譚の七 闘酔者 その伍 人形遣いの娘 その壱
次々と群がる妖物の中心を打ち砕いてゆくその単調な作業に変化が現れた。「どうさね、自身の本質をみせられる気分は?」ゆうらりとそいつは現れた。
「音玉の鈴!!」同時に跳躍、そいつに浴びせかけられるはずの爪は、ゆうたりとした動きをする女の一本の棒に受け止められていた。
「残念、おんしの不可聴領域の波長で脳を揺さぶる、その手の技は私にはきかんぜよ」ふゆり、という一動きで鈴音の爪は外され、二人の間に、戦闘を開始するには一歩足りぬ間があく。
「まぁ、そう急くなや、別れは一瞬、出会いは大切じゃきの」その眼は閉じられてはいるが、明らかな殺気をその身にまとっている。夕凪色の服をなびかせ、古武士然としたその女は再度口を開く「まんずは礼を、私の姉達が世話んなった。そしてわっしの食べ滓の処理、ご苦労さんじゃき」にやりと口の端を微妙に歪めて女が言う。
「姉、食べ滓?」戦闘の態勢をくずさぬままにもつい、彼女の唇から疑問が滑り出る。
「ああ、自己紹介がまだ、だったな…、与えられた名は那択、おんしの相手じゃ。…っと、だからそう急くなやな」不意をついて繰り出されたハズの攻撃は、彼女の手にある獲物に危なげなく落とされる。
「わたくし、急いでるんですの」本人は怒りを露わにしているつもりであろうがその表情は持ち前の童顔と相まって、拗ねてるようにしか見えない」
それにむかって苦笑気味に相手が言う「不作法じゃの、ひとが話とるっちゅうに」その手にはいつのまにやら一本の朱塗りの槍が握られ、彼女の行動を制していた。「わっしの得意は槍術、この森の中で不得手と思うだろうが、そうは思わんほうがええぜよ」
「ご親切痛み入りますが、わたくし、とっても急いでるんですの」一交、二交、爪と槍刃が打ち交わされ、その不自然さに彼女が再び間合いをとる。彼女の刃筋はしっかりと彼女の目に捉えられるのにその刃を思うように避け得ない。
「ゆうっくり、と見えるやろ、わっしの刃筋は」その疑問に答えるように彼女が言う。
「…極限法、話には聞いたことがありますわ」対して彼女も記憶をまさぐるようにして答える。
「それがわっしに仕込まれた仕組みじゃき、動きから一切の無駄を省くとこうなるらしいぜよ、わっしを造った人形遣いが言う取ったきに」得たりという顔で那択という女が無邪気に答える。
「人形遣い?」その疑念は、疑念と言うよりも得心、確かに彼女からは人の放つ臭いが欠片も感じらえない。
「そう、人形遣いの娘じゃよ。わっしはあの双子の人形から数えて十番目の娘じゃき、与えられた目的は新しい箱庭の人間に、その為にわっしはおんしば喰らう」初めて、そこで彼女は構えと呼べるものを取る。左足を前に半身、穂先は彼女の中心へ