1章 ー08
(良かった…!)
透子の瞳に再び涙がせりあがってくる。
「その人間をどうした?」
「え?空いてる静かな部屋に寝かしましたよ」
「そうか。快は下がれ」
そう言って立ち上がった白拓は笑っていた。
「なぁ、その人間を生かすも殺すも俺次第だと分かっているか?」
白拓は愉快そうに目を細める。
「止めて!」
透子は傷む体を起こし、白拓を睨む。
「俺はお前ら人間と違って無駄な殺生は好まないさ。だが、ただのお人好しでもない」
(何が言いたいのよ)
透子は白拓を睨む。
「お前がその身を捧げると言うなら、助けてやっても良い」
(私の身を捧げる?供物にするって事?)
透子は崖から落ちる前の事を思い出す。
(どちらにせよ、誰も私が生きる事を望んでないのね)
自分を追ってきた男達も、目の前の妖かしも似たものだと思い自嘲する。
「分かったわ」
透子は美しい野狐を見上げる。
(どっちも似たようなものだけど、ばっちゃんは助かる)
どうせ自分の命を捧げるなら、誰かが助かる方が良い。
透子のどこか諦めたような、それでいて真っ直ぐな瞳に白拓は笑みを深めた。
「今の言葉、反古にするなよ」
白拓は屈み、長い睫毛に縁取られた瞳で透子の瞳を覗き込む。
「そっちこそ」
透子は負けじと白拓の薄茶の瞳を見つめ返した。
(あぁ、本当に愉快な人間だ)
ククッと低く笑った後、白拓は何の躊躇いもなく透子に口づけする。
(な?!)
目を閉じている白拓に対して透子はこぼれんばかりに開眼する。
「契約の印な」
白拓はそう言って妖艶に微笑むのだった。




