表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/60

譚の伍 嵐の前夜 その四

「あのっ、えーっとぉ…、ああっ!! あなたでしたかぁ、ここ最近私達の事を嗅ぎまわっているねずみがいるって、お爺さまが言っていらっしやったのはぁ…」困惑から、驚きへと表情を入れ替えて彼女は彼の顔をまじまじと興味深げにながめた。

「いや、まぁ、否定はしないがそういうセリフは本人を前にしてそのままいうのは問題あると思うぞ」苦笑しつつ彼は言った。「はぁ、そうですよねぇ、よく言われるんですよねぇ…、それにしても、よく無事でいきていらっしゃいますねぇ、お祖父様のうちのお屋敷には気性の荒い番犬達がたくさん住んでますいらっしゃいますのに、その道の専門ぷろ家の方ですかぁ?」鈴のような笑い声をたてて彼女は言った。

「そういうわけじゃないんですが、いやぁ、その節は番犬達にたいへんお世話になりましてねぇ あれはすぐに人に噛みつこうとしてよくないですよ なんでしたら拓磨かれの爺様にでも調教ししつけてもらったらどうですかねぇ。よければご紹介いたしますが。幸い僕は逃げ足だけが自慢でして 事無きをえましたがね」

二人は和やかに談笑していた。


うちのじいさん!? ってことは番犬って妖怪がらみの話なのか!?って、ちょい待て、それがお茶菓子をつまみながら談笑する話かぁ』


「さて、といった所で”妖しあやかしおきな”からの伝言を伝えるのは君の役目しごとだな」


 再び真顔に戻って彼は彼女を真剣な眼差しで見つめた。

「そう、ですね…」 一つ頷いてようやく彼女は喋りかたり始めた。”妖しあやかしおきな”からの伝言を、彼女の話が続く間、僕は僕の中の鬼を今すぐ解き放ちたい衝動に何度も駆られた。


*


 眠れなかった。”妖しあやかしおきな”、そして雀に鴉、僕という人間を弄んだ者達。なんとなくこのまま闇の中に自分の意識を預けた瞬間、自分が鬼となって暴れ出しそうだった。しかし決着けりをつけるのは明日だ、本当はこのまま怒りに身を任せて奴らの所に殴りこみたかったが、 青瀬やつに「生きるために戦うのなら、今日一日は頭を冷やせ」と殴られた。その痛みのおかげで僕はまだ人間でいられる。


 あのまま怒りに身を任せていたら、僕はあの場で鬼と化していただろう…、事実、あの時僕は鬼になりかけていた。彼のくれた痛みがなければ、今ここに僕は、すでに存在していなかっただろう。


 勇気のある男だ、なぜ彼が命の危険を犯してまで、僕を助けてくれるのかわからないが ただありがたかった。

 おかげで僕はまだ一人じゃないと実感できるおもえる


『…!?』


 闇の中で気配かぜが動いた。影はこの旅館の人の気配に紛れるようにしてこの部屋を動いた。気配の主は天井で息を殺して、僕の様子をうがう、僕は目をつむって気配が部屋の風を荒らすのを待った。

 

 ヒュンッ!

  影が僕の真上に落ちてきた。僕はすばやく布団の中からすり抜け、体を入れ替えて彼女を布団の上に押さえつけた。「拓磨たくまぁ 今宵も夜這いにきたよんっ♪」闇を固めたような漆黒の女は組み伏せられたおさえつけられたまま、悪びれもせずに明るくそう言った。僕は 毎夜いつもとは違って、いつまでたっても乙音かのじょを捕まえているその手を放さなかった。

「なんで…、逃げない」別に僕は力一杯彼女を組伏せているわけじゃ ない。ただ彼女を捕えたその手を放すのを拒んでいるだけ、僕の力は彼女がその気さえあればすぐにでも振りほどける、その程度のものだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ