譚之弐 忌譚 その参
さき程から一人静かな一弘はせっせと顔にエサをやっている。と いうより実状は顔を押さえつけるためにのせられた重石を次々と顔が消化しているというだけの話なのだが、おかげでやつの下品な口上を聞かずにすむのはありがたいが、どうみても自分の質量を超える物体が瞬く間に自分の身体の中に消えていく光景というのは精神衛生上、非常に悪い。
その様子を頭から振り払い、とりあえず彼に再度び礼を述べると、「気にするな、単にヒマつぶしに来ただけだからな」と奴は世にも冷たく言い放ちやがった。
しばし、言うべき言葉を見失い 目の前の男を見るとも無しに眺めていると その顔と名前に何か引っ掛かるものがあった。
そうか!? どうりで見たことがあるはずだ。うちの学校でほぼ毎回十位以内の成績を取っている有名人じゃあないか、続いて この状況下で平然としていられるのが不思議でも何でもない 彼の趣味のことを思い出していた。
その何とも重苦しい空気の中に新たに二つの足音が割り込んで来た。それは母と祖父の雄一郎のものだった。
「ほほう、なかなかたいした処置だ、拓磨は良い友人を持っておるな」
僕はその言葉に何とも言えぬ感情を抱いた。それに気づいたかどうか、祖父はその場に大の字に寝転がっている僕と左手とを見比べた。