46 結婚はなくなり教会に戻ります
聖 女 :フローラ・レイナ(白)
皇太子 :オスカー・ヴァル(赤)
結婚式まであと少しとなった。
周りは慌ただしいけど、私はいつも通りだ。
学園は卒業したけど体を動かすことが好きだから、王城の軍でときどき剣術を学んでいる。
…こっそりと、だけど。
結婚式のドレスも決まったけど、オスカーは国の何かをしていて忙しそうで、しばらく会えずにいた。
オスカーがいないことをいいことに、剣術の稽古に励んでしまった。
オスカーと会えなくて寂しくて、どんどん剣術の稽古にのめりこんでいたようにも思う。
「あれ?…しおりがない」
剣術の稽古を終えて部屋に戻ってきたら、いつも持ち歩いていた薔薇の花びらのしおりがなかった。
稽古をしているときに落としたのかも。
そう思って、稽古場に向かった。
本当は、護衛の人についてきてもらわないといけないんだけど、私も強くなったしね。
夜も遅かったから、わざわざ声を掛けるのは申し訳ないと思った。
…いや、ただ面倒くさかっただけだろう。
稽古場にいくと、しおりが落ちていた。
「やっぱり、ここでしたか」
ひとりきりの夜の稽古場は、ちょっと怖い。
恐怖を和らげるために、声を出して拾ってみた。
と、誰かに後ろから殴られた。
本当に、いい気になっていたんだろう。
こんなことで、気絶させられるなんて思っていなかった。
人の声が聞こえてきて、目が覚める。
頭を殴られて痛い。
上半身を起こすと、騎士の1人が私にタオルをかけてくれる。
…タオル?
なぜそんなものをかけてもらったんだろうと自分の姿を見て、着衣が乱れていることに気がついた。
下着が見えてしまっている。
さぁっと血の気が引いていく。
殴られた後の記憶はない。
それでも、何もなかったと思う…
でも、こんな姿を見たら、誰だって何かあったと思うだろう。
何もなかったと言ったところで、それを証明する方法はない。
…終わった。
オスカーはすぐに駆けつけてくれた。
私との結婚が予定通りおこなえるように、本当に頑張ってくれた。
でも、最終的に、婚約は解消。
結婚は取りやめになった。
ざまぁして、学園を卒業できて、いい気になっていた私って本当に大馬鹿だ。
私は一旦、教会に戻って、これからのことを考えることにした。
オスカーが教会近くまで送ってくれる。
馬車の中で何か話したかったのに、何も話せないまま教会近くの街に到着した。
馬車を降りて、少し歩く。
これで、オスカーともお別れなんだなと思ったら、最後に我儘が言いたくなった。
「オスカー様、覚えてますか?結婚できなくなったら、そのときは、最後の思い出に一夜を共にしてくださいってお願い…」
そこまで言って、オスカーの目を見て、無理だなと思った。
「なんて、言ってたこともありましたね。本当になっちゃいましたね」
そう言って、笑ってごまかす。
オスカーが私の手を掴んで、そのまま2人でホテルに入る。
「オスカー様?」
今日は、ここで宿泊されるんだろうか。
「君を憐れんで一夜を共にするわけじゃない。哀れなのは、俺だから」
オスカーがそう言うから、涙があふれた。




