~ レスティラントにて 後編 ~
都市に迎え入れられた“賓客”としての顔と、自由を求める一人の旅人としての顔。
マサミはその両方を抱えながら、図書館で知識を求め、冒険者ギルドで新たな立場を得ようとする。
この章では、領主家の「マルティーナ」としての仮面と、冒険者「マサミ」としての素顔――二重生活の幕が上がる。
それは、都市社会の光と影を渡り歩くための、最初の選択だった。
わたしは、まず街の全体像を掴むことにした。どんなことが出来るのか。
まずは知りたかった。こういう大きな街には、図書館が大抵ある。
よほど書物を作らない世界でない限り、書物は知識の継承だからだ。
領主の使用人に図書館があれば行きたいと伝えると、すぐに手配してくれた。
図書館は市場の隣の街区にあった。
早速行ってみると、かなり大きな建物のようだった。
さすがに大きな街だけあって、大きな図書館だね。早速入ってみると、受付があり、身分証の提示を求められた。
「あの、身分証がないと利用できないですか?」
「はい、申し訳ございませんが。尚、ご利用にはその身分によってご利用できるエリアがございますので、ご注意ください。」
なるほど、貴重な資料が盗まれたりしないようにしっかり利用者の身分が確認されるってことだよね。大事なことだし、それは従っておこう。
「あの、わたし、この街に来たばかりで、身分証をもっていないのですが。」
「それでしたら、冒険者ギルドなどのギルド証が身分証となりますので、そちらに加盟して頂くのがよろしいかと思います。」
ギルドがこの街にはあるんだね。そしたら、登録して自活もできるよね。そう思って出ていこうとした時だった。
「失礼ですが、もしかして領主様を助けられた方ではありませんか?」
ここであまり貴族との繋がりを知られるのも厄介なことになりそうなので、適当に誤魔化しておいた。
「そうでしたか、領主様を助けたのは、ローブのようなものをまとった若い方とお伺いしていたものでしたから。それでしたら領主様直々に発行していただけると思いまして。」
いや、誤魔化してほんとに正解だった。だって、領主に発行されたら、わたしこの世界で一生マルティーナだよ?
とにかく、領主との関係はなるべく悟られないようにしないとね。
わたしは、コソコソと領主家へ戻り、もう一度整理することにした。
「図書館はいかがでしたか?」
早速来た、もちろん利用できなかったなんて言わない。
「それなりでした。ありがとうございます。」
もし、利用できなかったなんて言ったら、さっそく身分証の手配をなんてことになる。マルティーナでね。
情報を整理してみよ。
・図書館は大きく、それなりに情報は手に入りそう。
・図書館には重要度に応じて、身分により閲覧できるところと、できないところがある。
・図書館の利用には、身分証が必要で、その身分証はギルド証でもよいこと。
・領主からも身分証を発行はしてもらえる。
領主から発行してもらえば、たぶん、ほとんどの資料が閲覧できることは間違いないと思う。
でも一生マルティーナ、しかも領主と関係があることが周りにも簡単に知られる。
ギルドでしっかりマサミとして登録して、領主との関係は知られないことに専念することもできる。
でも、図書館の閲覧権限は限られてくるだろうね。
どのみち、図書館全部を閲覧なんて一生かかっても無理だろうし、この街にいる間にとなったら時間は限られてくる。
だとしたら、閲覧可能なところで少しでも情報を得ることが大事だよね。
ここまで整理できれば、行動開始だね。
今までは、一人でやってこれたけど、これからは仲間がきっと必要になってくる。冒険者ギルドで登録して、正式に活動しよう。
もちろん、領主の前ではマルティーナとして、ただ領主を助けただけの存在として振舞っておこう。
二重生活者みたいになってきたね。
それにしても、このローブは目立ちすぎるよね、高級生地に高級な最新モデルのローブなんて。
とりあえず、庶民の着るようなローブを調達しないと。動きやすさも重視しないとね。
外出のとき、案内の人がついてきてくれると言ってたが、それは図書館へ行くときに断ることにした。
自由に行動ができない監視付きみたいなものだから。
そして、屋敷に戻るときは、高級ローブ、マサミとして活動するときには庶民ローブと使い分けることにした。
ローブを変えるだけなら、その辺の人目のつかない路地裏でもできるしね。自由に使える拠点がないうちはこれで凌ごうと思う。
ちなみに、領主家には、2,3日戻らなくても心配しないでと伝えてある。こんなに大きな街で活動するのだ、そのくらいの時間は欲しい。
庶民ローブを手に入れた今、わたしは自由だー!と心の中で叫んでしまった。
早速、冒険者ギルドへ登録に行く、ギルドへ入ったとたんに、子供か?子供が何の用だ?などと声が聞こえてきた。
わたしはそんなに出来た人間じゃないから、ムカっときたけど、平静を装って、受付にたどり着く。
満面の笑みで受付に言った。
「新規に冒険者として登録したいのですが。」
わたしの満面の笑みは、怒りを鎮めているいる時でもある。
「はい、ではこれに記入を」
外野の声はいつものことなのだろう。受付の人は動じていなかったし。
わたしは、やっぱり子供なのだろうか。
名前:マサミ
職業:魔法使い
火、水、土、風など
他のギルド資格など
なし
出身地:
「この出身地とは書かないとダメですか?」
「ええと、死亡時に遺品が戻ってきた場合、送り返す先など希望のある方のみです」
出身地:なし
「これでいいですか?」
「はい、え?あ、ちょっとまっててください」
慌てた様子でギルドマスターと叫びながら飛んでいく受付嬢
周りも、なにかしらざわついていた。
さっきまで冷静だった受付嬢があんなに慌てるなんて、わたし何かいけないことでも書いちゃった?
受付嬢が慌てて戻ってきた。
「ギルドマスターがお呼びです。こちらへどうぞ」
受付嬢が、カウンター横の職員専用エリアへ案内してくれた。
ギルドマスターという言葉に反応したのか、ギルド内が何やら騒々しくなった。
コンコンと受付嬢がドアをノックすると厳つい返事をする男性の声が返事をした。
「入っていいぞ」
「どうぞ、こちらです。」
受付嬢に案内されるままに部屋に入ると、いきなりギルドマスターらしき大男がこちらを一瞥した。
「まあ、嬢ちゃん、とりあえず座ってくれ。」
わたしは、ソファーの対面に座った。
「なあ、嬢ちゃん、4種類の魔法を扱えるって本当か?」
あ、もしかして、この世界じゃ4種類扱えるのイレギュラーだったのかな。
今更嘘をついても仕方がない。
「はいそうです。」
「本当かどうか、部屋をぶっ壊さない程度に見せてくれないか」
「いいですけど」
わたしは、手のひらに収まる程度の複合魔法を見せることにした。
面倒なので、四種を同時発動させた。
右手に水を風で回すいわゆる、洗濯魔法。
左手には四角い土ブロックを作り、その上で火が灯るようにして見せた。
「こりゃ驚いた。使えるだけじゃなくて、同時発動とは」
「へ?簡単にできるものじゃないんですか」
わたしは恐る恐る聞いた。
「当たり前だ、嬢ちゃんよく聞けよ。この世界じゃ二つ使えるやつはザラにいる。だがな、三つ習得となると、難しさが各段に上がる。そして、四つ目となったら、それこそ伝説級の魔導士だってできるかどうかってやつだ」
ギルドマスターは話を続ける。
「しかも、その伝説級を嬢ちゃんは同時発動までさせてんだ。普通なら信じてもらえないレベルなんだよ、よりによってあっさりやっちまいやがって」
ギルドマスターはため息をつきつつ、更に続ける。
「悪いことは言わないから、このことは、ほかの誰かには言うなよ。どんなことに巻き込まれるか分かったもんじゃねえからな。こちらも、受付したやつと俺しか知らねえ。黙っててやるからくれぐれも用心するんだな」
「あ、はい」
あれ、でも、最初の村では気にする人なんていなかったけど、それは魔法を重視してなかったからかな。そんなことを思った。
「それとは、別になるが、たぶん嬢ちゃんはすぐにギルドランクが上がっていくだろうさ。それだけの使い手なら・・・その上も」
そう言いかけて、ギルドマスターは言葉を止め、話を戻した。
「ギルドランクについては聞いているよな」
「はい」
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【旅の寄り道コラム】
冒険者ギルド階層記録抄──第一から第五まで
※この記録は、ギルド本部にて閲覧可能な一般向け資料より抜粋されたものである。
一部表現は、現場で使われる俗称や伝承に基づく。
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第一階層:芽吹き手
冒険者としての最初の階層。
魔法の才を持つ者も、持たぬ者も、ここから始まる。
依頼は探索・運搬・護衛など、比較的安全なものに限られる。
芽吹き手とは、まだ何者でもない者たちの呼び名であり、可能性の象徴でもある。
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第二階層:巡り人
自らの意思で世界を巡り始めた者たち。
パーティを組み、依頼を選び、時には一人で挑む者も現れる。
魔法の才がある者は術式の初歩を操り始め、持たぬ者は技術や知識を磨く。
巡り人は、物語を歩き始めた者として、ギルド内でも名を覚えられるようになる。
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第三階層:跳ね人
経験を積み、自信を持ち始めた者たちが到達する階層。
パーティを率い、高難度の依頼にも挑戦するが、過信による失敗も多い。
ギルドではこの階層を「跳ね人」と呼び、注意喚起と皮肉を込めてその名を広めている。
跳ね人の時代をどう乗り越えるかが、冒険者としての分岐点となる。
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第四階層:白銀の守人
跳ね人の時代を越え、実力と信頼を兼ね備えた者たち。
依頼人からの指名も増え、ギルド内では指導役を担うこともある。
魔法・技術・戦術のいずれかに秀でた者が多く、二つ名を持つ者も現れる。
白銀の守人は、静かなる威厳と責任を背負う存在として語られる。
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第五階層:星刻
冒険者としての頂点。
その名は国家や王族にまで知られ、依頼は伝説級に近い難度を誇る。
魔法の極致、技術の極限、人格の完成――それらを兼ね備えた者のみが到達する。
星刻の者は、物語に名を刻む者として、後進の憧れとなる。
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※第六階層に関する記録は存在しない。
一部の古文書に断片的な記述があるが、詳細は不明とされている。
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「嬢ちゃんには、芽吹き手、つまり第一階層のランクから始めてもらう。俺の目から見りゃ、星刻だって構いやしねえが、いきなりそういうわけにもいかねえからな。」
「わたしは、身分証明書と個人的な収入があればいいかなと思っていたので、それで、かまいません」
「あっさりしたもんだ。気に入ったぜ。気軽にロイドと呼んでくれ。ロイド=フォイエルだ。よろしく頼む」
握手の手を出してきたので、わたしも返した。
「わたしは、マサミです」
「ああ、さっきの受付嬢から聞いてる。あの受付嬢は、ケイトって言うんだが、嬢ちゃんのここでの受け付けは彼女を専属にする。ほかのやつに任せて、嬢ちゃんの正体がばれると困るからな」
ケイトさんか、冷静な時に見たらとても綺麗で品のある人だったよね。
慌てたときはすごかったけど。
「あいつは、頭もきれるし、口も堅いからな、堅実でいいやつだ、仲良くしてやってくれ」
やっぱり、品格って姿にも表れるんだね。
「ところで、嬢ちゃん、冒険者にしては、身なりも綺麗だし、服に汚れ一つついてねえが、どこかの貴族のお嬢様ってわけじゃないんだよな。」
え?そこなの?
「わたし、普通の庶民ですよ、いやだなあ」
「まあ、いい、あとはケイトとやり取りしてくれ、何かあれば力になるからよ」
あーこれはあれだね、力になるからって言っておいて、力かせよって意味だね。
「あはは、よろしくおねがいします」
わたしは、苦笑いをしつつ返答する。
図書館で知識を求め、ギルドで仲間と立場を得る。
マサミは「庶民のローブ」と「高級なローブ」を使い分けることで、二つの世界を生きる術を見出した。
そして、ギルドマスター・ロイドや受付嬢ケイトとの出会いは、彼の冒険者としての未来を大きく変えていく。
旅人から都市の一員へ――その変化はもう始まっており、隠された力と仮面の顔が、やがて都市全体を揺るがすことになる。




