婚約破棄と新たな旅立ち
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婚約破棄と新たな旅立ち
魔法学園の庭園で、私は息を殺して立ち尽くていた。
夕暮れの淡い光がアーケードの柱に長い影を落とす中、二人の姿がくっきりと浮かび上がっていた。
私の婚約者、レオン・ヴァンデル。
そして、私の妹、セリア。
レオンの手がセリアの頬に触れ、彼女が目を閉じた。
距離は急速に縮まり、二人の唇が重なった。何度も何度も。
初めてではないのだと。
一瞬、時間が止まったように感じた。庭園の噴水の音、遠くで響く生徒たちの笑い声、すべてが歪んだ鏡のように私の周りで揺らいだ。
私はそっと後退し、大理石の柱の陰に身を隠した。
胸の奥で何かが砕ける音がした。
痛みというより、深い、深い虚無だった。
信頼していた心はこの瞬間に消えた。
ガラスが割れるように二度と元には戻れない。
気持ち悪いし。
来年、私はこの魔法学園を卒業する。高等部への進学を心から願い、夜な夜な勉強に明け暮れた日々。
しかし、レオンは反対した。
「貴女にはそんな危険な道は必要ない。ヴァンデル家の花嫁として、優雅に暮らせばいい」
彼の言葉は優しく、保護的だった。
当時はそれが愛の表れだと思い込んだ。
前世の記憶を持つ私にとって、この世界で初めて「家族」と呼べる人々との絆は、何よりも大切に思えた。
だから、私は進学を諦めた。
レオンのために。
私たちの未来のために。
それが、すべてが嘘だったのだ。
セリアとのキスが発端だが調べるうちにレオンの女性関係が露わになり子どもを産んだ女性もいた。
子供は孤児院に入れられていた。
レオンの父はお金で解決していたようだ。
寮の部屋に戻ると、私は窓辺に立って夜空を見つめた。
星々が淡く輝く中、前世の記憶が蘇ってきた。
別の世界、別の人生。
そこでは私は孤独だったが、自由だった。
自分の選択で道を切り開き、時には傷つきながらも、確かな手応えを感じながら生きていた。
「この世界でも、私は自分自身で生きる」
囁くようにそう言うと、胸の虚無が少しずつ熱い決意に変わっていくのを感じた。
翌朝、私は学園長室を訪れた。老魔導師アルバスは、机の向こうから鋭い目で私を見つめた。
「高等部への進学を希望する、だと?」
「はい。そして、卒業後は冒険者ギルドに登録するつもりです」
アルバスは長い白髭を撫でながら、ため息をついた。「レオン・ヴァンデルとの婚約はどうする?」
「破棄します」
言葉が部屋に響いた。
アルバスの目が一瞬、驚きで見開かれたが、すぐに深い理解の色に変わった。
「彼がセリアと関係を持っていることは知っている」
私の息が止まった。アルバスはゆっくりと立ち上がり、窓辺に歩み寄った。
「私はこの学園のすべてを見守っている。お前の才能も、お前の犠牲も、そしてお前の覚醒もだ」
「覚醒?」
アルバスが振り返り、不思議な微笑みを浮かべた。
「前世の記憶を持つ者よ。
お前は特別な運命を背負っている。高等部では、そんな者たちだけが学ぶ秘術がある」
次の日、私はレオンを庭園に呼び出した。
彼はいつもの優雅な笑顔を浮かべて現れたが、私の表情を見て、その笑みが消えた。
「婚約を破棄しましょう」
レオンの顔が一瞬、驚きで歪んだが、すぐに冷たい嘲笑に変わった。
「そうか。セリアのことを知ったんだな」
「レオンあなたを信じた自分が愚かだった」
レオンの目に怒りの色が走った。「ヴァンデル家を拒むとはな。
君の家族はどうする? 私の父が貴女の家に圧力をかけるのを望むのか?」
その時、私の背後から声がした。
「私の家族は、もうあなたの脅しに屈しない」
振り返ると、そこには養父と養母、そして涙を浮かべたセリアが立っていた。
セリアが一歩前に出た。
「姉さん、ごめんなさい…私…」
養母がセリアの肩に手を置き、私を見つめた。「私たちはすべて知っている。アルバス学園長から連絡があったのよ。あなたが進学を諦めた本当の理由も、レオン君がセリアに近づいた理由も」
養父が険しい表情でレオンを見据えた。「ヴァンデル家が我が家に貸しを作っていることは忘れないでいただきたい。もし娘たちにさらに害をなすようなことがあれば、その負債を即時返済していただくことになる」
レオンの顔から血の気が引いた。彼は一言も言わず、踵を返して去っていった。
アルパス学園長の手伝いもあり、婚約は破棄になった。
ヴァンデル家の有責で慰謝料や我が家との諸々の事業提携も解消されてヴァンデル家は大変らしい。
一年後
卒業式の日、私は高等部の制服に身を包んで式場に立っていた。
アルバス学園長から卒業証書と、高等部への推薦状を手渡された。
そう、試験に合格したのだ。
「君の旅は始まったばかりだ。前世の記憶は贈り物であり、呪いでもある。どう使うかは君次第だ」
式の後、私は冒険者ギルドへ向かった。
受付の職員が私を見て驚いた顔をした。
「こんなに若い魔導師が冒険者登録? しかも高等部への進学者が?」
制服を見て驚いている。
「はい。そして、これが最初の依頼です」
私は依頼書を差し出した。
そこには「古代遺跡の調査」と書かれていた。
かつて前世の記憶の中で見た、この世界の成り立ちに関わる場所だ。
受付魔導師がため息をつき、登録書類に魔法の刻印を押した。「では、最初の任務の成功を祈る。…名前は?」
私は少し考えてから答えた。
「リナ・エーテルウィンド。かつての名前は捨てた。これからは、この名前で生きていく」
ギルドを出ると、春の風が頬を撫でた。
かつて婚約者のために閉ざした翼が、今、ゆっくりと広がっていくのを感じた。
道は長く、危険に満ちているだろう。しかし、私はもう誰かのために生きることはない。
自分の選択で、自分の力で、この世界と向き合っていく。
遠くで鐘の音が鳴り響き、新たな旅の始まりを告げていた。
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