君の原稿で本を出せ、と?
ダジャレを楽しんでください‥
世の中に、モノ書きを志望する人がゴマンといることは知っている。
その全員が、メジャーな出版社から本を世に送り出す夢を描き、ベストセラー作家になることを夢想する。若者であれば、『デビュー』という言葉もちらつくであろう。
そして自信作が出来上がったとの確信のもと、出版社に持ち込んだり、投稿したり、応募したりする‥‥
そしてしばらくすると、出版社の編集にたずさわる方々から見て、こちら側が犬コロ以下の存在であることを思い知らされる。いささかの誇張だが、我々は犯罪者よりも軽んじてしかるべき人種であったことを婉曲に、またはストレートに言われてしまう。
なかには目をかけていただく場合もあるんだろうが、最後は、「弊社の稟議に諮らせていただきましが、残念ながら‥‥」なんて手紙をもらってしまう。
少なくとも僕の場合は、そんなケースが圧倒的に多かった。
もちろん、そりゃ~お前に実力がなかったからではないか、と言われたら、それは認める。
だが、そんなやりとりの中にも、笑いの種がある場合も、ある。
自信のある原稿を送り、出版をご検討いただくよう嘆願し、何回か電話を通じて交渉する。
いえ、いえ、決して急ぎませんから、と、ひたすら低姿勢。
「契約したいから上京してほしい」との連絡が、いつ入るのかと心待ちにするものの、何の返事もない。
シビレを切らせて、電話をいれてみる。
「あのぉ、検討のほう、どんなご様子なんでしょうか?」
「あぁ、君かぁ。アレねぇ‥‥‥‥」
「やはり無理ですか」
「ふ~む。内容的には悪くぁないけど‥‥‥」
若干の希望はありそうだと意気込んで、
「悪くないのであれば、では、どうすれば‥‥」
「いやね、ご存じと思うけど、ウチの出版社も小さくってさぁ、君の作品を世に出すなんてことするの、リスキーなんっすよぉ」
人間とは可笑しいものである。
自信のある作品に、誉められたり、貶されたりするケースは予想できるし、対応もできるのだが、『リスキー』と夢にも思わない単語を聞くと、頭がついていけない。おそらくは、売れるか売れないか判らない君の作品を本にするのは、賭け、みたいなもので、特に勝算がない限り出版なんかしないよ、という意味であったのだろう。
でも、その時、僕は『リスキー』の意味がさっぱり解らず、
‥‥打ち合わせなら上京も致しますし、最初はビールで構いませんから‥‥
決して、決して、実話ではございません‥‥