譚の七 闘酔者 その参 符呪
「地雷霊符」青年の声とともに男の目の前の地面に天上からの雷が突き刺さる。もうもうたる煙が立ちこめる中「風呪爆散」さらに声が響きその中に凶刃と化した風が殴り込む、「水呪冷壁」それをかわした男の前に氷の壁が立ちはだかり「樹針槍壁」取り囲む樹々から凶器となった枝葉が殺到する。そして、「炎蛇縛鎖」炎の蛇がその場を円環し、生み出された急激な気圧差は上昇気龍と化して内部のものを天上へと高く高く巻き上げる。
「符呪かよ」それは、予想された攻撃ではあったが、厄介だと言うことには変わりない。符呪の厄介な事は、例えそれを扱う者に霊力などかけらもなかろうと効果を発揮するというところにある。そして、青瀬という男はそれを道具として効果的に使っていた。呪符とそれに様々に織り交ぜられてくるブービートラップは、彼を死には至らしめないものの確実に傷を負わせていた。しかし、どうやらそれも先程の大技で種切れらしい。明らかに先程までと奴の動きが違う、時には立ち止まり、時には同じ道を引き返し、複雑な地面の軌跡を描き、誘うように焦らすように彼を導いてきた先程の行程とは明らかに違う、ただの一寸でも自分との距離をあけようとするその行動はまさに逃走そのものだった。
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逃走という行為自体多大な精神力を消費する。それはその行為自体が敗走であるからだ、決して勝てない敵の前から生存確率を上げるためだけのただそれだけの行為だからだ。だからこそ、狩人は絶対的な強者として獲物の前に立ちはだかる「「王手だ」」しかし、その台詞は二人の男から同時に放たれた。