2 悪役令嬢さんと仲良くなろうと思います
聖 女 :フローラ・レイナ
悪役令嬢:アリシア・ヴァレリ
「あ、フローラ・レイナさん…こ、こんにちわ」
馬車から降りてきたアリシア・ヴァレリがそう挨拶した。
キミカナTのアリシア・ヴァレリは、聖女と同じく転生者という設定だった。
つまり、私と同じ。
でも、アリシア・ヴァレリは、この世界をキミカナだと思っている。
自分がざまぁされる悪役だと思っているから、私にとても遠慮しているように見えた。
ちょっと震えていて、小動物みたいで可愛い。
私の目標は、アリシア・ヴァレリと仲良くなって、ざまぁされないこと。
そのためには、なりふりなんて構っていられない。
まわりでヒソヒソと話し声が聞こえてくるけど、周りが何と言おうと、私はアリシア・ヴァレリと仲良しになる!
「あの!アリシア・ヴァレリさん…あの、今度、2人きりで、お茶しませんか!」
アリシア・ヴァレリの手を掴んで、直球でお茶に誘ってみた。
突然のことに、アリシア・ヴァレリは目を丸くして驚いている。
「お願いします!2人きりで!!」
そんなわけで、押し切るカタチでアリシア・ヴァレリと2人でお茶をすることになった。
「2人きりで」と何度もお願いしたので、寮のアリシア・ヴァレリの部屋に呼んでもらえた。
同じ寮なのに、私の部屋よりずっと豪華で素敵だ。
やっぱり、お金持ちの令嬢は違う。
「あの…令嬢に突然声をおかけしてしまってすみませんでした」
彼女は気にしないだろうと思ったけど、一応謝罪しておく。
「い、いえ…そんな。私…その、フローラ・レイナさんを…イジメたりするつもりはなくて…」
アリシア・ヴァレリがおどおどと答える。
わかってる。
あなたが私をイジメないことも、この世界の主人公があなたであることも。
私はヒロインという名のヴィランで、あなたは悪役令嬢という名の主人公なんだもん。
出されたお茶を一口いただいて、呼吸を整える。
「実は、私、転生者なんです」
そう伝えると、アリシア・ヴァレリは「知ってます」と答えた。
違った。
「そうじゃなかった…私、あなたが転生者だと知ってるんです」
そう伝えると、アリシア・ヴァレリは手で口をおさえた。
「聖女様って、そんなことまでわかるんですか?」
そう言って、驚いている。
この人、すごく素直ないい人なんじゃないだろうかと思った。
「いえ…そうじゃないんです…」
本当は適当なことを言って、アリシア・ヴァレリと仲良くなって、学園生活を送ろうと思っていた。
でもなんだかこの人、すごくいい人っぽい。
そう思ったら隠し事をしたくないなと思ってしまった。
だから、ここがキミカナの世界じゃなくて、キミカナTの世界であること。
主人公は私じゃなくて、アリシア・ヴァレリだということを伝えた。
「そうなんですね…キミカナTは…知らないですね」
話を聞いたアリシア・ヴァレリは困惑している。
「たぶん、キミカナTがリリースされる前に、私は死んだんだと思います」
複雑な顔でそう言った。
お互いの状況がわかったところで、本題に入らなければいけない。
「私の目標は、ざまぁされないことなの。もちろん、あなたをざまぁするつもりもない」
「わかってます。私の目標も、同じだったので」
話が早い。
そんなこんなで、フローラ、アリシアと呼び合う仲になれた。
「え~、じゃあ、アリシアはキミカナで誰推しだったの?」
仲良くなったら、自然とそういう話になる。
「もちろん、皇太子のオスカー・ヴァル様に決まってるじゃん…あ、でも、フローラの恋人になるのか」
アリシアが残念そうに言った。
アリシアはオスカー推しなんだ。
「実は私、オスカーより、ヴァン・セドリック様のほうがタイプなんだよね」
私がそう言うと、アリシアが興味を持った。
ヴァン・セドリックは、隣国の皇太子だ。
「隣国の皇太子っていうことは、私の恋人になる予定の?」
アリシアがそう言って、ピンときたみたいだ。
私とアリシアは、感覚が似ているのかもしれない。
「じゃあ、フローラがヴァンとくっついて、私がオスカーとくっつけば」
「お互い、推しと恋人になれる!」
ここに、聖女と悪役令嬢、ヴィランと主人公の協定が成立した。
それから2人で綿密な計画を練る。
アリシアはキミカナのストーリーは知っているけど、キミカナTのストーリーは知らない。
キミカナのストーリーを軸に、キミカナTでどんなことが起こるのかを説明していった。
「じゃあ、まずは、出会いのイベントだね」
2人を攻略するには、まず2人に会わないといけない。
オスカーは同じクラスになる設定だから、ほかっておいても会える。
でも、ヴァンとはクラスが違うので出会いイベントは重要だ。
何度もアリシアと打ち合わせをして、出会いイベントに備えることにした。




