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喋らない男

作者: 黒彩

 ある日の夜。

 まだ、冬の寒さが残っているのを感じとれるような、ひんやりとした風が髪をなでた。今の私は、ボロボロの服を1枚着ているだけの状態で荷物なんてものは1つも持っていない。そうしてこのような姿になっているのかは、またの機会にでも語ろうと思う。

 それよりも、この寒さをどうにかして凌ぎたい。私はどこかに洞窟がないか頭をキョロキョロと動かした。すると、右側に人1人が入るのにやっとの大きさで、雨風をしのぐことができるだろうと思われる洞穴を見つけた。寒さから逃げることができると心底ホッをして、その洞穴に近づいた。そして、横からソッと覗きこんでみると男の人が寝ていた。まじまじと観察すると、上も下も大きなマントで包まれており、顔はフードによって隠れていた。どうしたものか、と考えていると男が呻き声をあげながら寝返りをうった。このままでは埒が明かないと思い、私はその男の肩を掴もうと手を伸ばした。

 が、目の前には驚いた顔をした男。男の肩を掴むはずだった手は、男のゴツゴツとした手に掴まれており、どうやら私はこの男に押し倒されているらしい。あまりにも現実味の無さに、頭は妙に冷静だ。男は無言のまま、自分に害がないと分かったらしく、私を解放した。私は掴まれたときに痛めた手首を擦りながら、男にここを出て行ってもらえないか交渉してみようと、男に声をかけることにした。


「あの、身勝手で申し訳ないんですが……この場所を私に譲ってくれませんか?」


 ちゃんと男の身なりを見ての発言だ。マントを着ているのだから、この程度の寒さぐらい大丈夫だろう。しかし、男は頭を横にふった。なんて男だ。女の子に譲らないとは。確かに私の申し出は自分勝手だが、今の私は少なくとも弱々しい女の子に見えるはずだ。と思って、反発しようとしたが、男の行動によって口からは空気を吐くだけになってしまった。男がマントを横に広げたのだ。中も真っ黒で一瞬、底の無い闇のように思えたが腰に差している剣で、そのような感覚は消えた。というか、今の男のポーズは、まるで「寒いならおいでよ」と言っているようで思わずたじろいだ。


「えっと、入れてくれるんですか……?」


 男は頭を縦にふる。ついさっき会ったばかりの男に、しかも武器を持っている人に寝るという人間にとって1番無防備な姿を見せるのは死にに逝くようなものだと思うが、今の私には『寒い、寝たい』としか思えなかった。

 この男が何者で、何故このような森に居るのかは起きてから聞こう。私の思考は、思ったより温かいマントの中でこときれた。

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