2章 ー01
見知らぬ男達に追われて崖から落ちた透子を助けてくれたのは狐の妖かし・白拓。
その白拓の屋敷に泊まる事にした透子だが……。
透子は暗い所に独りで立っていた。
辺りを見渡していると、ボウと光が灯り、そこではナツがいつものように針仕事をしている。
喜んでそこに行こうとする透子の頭を鷲掴みして止める者がいた。
それは尖った歯を覗かせながら「身を捧げるんだろ?」と、よく通る綺麗な声で透子に囁く。
目の前には煌々と燃える炎が見えた。
「いやー」
透子は叫びながら布団から身を起こした。
(はぁ…はぁ……夢?)
行灯のある薄暗い部屋を見渡す。
寝る前と違うところと言えば、このまま寝かせば良いと置いといた白拓がいない事だけである。
(あの声……)
夢の中の声は白拓であった。
(元より白拓は人間嫌いだものね。でも……)
実際、火炙りにされるのだろうか。
透子は自分の腕をさすった。
「透子さん。あ、起きてますか。おばあさんが目を覚ましましたよ」
静かに襖を開けた快が人懐こい笑みを浮かべている。
「本当?!教えてくれて有り難う」
透子は急いで布団から出た。
「透子さんが行って下さいますか?見知らぬ僕が顔よりは良いでしょうし。あ、あと、僕達が妖かしである事は……」
「黙っておいたら良いのでしょ?むしろ、そんな事言って貴方達の耳を見たら卒倒してしまうわ」
透子がそう言うと快は安心したように笑った。
透子は部屋を出て、ナツの部屋を開ける。
襖は音もなく開くと、布団の上で左右を見渡すナツと目が合った。
「透子!」
「ばっちゃん!」
透子はナツの胸に飛び込んだ。
「大丈夫かいね。怪我ないがか?」
ナツは心配そうに透子の体を見る。
「うん。あのね……」
透子は親切な人が自分もナツも保護してくれて、匿ってくれていると説明した。
「そうかいね」
ナツはどこか元気がなかった。
どうしたものかと思っているとコンコンッと襖の縁を叩く音がした。
「入りますね」
そう言って入って来たのは人型の白拓であった。
「初めてまして家主の田原 白拓と言います。透子さんから追われていると聞きました。ここは透子さん達が住んでいた所から離れているので安心して下さいね」
それではと白拓は部屋を出て行った。
「……あの人は男かいね?美しいねぇ」
ナツは目をぱちくりしている。
「うん、そうね」
美しい顔をしているけど、人じゃないのよと言いたいのを透子は我慢する。
「透子も気づいてるかも知れないけど、おら達は血が繋がってねぇ。大きい木の根元に赤子がおくるみにくるまれてて、それを……だから、あの男達は本当のあんたの親を知ってるんでないかと思ってんだ」
ナツは布団に落としていた目を上げ、透子に笑って見せた。




