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譚の伍 嵐の前夜 その弐

 ひどい男、卑怯な考え、君はそう言うかい、笑いたければ笑っていいし、蔑みたければそうしてくれてもいい。僕は聖人君子じゃない。

 この限られた時間のなかで生きるためにあがこうと、死んでも後悔しないように今やれる事はやっておこうと思った時、とりあえず誰かと愛し合いたいと思った。ただそれだけなんだ。

 もう一度言おう僕は聖人君子じゃない、だから綺麗な体面を繕った言葉もやめよう、そうさ、死の間際までに誰かの肉を貪りたいと、そう思っただけだ。君に笑えるかい、この僕を、やりたいこともある。だが、それを完成させるにはあまりにも時間がない、四六時中、自分で招いた訳でもないのに”死”という言葉がつきまとう、側にはどういう理由わけであれ優しく甘い言葉を囁いてくれる女の人がいる。

 もし君が僕を笑ったのなら僕は君にききたいんだ。僕と同じ立場ところにいても君は同じよう感じて、笑えるかい。

 自分には無縁な事だと確信しているからこそ君は笑えたんじゃないのかい。

 いいさ、君だけが悪いんじゃない。ああそうさ、僕もそう思っていたよ、日常と非日常の境目あいだに、いつ自分が飛び込む事になるのかなんてわかりはしないのに、自分には関係のないことだと、漠然とそう思っていたよ。死ぬ前にどんな形であれ僕は僕が生きた証しをを残したい、そう思った。

 そしてそれを刻みつける場所に彼女の肌と胎内を選ぶほうに僕は傾きつつあるというただそれだけの事だ。


*


乙音おとねちゃんばっかずるいっ」

「ミャっ!」

「わたしもっ」

二人と一匹は拓磨たくま乙音おとねをいつものように邪険に扱っていないことに気づくとすかさず二人の間に割って入った。

「あっ、こらっ! せっかくいい雰囲気だったのに邪魔しないでよっ!!」

「私たち子供だからわかんないも ん、ニャオッ」


「あの、えっと おモテになるんですね。それで 私達を殺してくださいませんか」

「はぁっ!?」三人と一匹にもみくちゃにされて、拓磨たくまは雀のあまりにも前後のつながりのないセリフに間の抜けた声で応じてしまった。

「あの、それは一体、「それは一体どういうことなんですかっ!」拓磨たくまはそのセリフを最後まで言わせてはもらえなかった、彼を押し退けるようにして一弘かずひろが雀の手を握りしめ、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめてその先を続けた。

「あなたの様な美しい方がそのような事を言うものではありません」彼女は救いを求める視線を僕らのほうに向けた。

「あなたの美貌が一つ失われるだけで世界は貴重なほしを一つ失うことになります」彼は星を散りばめた瞳で彼女をみつめ続けた。

『……』


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