譚之壱 紅葉旅館より その七
それから数刻後、僕は彼女たちの遊び相手を一弘に任せ、ここでの僕の仕事 掃除、洗濯、薪割り―この風情がいいのだとここの主人が近代化しなかった五右衛門風呂のため― その他の肉体的労に勤しんでいた。
ちなみに青瀬はここの小母さんになぜか妙に気に入られたらしく雑談をしながら帳簿つけの手伝い等をしていた。それは彼が暇なら何か手伝ってくれと言われたときに、肉体労働以外ならと答えたためらしい。まぁ、答える青瀬も青瀬だが帳簿まで見せるおばさんもおばさんだなと思っていると 旅館の中庭あたりから、一弘の少し怒った声とそれをからかう二人の童女の声が聞こえてきた。
「こらっ、まちやがれっ! おしりペンペンだっ!」
「鬼さんこちらっ、ここまでおいでっ、アッカン ベーだっ! 一見姉っ、何してんのそんな早々につかまっちゃってっ!!」
「はっはっはっ 一見ちゃんはこの天才俺様の人徳にほだされて こちらの味方につてくれたのだ。覚悟したまえ二見くん」
「ずっこーいっ! 一見姉の裏切り者ぉーっ!!」
そんな声を聞きながら僕は”私、わたし、人間だもん”と呟いた少女の少し寂しそうな顔を思い出していた、それが僕と彼女たちが共有する思いであったから。
―附―
拝啓 お母様へ
どうやら楽しくなりそうです。
紅葉旅館より
拓磨