12 皇太子殿下には諦めてもらおうと思います
聖 女 :フローラ・レイナ(白)
悪役令嬢:アリシア・ヴァレリ(黒)
皇太子 :オスカー・ヴァル(赤)
隣国の皇太子:ヴァン・セドリック(紫)
コーヒー1杯だけのつもりが、なぜかケーキがついてきた。
オスカーがニコニコしながら私を見ている。
変な人。
かなり失礼なことを繰り返しているのに。
好きじゃないって伝えたのに。
「あの…そんなに聖女の力がほしいんですか?」
思い切って聞いてみた。
「聖女の力…か。そうだね。無いよりはあったほうがいいんだろうけど。俺が君を好きなのは、聖女だからじゃないよ」
そう言われて、きゅんとした。
困った。
オスカーがカッコいい。
キミカナをプレイしていたときは、オスカー推しだったんだもん。
その推しに、好きって言われてドキドキしない女の子なんていないよね。
でも、だから。
オスカーのために、恋人にはなれない。
オスカーは優しくて人望がある。
ちょっとチャライけど、国のこともしっかり考えている。
絶対、廃太子になんてしてはいけない。
だから、この気持ちはオスカーに知られてはいけないんだ。
それに…
「今度のパーティー、もうエスコートするパートナーは決まってるの?」
オスカーに突然話しかけられて、ビックリした。
「え?ぱ、パートナー?」
そういえば、そんな時期か。
結婚していない女性は、恋人や婚約者、親族の男性がパートナーになると聞いた。
私の場合、親族はいない。
だから当然、欠席しようと思っていた。
「あ…そういう場所は苦手なので、欠席する予定なんです」
隠すことでもないので、さらっと答えた。
「聖女がパーティーを欠席だなんて、皆が悲しがるよ」
「ドレスもないものですから」
「それは、素敵なドレスをプレゼントしないといけないね」
オスカーが話を進めている。
ドレスをプレゼントって…そんなことをされたら、パートナーを頼まざるを得ない…
「えっ?いえ!ど、ドレスは、ありました!はい。あるので、結構です」
慌てて断る。
「じゃあ、パートナーの役目だけで我慢するよ」
オスカーがニコニコしている。
それは困る。
ドレスは無いから。
ありものを着ていったら、オスカーに恥をかかせてしまう。
…いや、そうじゃなくて。
「パートナーは、いるんです。だから、オスカー様にお願いできないんです。ごめんなさい」
大ウソをぶっこいた。
「そうなの?誰にお願いしたの?」
オスカーに尋ねられて、答えに困る。
だって、そんな人はいないもん。
「それは、当日のお楽しみ…です」
手汗がすごい。
たぶん、嘘だってバレているけど、このまま突き通すしかない。
「そう。じゃあ、万一、そのパートナーがこられなくなるといけないから、俺もいちおう、迎えに行くね」
オスカーに、完全にバレてる。
誰も迎えになんて来ないことも、わかってるんだろう。
ああ…うまくいかない。




