48 名前を決めるのは大変です
聖 女 :フローラ・レイナ(白)
皇太子 :オスカー・ヴァル(赤)
商店のおばさんがお医者さんを連れてきてくれて、無事に出産できた。
赤い髪、ルビーのような瞳。
間違いなく、オスカーの子だ。
私の宝物。
「…名前は何にしようかしら。太陽、宝物、紅玉…」
まだ、しわくちゃの息子を見ながら名前を考えてみる。
「間に合わなかった…あ~。立ち合いたかったのに~」
その声を聞いて、ビックリする。
久しぶりの、沸く…オスカー?
妄想が立体化したのかしら。
それにしても、やけにリアルだわ。
髪の毛ぐちゃぐちゃだし、汗もすごいし…
慌ててきたのがわかる。
いつも完璧な『王子様』なオスカーの珍しい姿だ。
と、オスカーが近づいてきた。
「リュビ、いい名前だね。リアムなんてどう?守護神っていう意味があるらしいよ」
オスカーがまだ、ふにゃふにゃの息子を抱き上げた。
どうしてオスカーがここに居るのかを考える。
もしかして…奪いにきたのだろうか。
私が妊娠していることをどこかで聞いて。
将来、お家騒動なんて起きたら大変だもんね。
息が上手にできない。
オスカーには幸せになってほしいって本当に思っている。
でも、その子は…
「お、お願いします、殿下…その子は、私の子で。殿下とはなんの関係も…ないんです。今後も、絶対に関わり合いにならないと誓います。ですから、どうか、命ばかりは…」
関りがないなんて、無理すぎるのはわかってる。
赤い髪、ルビーのような瞳。
成長するほど、オスカーに似ていくだろう。
それでも、この子が生きるためなら、なんでもする。
まだ生まれたばかりなのに、不思議なものだ。
この子のためなら、何でもできる気がする。
ベッドから床に降りて、土下座をしようとして、オスカーに手を掴まれた。
オスカーを見上げると、すごく寂しそうな眼をしている。
どうして、そんな顔をしてるんだろう。
「もう、オスカーとは呼んでくれないの?」
そう言われて、ドキっとした。
推しのカッコよさは健在だ。
そのとき、オスカルという名前もいいなと思ってしまった。
オスカーがベッドに座らせてくれる。
「殿下と…学友であったときとは、違いますから。皇太子妃殿下に怒られてしまいますよ」
「ん…皇太子妃殿下は、フローラだから大丈夫」
オスカーにそう言われて、少し戸惑った。
フローラ…私と同じ名前の方が皇太子妃殿下になったのね。
ややこしい。
「そうでしたか。フローラ殿下が…」
ややこしいわ。
妃殿下のことは置いておいて、ともかく、オスカルを返してもらわないと。
「あの…その子を…」
オスカーから返してもらおうとして、オスカーにひらりとかわされる。
本当に、私から奪う気なんだろうか。
「お願いします。その子を、返してください」
「この子、俺の子だよね。だったら、時期皇太子だもん。王城に連れていかないと」
オスカーの言葉に、心臓が潰されそうになった。
オスカーと一緒になれなくても、オスカルと一緒に生きていけると思ったのに。
ぽろぽろと涙がこぼれる。
でも、こんな森の中で暮らすより、王城のほうがいい暮らしはできるはず。
ポジティブに考えよう。
オスカルにも、幸せになってほしいもん。
「…わかりました」
顔をあげられない。
もう1度、オスカルを見たら、たぶん、号泣しちゃう。
返してほしいと我儘を言って、オスカーを困らせる。
早く、立ち去ってほしい。
そう思っているのに、オスカーはなかなか立ち去ってくれない。
「…何してるの。一緒に帰ろう」
そう言われて、ようやく顔をあげた。




