4 推しがかぶったかもとソワソワしています
聖 女 :フローラ・レイナ
悪役令嬢:アリシア・ヴァレリ
皇太子 :オスカー・ヴァル
隣国の皇太子:ヴァン・セドリック
「気をつけてね。あ…ヴァン・セドリックです」
助けてもらったお礼がしたいからと、アリシアが無理矢理、ヴァンに名前を聞いてくれた。
出会いイベント、完了。
ヴァンが立ち去ると、その後ろ姿をアリシアがじっと見ていた。
もしかして…
「ヴァン、かっこいいよね。アリシアも、ヴァンのほうが好きになっちゃった?」
アリシアはキミカナTをプレイしてない。
知らなかったら推しにはできない。
知ってしまった今は、どう思っているんだろう。
「……暗い」
アリシアがぽつりと一言そう言った。
「え~?フローラは、あんな暗いのが推しなの?」
私にはわからないといった感じで、アリシアに言われてしまった。
「同じ皇太子でも、オスカー様は太陽。ヴァン様は…月…より暗い」
アリシアが言葉を選んで選んで、そう言った。
ヒドイ言われようだと思うけど。
オスカーはたしかに、底抜けに明るい。
私からすればチャライと感じるところもあるけど、カッコいいから許してしまう。
対して、ヴァンは口数も少なくて、何を考えているかわからないという印象。
そこが素敵なんだけど。
たぶん、お姉さま系美人のアリシアの恋人という設定で作られたから、大人っぽいキャラクターにされたんだろう。
なにはともあれ、推しがかぶらなくてよかった。
だって、ここはキミカナTの世界。
アリシアがヴァンのほうがいいと言ったら、私は身をひかなくてはいけなくなるだろう。
そういう、ストーリーだもん。
それに、アリシアは私の友達だから、恋は応援してあげたい。
でも、ざまぁだけは、回避してもらえるようにお願いはしたい…
イベントクリアのため、お昼ご飯は食べ逃してしまったけど、午後の授業をサボることはできない。
「寮に帰ったら、お茶にしましょう」と約束をして、教室に戻ることにした。
きゅるきゅると鳴るお腹を抱えて、つまらない授業を受ける。
ちらっと、アリシアを見た。
とても、私と同じようにお腹が空いているとは思えない。
シャンとして、綺麗。
ヴァンの隣に並んだら、とてもお似合いだろうな。
アリシアは、オスカーともヴァンとも、お似合いだ。
やっぱり、アリシアが本当の主人公だからなんだろう。
羨ましい。
ヴァンと恋人になりたいなら、私もあんな風にシャンとできるようにならないといけないかも。
そう思って、座りなおしてみた。
でも、1分ともたない。
そもそも、勉強は好きなほうじゃない。
早く終わらないかなと、窓の外を見ていた。




