譚之壱 紅葉旅館より その弐
目的地は彼女達が出てきた路地のすぐ奥にあった。こぢんまりとした五階建ての建物に”紅葉旅館”とだけ書いてあった。二人の童女に手を引かれるというよりは、二人を両手にぶら下げて建物の敷居をまたぐと、松浦 景子という名の僕の遠縁に当たる恰幅のいいおばさんが一人ニコニコしながら僕を迎え入れてくれた。
「拓磨君いらっしゃい、まぁまぁずいぶんと大きくなっちゃって、わたしのこと覚えているかい?といってもまーちゃんとは小さい時分に一度会ったぎりだからねぇ…、あーらあら、年をとっちゃうとついつい昔話長くなっていけないねぇ、まーちゃんもさっそく二人になつかれているようだし。うん 良かった良かった。あぁ、今更言うまでもないとは思うんだけど、今日からはこのお兄ちゃんがあんた達の面倒を見てくれるからね、あんまりおいたしてお兄ちゃんを泣かしちゃだめだよ」
「はーいっ!」
しかし元気良く僕の傍らで答える二人の瞳がその答えを見事に裏切っているのを僕は見逃さなかった。
「ああ、そうそう言い忘れるとこだったけどさっきからお友達が来て待ってるよ、荷物を置いたら客間のほうへ行きなさい、それとこの建物の中は二人に案内してもらうといいよ、私よりもよく知ってるから」言うと小母さんはしばし 僕らを交互に見比べて「もてるねぇ、まーちゃん」と言って その体を揺すりながら豪快な笑い声をあげた。