3 出会いイベントを発生させようと思います
聖 女 :フローラ・レイナ
悪役令嬢:アリシア・ヴァレリ
皇太子 :オスカー・ヴァル
隣国の皇太子:ヴァン・セドリック
「やあ、君が聖女のフローラ・レイナだね。フローラって呼んでもいい?」
きたきた、皇太子オスカー・ヴァル。
「いえ、フローラ・レイナでお願いします。それより、皇太子様。私のお友達を紹介させてください」
挨拶もしない不敬な女の子を演じてみる。
「帝国の星、皇太子殿下にご挨拶申し上げます」
アリシアが見事な挨拶をする。
さすが、御令嬢は違う。
オスカーのキャラクターカラーは赤。
アリシアのキャラクターカラーは黒。
お似合いなんだよね。
オスカーがカッコいいのは乙女ゲームだから当然なんだけど、アリシアもとても綺麗なのだ。
私、つまりはフローラは可愛い系なのに対して、アリシアはお姉さま系の綺麗さがある。
「ふうん。フローラのお友達なんだ。よろしくね。学園内では、堅苦しい挨拶はしなくていいからね」
オスカーはそう言って、私を見た。
フローラって呼ぶなって言ったのに。
「フローラは、お昼はどうするの?よかったら、一緒にランチをどうかな?」
オスカーにそう言われて戸惑う。
ゲームのオスカーってこんなにグイグイくるタイプだったっけ?
「用事がありますので、また今度にさせてください」
本当はアリシアとオスカーを2人にしてあげたいから、2人でどうぞと言いたかったけど。
お昼休みにはヴァンとの出会いイベントが待っている。
「ごめんね、アリシア」
小声で伝えると「出会いイベントが無事終わったら、よろしく」と返された。
もちろん、もちろん。
つまらない授業を受けながら考える。
そっか、この世界はキミカナじゃないから、オスカーがグイグイくるのかも。
アリシアとヴァンが恋人になって、私とオスカーをざまぁするのがメインルートだから、私とオスカーがくっつくように話が進められているのかもしれない。
気をつけないと。
アリシアのためだけじゃなく、私のためにも、できるだけ、オスカーには近づかないようにしよう。
お昼休みになって、アリシアと2人で出会いイベントが発生する場所に向かう。
そこは、普段はあまり使われない建物の階段。
キミカナTでは、ここで、聖女が悪役令嬢をイジメる。
勢いあまって聖女が悪役令嬢を階段から突き落としたところで、ヴァンがアリシアを助けるのだ。
だが、それでは私がヴァンに嫌われてしまう。
ざまぁ一直線だ。
だから、アリシアには不注意で落ちそうになってもらう必要がある。
本当に落ちる必要はない。
キミカナTでも、落ちる前にヴァンが助けてくれていたから。
アリシアが階段で「こうやったら滑るかしら」と練習している。
何度か、それっぽく落ちそうになってもらっているけど、全然ヴァンは現れない。
「今日じゃなかったのかな?」
ぽつりと呟く。
ゲームでは『数日後』と書かれていただけで、詳しく何日にイベントが起こるかまでは記載されない。
「今日じゃなかったら、明日もこればいいよ」
アリシアがそう言って、上の段にいる私のところにこようとして、本当に足を滑らせた。
「アリシア!!」
びっくりして手を伸ばす。
アリシアも手を伸ばしてくれたけど、あとちょっとのところで掴めないまま、落ちていった。
人が落ちるときって、一瞬だと思っていたけど、とてもゆっくり落ちていく。
体が固まって動けないでいると、紫色の髪の毛が見えた。
人が落ちるような音は、していない。
かわりに「大丈夫?」と美ボイスが聞こえてきた。
アリシアの体を、ヴァンが支えてくれていた。
目の前に、ヴァン・セドリックがいる。
でも、それよりも。
「あ、アリシア~。よかったよ~」
本当に落ちたかと思った。
ほっとして、ポロポロと涙が溢れる。
「ご、ごめんね。私も、落ちたかと思った~」
アリシアも泣いている。
怖かったんだろう。
目の前に会いたかったヴァンが居るのに、ほったらかしにして、アリシアと抱き合って泣いてしまった。




