葛きりのそぼろ餡かけ
今回やっと主人公の『名字』が出せてます
気象庁から梅雨入り宣言が出され、アジサイの青々とした花の色が目に涼しい六月の頃。
涼しいのは雨が降っている間だけで、気温と湿度は絶賛上昇中。
薄着の季節に贅肉も脱ぎ捨てたい女心である。
『藤村さんって、腕『も』太いのね~』
昼間言われた言葉が頭の中で木霊する。
悪意なんてかけらもないような顔で、宣ってくれた同僚(年上/四十代♀)の口を縫い付けてやりたい。
絨毯でも運んでいるのか、という分厚さの原反。二間幅のカーテンがみっしり詰まった段ボール箱。
腕の筋肉はついたはずなのに、フリソデの贅肉はどうしても落ちなかったのだ。
むしろ皮だけが余ったというか。
最近尻が垂れてきたのかズボンが窮屈になってきたのだ。
腹周りのことは聞いてくれるな。
中年太りが今から心底怖ろしい。手遅れとかは、後生だから言わないでほしい。
まだ間に合うはずなのだ。
ビール腹では、断じてない。
本格的な夏に向けて、腹持ちよく低カロリーな葛切りを主食に切り替えてゆこうと、心に決めた。
沸騰した出汁に酒でほぐしたひき肉を投入。
灰汁を取りながらかき混ぜ、味醂と醤油を入れて一煮立ちさせる。
片栗粉でとろみをつければそぼろ餡の完成である。
透き通った餡に作れたなら心が大満足。
一度うっかり面倒くさがって鍋の中で葛きりを戻した時には、見た目的に大惨事になったものだ。
それ以来、餡だけは別に作る主義だ。
見た目も料理のうちである。
小鉢に盛った葛きりに、そぼろ餡をかけていただきます。
夏本番に向けて鷹の爪増量するか、針生姜を添えてもよかったかもしれない。
もう少ししたら冬瓜や瓜が出回るだろう。
その時にはまた作ろうと思いながらシンク前に立つ初夏の夜。
外では昼間の暑気を払うように雨がしとしとと降っていた。
そぼろ餡は旨し。
一味だけかけても、七味を混ぜ込んでも、
おろし生姜をたっぷり乗せてもおいしいと思うのです。