時間は刻々
「捨て猫みたいだね」
「何が?」
「この学校」
夢の中の登場人物だからか、ヒナが口にすることはやっぱりハッキリとしない。
確かにこの昇降口は、見渡す限りの見すぼらしさで溢れているが、これをそのまま捨て猫と表現してしまうのは、現実の人間の言動と照らし合わせると違和感がある。
試しに3組38番の下駄箱を開けてみる。
思った通り私の名前が書かれた上履きが入っていたが、その上に手紙らしきものが乗っているのは想定外だった。
「それなに?」
手にとって封を切る。
中からは『4時32分、屋上で待つ』という、とても簡潔で具体的な文章の書かれたノートの切れ端が出てきた。
ヒナといると抽象的な会話しか成り立ちそうにないので、こういう具体的な事を言える人間がこの夢に存在するとなるととても有難い。
気が付くとヒナが隣にいて、私と同じ体制で手紙を覗きこんでいた。
「誰から?」
「書いてない。
……けど心あたりはある。
残念ながら」
「だったら行こう!
きっともう待ってるよ」
急な傾斜の階段を、一段一段踏みつけていく。
埃が舞って、細い窓から入る光をキラキラと反射させた。
「………不思議。
ぜんぜん疲れないのね」
「全部都合がいいからね!
都合よく出来てるの」
少し面白くなってきて、私は駆け足で階段を登る。
すると私の体が宙に浮いたまま止まった。
ふわりと浮いたまま私は屋上へと向かう。
いつの間にかヒナも宙に浮いている。
足が地に着かない。
当然埃が舞わなくなる。
あの、光の煌きが無くなってしまう。
何だか勿体無く思えてきて、私は階段の上に足を下ろした。
案外飛ぶっていうのは味気ないんだ。
都合よく鍵の開いていた屋上のドアを開け放つ。
風が中に入り込んできた。
「いないね」
屋上に人の姿は無かった。
「何時に待ち合わせって書いてあった?」
「4時32分って」
「そう」
上を見上げると、太陽が丁度私達の真上にあった。
時計。
時間。
針。
針を刺す。
かちりかちりかちりかちりかちりかちりかちりかちり。
気が付けば太陽は私の前に居て、その更に前に黄緑色の髪をした少女が、眠たげな顔をこちらに向けていた。
長すぎるほど長い髪を揺らして少女が喋る。
「ミズキ。
単刀直入に言わせて貰うと、君はそろそろ死ぬよ」




