まだ見ぬ“セカイ”を求めて
この超大陸ペインギアという大地には広大な土地の中に大小いくつかの“セカイ”という領土があり、それぞれの地域で各々のやり方の統治がなされている。これは、そんなセカイを巡り……まだ見ぬ未知を探求する物語。
「……ここが、ペインギア……超大陸と呼ばれるだけはあるな」
新たにこの地に降り立った少年は周りを見渡し、息を吐いた。見渡す限りの自然と、動物達……このセカイの領土はペインギアの中でも平穏を保っていると評判で最初に入る玄関口として選ばれることも多い。
「さて、このセカイの中枢になってるっていうフリンデって街は……あっちの方向か」
この「フルー」というセカイは自らの意思で決めて動く、ということに重きを置いている思想が特徴。故にフリンデが中枢を担ってはいるが形だけのものになっている。しかし形だけとはいえど確かに中枢としての機能は持っている為、基本的にはフルーからこの大陸に入った場合最初に向かうべき街だ。
「よし……行くか」
事前に入手しておいた地図からフリンデの方向を確認し歩き出す。道中には特筆するような森や洞窟、建築物等は無いはずなのでまっすぐ歩いていけば問題なく目的地に着くはず……だったのだが。
「……ん?人影……いや、奥に何か見える…………ッ、あれは!」
少年は人影の見えた方へ駆け出した。その人影の奥に怪物が迫っているのが見えたからだったが、どうやらその人影と怪物はまだお互いに気づいていないようだ。これならまだ対処出来る。
「はぁ……はぁ……街は……こっち……こっち……」
「……おい、かがめ!」
少年は怪物に気づかれないよう小声で声をかけながら肩を掴み姿勢を低くさせる。その人物は驚くほどあっさりと引っ張られてくれたので、むしろ少年側がガクンと一瞬体勢を崩した。よく見ると身に纏っている外套の上からでも分かるほど体の線が細い。そして声を聞く限り女性のようだ。
「と……突然……何」
「声は小さめに。アレ。見て」
少年が指さした方を女性も見る。
「……何、アレ……?」
「”ノラ“だよ。要するに化け物だ」
2人の視線の先にいるのはペインギア全土で発生する危険生物。しかし今そこに見えているのはノラの中だと脅威度は低い方の個体だ。
「アレは斥候みたいなもんだからそこまで脅威じゃないけど……見つかって色々呼ばれると面倒だ」
「脅威じゃ、ない……?あれが……?」
「ああ、見つかる前ならこうやって隠れておけば問題ないはず……」
「そ、そう……でも……」
女性は先程から後ろの方向を気にしている。
「あの……あっちにいるヤツには見つかってるんじゃないの……」
「……何?あっち……?」
少年が女性の指す方向へ振り向くと前方にいたものと同種のものと思われる別個体がこちらを見ていた。
「な……いつのまにそんなところに!?」
驚いて立ち上がってしまったことで元々警戒していた個体にも気付かれてしまった。
「しまった……いや、もう見つかってるしあまり関係ないがマズいぞ……!」
「ねぇ、どうするの……?」
「〜〜〜っ、もう見つかってしまった以上しょうがないか……ここは僕がどうにかする!」
「どうにかってどうやって……あんなデッカい連中……」
「そんな余裕は無いから説明は省くけど、これでも僕は”杭打ち“だ。大丈夫、ある程度対抗する術は持ってる」
言い終えると少年はすぐさま片方に向かって駆け出した。まず狙うのは先に見つかった方のより小型な個体だ。
「唸れ風の牙!蒼牙ッ!!」
少年が短い詠唱から放った小さな風の刃は的確に対象の胸部を穿った。
「すごい……何あれ……!」
すぐに振り向きもう一方に狙いをつけた……が、やや大型な個体の方は遠吠えの態勢に入っている。距離的にもとても止められそうにない。
「しまっ……」
と、その時。
「切り裂け、風の刃」
ノラの背後から現れた女性が放った術によりノラの体は真っ二つに寸断された。その女性はそのままこちらへ歩いてくる。敵意は無さそうだ。
「2人とも怪我は……っと、もう一匹いたのか。……君が処理してくれたのか?」
「え〜……っと、成り行きではあるけど……まぁ……とにかく助かった。増援を呼ばれるとキリが無いからな」
「タイミングが良かったようで何より。私はフルーエル団巡回部隊所属、リーエンだ」
「僕はランド。大陸の外から来たばかりだ」
「陸外からの客人だったか。そちらは……」
「私は……あ……アルメアと……いいます。フリンデに向かおうとしていたところ迷って……そっちの人に助けられました」
「そうだったのか。アルメア……だったな。先程から思っていたのだが……君はしばらくの間まともに食事を摂れていないのでは……?」
リーエンはアルメアの体を見回しながら心配そうに尋ねる。ランドもそう思っていたところだった。栄養もエネルギーも足りていないのは誰の目に見ても明らかだった。
「は、恥ずかしながら方向音痴で……別のセカイから領地を跨いで来るのに随分時間がかかって……」
「そうか。ならば私が責任をもってフリンデまで案内しよう」
「えっ!分かるんですか!」
「分かるも何も、フルーエル団はフリンデに本部を構える騎士団だ。巡回を担当しているのもありこの辺の地理にも自信がある。……陸外からの客人、君はどうする?必要なら何か手を貸すが」
「なら僕も案内を頼みたい。ちょうどフリンデに向かっていたところだったんだ」
「承った。では行こう」
3人はフルーの中心、フリンデへ向かい歩き出した。
「……さて、このセカイでは何を見つけられるかな」
道中、ランドは静かに呟いた。
ペインギア……超大陸と呼ばれている広大な大地。
セカイ……ペインギアの中に点在する領地の名称。大小様々で、各地域ごとに特徴も異なる。
フルー……超大陸ペインギアの南方に位置するセカイ。自由意思を尊重し、決断は自らの手で下すという思想を持 つ民が多いことが特徴。大陸内のセカイの中でも特に平和で争いもなく、人々は自由を謳歌している。
フリンデ……フルーの中枢を担う街。
フルーエル団……フリンデに本部を構えるフルー内でも実力者が集う騎士団。
ノラ……ペインギア各地に出没する怪物。タイプによって姿形は様々で、それぞれが厄介な力を持っている。
杭打ち……陸外陸内の出身を問わず、ノラやその他脅威に対抗する術を身につけた者達の総称。それぞれに自分の 得意とする術の属性があり、基本的にはひとつの属性を極めることに修行の大半を費やす。




