんなのかまでは、現時点では断言できなかった。


「でも、そっか……私、そんな凄い人に助けられちゃったんですね……」


 気持ちを切り替え、シアはつい今朝方に起こった出来事を思い出す。


(ただ通りすがっただけって感じでしたけど、それでも助けられたことには変わりないですよね) 


 ナギという少年は、朝、偶然シアたちの近くを歩き、ニィルのステッキに当たりそうになった。

 その結果、シアは性質の悪い貴族たちから逃げることに成功し、こうして授業を受けることもできた。


 早朝の授業には遅刻することとなったものの、それでもシアが抱く感謝の気持ちは目減りしない。


(……お礼を言いに行くくらい、普通ですよね?)


 なので、シアはナギに接触を試みることにした。





 フィーナによる魔法訓練の授業が終わり、休み時間になった。

 それを見計らって、シアは早歩きでナギのもとへと向かう。


(って……クオンさん、先生と話し込んでる……)


 しかし、どう見ても今は、話しかけられるタイミングではない。

 なかなか2人の会話が途切れる様子もなく、どうしようとシアは悩み、前髪をいじり始める。


(次の休み時間に持ちこしですね……)


 そろそろ次の授業の準備をしないといけない。

 なので、シアは妥協案として、次の休み時間に話しかけることに決めた。


 ……しかし。


「あ、あの……クオンさ――」

「ナギ! さっきの話の続きよ!」

「あぅ……」


 次の休み時間。

 シアがナギに話しかけようと声をあげた。

 が、それはより大きな声にかき消されることとなった。


(アリシア様とお話するなら、しょうがないですよね……次のお昼休みまで待ちましょう……)


 流石に、王族より自分の用事を優先することは躊躇(ためら)われる。

 なので、シアはすごすごと引き下がり、次に話しかけられるタイミングを待つことにした。


(はぁ……アリシア様は良いなぁ……あんなにハキハキと喋れて……)


 余談であるが、シアはアリシアを特別な目で見ていた。


 学院への入学初日。

 同じクラスとなった王族の人と自分の名前が若干被っていることから、意識し始めた。

 それ以降、ちょっとした親近感と劣等感を同時に抱く存在になっていた。


(私も、もう少し積極的に動かないと…………よしっ、次は絶対、クオンさんに声をかけましょうっ!)


 そして、アリシアと自分とを比較し、より良いところを学んでいこう……とも考えていた。


 実際にそれができているかというと微妙なところである。

 だが、シアはそうなるよう努めていた。





「はーっ! 終わった終わったー! メシ食いに行こうぜメシー!」


 午前の授業が終わった。

 それと同時に、元気な生徒が友人を引き連れて、学食のほうへと向かっていく。


(朝のお礼にご飯をごちそうするっていうのも良いですよね)


 授業中、ナギと昼食を取る案を考えていたシアもまた、今度こそ機会を逃すまいとし、席を立つ。


(って……クオンさん、どこかに行こうとしてる!?)


 ナギが足早に教室を出ていこうとしている。

 それを見て、シアは焦った。


(く、クオンさん! ちょっと待ってください!)


 シアはナギを追いかける。

 周りから怪しげな視線を向けられない程度の速さで。


 しかし、そんな周囲の視線を気にする移動が仇となり、シアはナギを見失ってしまう。


「クオンさん……どこいっちゃったんですか……」


 話しかけるタイミングがことごとく潰れ、今も最大のチャンスを棒に振ってしまった。

 そう思うと、シアは途端に悲しくなり、気分がどんどん落ち込んでいく。


「おい」

「!?」


 ――そのとき、背後から声をかけられた。

 シアは後ろを振り向こうとする。


「むぐっ!?」


 が、そうする前に、背後にいた人物に口元を手で塞がれてしまう。

 さらには、左腕を取られ、動かないよう背中で間接を決められる。


 なにがなんだかわからず、シアの心は一瞬のうちに恐怖で塗りつぶされた。


「俺にいったい、なんの用だ」

「!?」


 けれど、背後から聞こえる声をきちんと認識した瞬間、そんな恐怖はたちまち戸惑いへと変化する。


「返答次第では……痛い目を見ることになるぞ」

「…………」


 シアの背後から聞こえてくる声。

 それは、今までシアが話しかけられないでいた――ナギの声だった。

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