譚之壱 紅葉旅館より その参
荷物を置きにいく間にいつのまにか僕にまとわりついていた二人の姿は消えていた、そして客室へと向かう廊下で、聞き覚えのある二つの声とさきほどの|童女(わら|わめ)達の声が僕の耳に響いてきた。一抹の不安が僕の目の前をよぎり
客室の扉を開けたとき、その不安は現実のものとなった。
「拓うーっ、ひどいじゃないかよぉぉっ! 僕をおいて遠くへ行っちゃうだなんてぇ、おばさんに教えてもらえなかったら危うく一生を君のことを想ってさめざめと泣きすごすところだったじゃあないかぁっ!!」
不安の素その一、蘇奈一弘はそう言って茶目っ気たっぷりに片目をつむり その性格と同じく軽快な笑い声をあげた。
硬直っ。冗談でも僕はこういうのは苦手だ。
このお調子者、自称”第二のエジソン”は よく”天才の発明品”と称するある意味では天才的ながらくたを作っては周囲に迷惑の嵐を巻き起こす。そしてその暴風域の中にはたいていいつも僕がいる。こいつと幼なじみであるばかりに こいつが一種の天災であるという認識を僕は持たざるをえなかった。
しかしまぁ、彼の称するところの天才の所行の発明品をつくりだす前に彼が描く完成予想図なるものは、僕が見ても目を見張るほどのできで、他人事ながらこいつは進む道を間違えたんじゃないかとそう思わずにはいられない。