30 秘密のカレーデートです
聖 女 :フローラ・レイナ(白)
悪役令嬢:アリシア・ヴァレリ(黒)
皇太子 :オスカー・ヴァル(赤)
隣国の皇太子:ヴァン・セドリック(紫)
オスカーの許嫁:イザベル・サンダー(なし)
腕を掴まれて、ぎょっとして振り返る。
「ひとりで散歩?奇遇だね、俺も」
ひょうひょうとそう言うオスカーを見て、心底、ホッとした。
ホッとして、オスカーに抱きつく。
自分の行動に、自分が1番ビックリした。
「ビックリしたじゃん。…もう…」
不安とか寂しさとか、空腹とか。
色んなものが、涙と一緒に溢れてしまった。
オスカーを困らせるってわかってるのに。
「うん。ひとりにさせてごめんね」
オスカーがそう言って、背中を擦ってくれた。
優しいじゃないか。
そんな風に優しくされると、涙が止まらないんだぞ…
オスカーに抱きついたまま、しっかり泣いて、スッキリした。
「…っ、で、どうして、ここにいらっしゃるんですか?」
まだ、鼻に鳴き声が残っていて恥ずかしい。
「散歩…じゃなくて。心配だったからに、決まってるだろ」
オスカーが照れたように空を見る。
オスカーが照れるなんて、私のほうが照れるじゃないか。
「…ありがとう。そういうところ…その…好き」
モジモジしながら、そう伝えてみた。
沈黙…
なんか言ってよ、恥ずかしい。
そう思ってオスカーを見たら、オスカーが赤くなっていて、さらに恥ずかしくなった。
きゅるきゅるきゅるきゅるるるぅぅ…
すごくいいところで、お腹が盛大に鳴った。
そういえば、お腹空いてたんでした。
「ご飯、食べてこなかったの?」
オスカーに言われて、何と答えたものか悩む。
「…ああ、イザベルと同じグループだったよね。こっちにおいで」
オスカーがそう言って、少し開けたところに連れてきてくれた。
なぜか、騎士のカイロがいる。
「準備はできてますが…本当に、こちらに泊まるんですか?」
そう言って、テントを見せた。
「うん。今日は、フローラとここに泊まるから。俺のグループとフローラのグループの先生にそう伝えておいて」
オスカーがすごくめちゃくちゃなことを言いだした。
「え?か、課外授業って、それで、いいんですか?」
100歩譲って私はいいだろうけど。
いても居なくてもだしね。
オスカーはダメなんじゃないだろうか。
一応、皇太子殿下なんだし。
「私はこのテントに泊まらせていただいて、オスカー様は施設に戻ったほうがいいですよ」
「フローラは戻らないんだろ?じゃあ、俺も戻らない」
オスカーがそういうと「カレーを作ろう」と張り切っている。
正直に言えば、すごく嬉しい。
でも、これは皇太子としてよくない。
「わかりました。私も施設に戻りますから、オスカー様も戻ってください。皇太子ともあろう方が、課外授業をサボるなんてよくないです」
クラスの中だけならともかく、全学年が参加する課外授業だ。
オスカーに悪い噂がたつのは好ましくない。
オスカーが少し悩んで「わかった。カレーを食べたら戻ろう」と言った。
カレーは私も食べたい。
そんなわけで、2人でカレーを作って食べた。
カイロがアリシアと同じグループだったから、アリシアがどうしているか聞いたところ、ヴァンと消えたらしい。
ラブラブならよかった。
いらぬ心配だったようだ。
「なんだ。俺に会いにこようとしてくれてたんじゃないんだ」
オスカーがそう言って膨れている。
「オスカー様は心配しなくても、お強いから大丈夫だと思ったんですもの」
そう伝えて、オスカーの手を握った。
カレーを食べて、2人で空を眺めて、オスカーに施設まで送ってもらう。
本当は、ずっと一緒に居たい。
でも、私が帰れと言った手前、我儘も言えない。
「早く…課外授業が終わるといいですね」
そう伝えるのが、精一杯だった。




