譚之陸 狂闘 その参 透明なる刃/魂ぞ散りける
−透明なる刃−
彼女はそこでひしひしと己が身に突き刺さる殺気を感じていた。身体中総毛立ち、その瞬間を待ち受ける。二条の光が彼女の身体を通り抜け、ほんの数刻後、思い出したかのように鮮血が彼女の身体からほとばしる。
「他愛ない」殺戮者が、その作業の完了を告げ、踵を返しかけた刹那、漆黒の風が吹き抜け、そして澄みきった音があたりに響く
「夜刀”血走り” 成長するのに大量の血が必要なのが欠点ね」たった今、折られたはずの漆黒の刃はさらに剛く堅く、それはなにもないはずの空間に受け止められていた。
「わざとか…」
「見えない相手よりは この方がね」彼女の血で染められ、浮き上がった透明な双振りの刃の持ち主に向かって彼女は言う。
「翡翠…、この国では死にゆく相手に名を名乗るのが礼儀だと聞いた」
「浅霧 乙音」そして、あとは ただ言葉もなく二人は刃を組み交わす。
−魂ぞ散りける−
「音玉の鈴っ!」不可聴領域の鈴の音があたり一面に響き、あらゆる生物の特徴を持ちながらあらゆる生物にも属さぬ物たちが彼女のもとに魅入られたかのように集い、自ずから<t-EM style=accent>中心</t-EM>を打ち砕かれてゆく。
『気持ちが悪い』
もう、何度同じ作業を繰り返しただろう。彼らは彼女に危害を加えない、彼らはただ彼女に殺される為だけにここに居た。それが彼らの切望、そして絶望。妖しは自ら死ねない。あらゆる機能が自らを生かそうとする。妖しに死は訪れない。与えてもらうその時までは…、恍惚として自らの中心を打ち砕かれ、消えゆく命、たとえゆがんでしまったとしてもひとつの命、それを今わたしは打ち砕いている。彼女は考えずにはいられない、自分と彼らの事を、彼らは彼女だ。そして拓磨だ。