18 スチルにないデートのようです
聖 女 :フローラ・レイナ(白)
悪役令嬢:アリシア・ヴァレリ(黒)
皇太子 :オスカー・ヴァル(赤)
隣国の皇太子:ヴァン・セドリック(紫)
オスカーの許嫁:イザベル・サンダー(なし)
こういうときに限って、馬車が来ない。
呼んでから、ずいぶんと経つのに。
ずっと立ちっぱなしで疲れてしまった。
本当に、なんだか、踏んだり蹴ったりだ。
地面を見ていたから、涙が溢れてきた。
何が悲しいのかわからない。
ダンスが踊れなかったことが悲しいのか、馬車が全然こないのが悲しいのか。
嘘。
本当はわかってる。
オスカーが、許嫁とダンスを踊っているだろうことが悲しいんだ。
きっと、会場が大注目していることだろう。
オスカーはいつも通り素敵で、パートナーのイザベラもキラキラしていて。
幸せオーラに包まれてる2人をイメージして、こうやって馬車を待ってる自分が惨めになった。
「歩いて帰ろう」
涙を拭いて、声を出してみる。
決めたのは、自分じゃないか。
これでオスカーは、廃太子になることはない。
うん、うん。
ほぼほぼ、ミッション完了だ。
あとは、私がひっそりしていればいい。
なんだったら、学園もやめてしまえばいい。
明日にでも、教会に手紙を出してみよう。
認められるかどうかわからないけど、できることはやらないと。
そう思って、歩き出す。
「え~。歩いて帰るの?」
歩き出してすぐ、聞き覚えのある声が聞こえた。
そんなわけはないと思いながら、振り返る。
期待してしまっている自分がいて…
「よかったら、お送りしますよ?聖女様」
そう言って、オスカーが立っていた。
期待通り現れるとか、ほんとに、乙女ゲームってすごい。
泣きそうになって、奥歯を噛みしめる。
「イザベル様はどうしたんですか?」
「どうしたんだろうね。踊ろうと思ったら靴がね。ダンス用じゃないことに気がついて」
どんな理由だ、それ。
本当はなんとしてでも、オスカーを会場に戻すべきだと思う。
でも、来てくれたことが本当に…自分でも信じられないくらい嬉しくて。
一緒に会場のお庭を散歩することにした。
明日、ちゃんと教会に手紙を書くから。
今日だけは、少しだけ、思い出をつくらせてもらおう。
オスカーと色を合わせた衣装で、ロマンチックな雰囲気のお庭を散歩する。
もし、ゲームでこのシーンがあったら、素敵なスチルになっただろう。
薔薇がとても綺麗に咲いていた。
「綺麗な、赤色ですね」
ネックレスの赤みたいに、深い赤色に見えた。
「そうだね。フローラは薔薇が好きなの?」
オスカーに尋ねられて、言い淀む。
薔薇は王家の紋章にも使われているから、嫌いとは言えない。
でも、好きだと言えば、王家であるオスカーを好きだと言ってしまうようで躊躇われた。
「オスカー様!」
イザベルがこちらに向かって走ってくる。
時間切れみたいだ。
イザベルがオスカーの腕を掴む。
「オスカー様、散歩に付き合っていただきありがとうございました。ごきげんよう」
挨拶が終わらないうちに、オスカーはイザベルに連行されていった。
あれくらい、強引な女性のほうがいいのかもしれない。
赤い薔薇。
花を摘むことはできないけれど、せめて。
花びらを1枚、思い出にもらっていくことにした。




