2章 ー05
透子…崖かけ落ちたところを白拓に助けられる。
ナツ…捨てられていた赤子ー透子ーを拾い育てる。
白拓…見目は良いが口の悪い妖かし。人間嫌いの野狐らしいが、透子を助ける。
快…すねこすりの男の子。人懐こい笑みをよく浮かべている。
◇
食事が終わりナツの部屋を出ると、廊下には何の気配もなかった。
(誰も居ない?)
透子は左右を確かめそっと突き当たりを左に曲がった。
すると帯戸が目の前に現れた。
「どうなってるの?」
今までの知覚から言うとおかしいのである。
全く、帯戸など見えてなかったのだから。
「屋敷に妖術をかけてある。見たままだと思わない方が良い」
ギギッと重そうな音を立て戸が開き、白拓が透子を見下ろす。
帯戸の中には幾人もの影があった。
「あら、嫌だ。相変わらず貧相ね」
そう声を発したのは朱奈であった。
今日は黒地に金の揚羽蝶の描かれた着物姿である。
(貧相……)
着物の事ではないと分かっているが、つい透子は朱奈と自分の着物を見比べてしまった。
「こっちを見ないで下さる?自分でも哀れでしょうから」
朱奈の言葉にクスクスと笑い声が生じた。
見ると何人かの女達が笑っている。
「朱奈」
白拓が優しく窘める。
「はぁい。もう言いませんわよ」
白拓の声に朱奈が横を向いた。
「お前も入るか?」
ううんと透子は首を振る。
人間は自分だけに違いないのだから。
「そうか。部屋に戻ると良い。快、膳を下げろ」
「はい!」
薄暗い部屋の中から快が出てきて、戸の前で皆に一礼する。
「行きましょう」
透子は快に促され、膳を置いてきたナツの部屋の前まで戻る。
「片付けて参ります」
快は二人分のお椀を重ねて、下げようとした。
「待って!ごめんね、あの、えっと……やっぱり中の事が気になって……」
快には迷惑だろうなと思いつつも帯戸の向こう側が気になって仕方ない。
「中では今後について話し合っていて……」
「ねぇ、そもそも今後どうするつもりなの?」
白拓には聞けないが、快になら聞けると透子は遂にその事について尋ねた。
掌は妙に汗ばんでいる。
「……透子さん、廊下で話すのも何ですから部屋に行きませんか?」
「あ、うん。そうね」
快と二人で空いた膳を一先ず透子の部屋に運び入れた。
「白拓様からは何て聞いているんですか?」
よいしょと快は透子の前に正座する。
透子もその場に正座した。
「えっと……協力するよう言われてます」
さすがに"身を捧げろ"と、言われたとは言えなかった。
「そうなんですか。白拓様は人を滅ぼす為に……」
「今、何て?」
サラリと物騒な言葉が聞こえた気がした。




