~ 火猛族との邂逅 ~
村を救った翌日、マサミは村人たちから仲間として迎えられる温かさを感じていた。
しかし、長老から語られたのは、中央から見捨てられた辺境の現実と、魔物の巣の脅威。
村を守るために必要なのは、新たな力――火の魔法。
その習得のために訪れた火猛族の村で、マサミは「力を示すことで信頼を得る」という異なる価値観に触れることになる。
翌日は、昨日とは打って変わって静かな村の閑静な朝を迎えていた。
違うことといえば、マサミを見かけると村人が手を振ってくれる、笑顔でお辞儀をしてくれる、親指を立ててマサミを称える。
皆が皆、マサミをいままで以上に歓迎してくれているのだった。
昼過ぎに長老様に呼ばれていくと、今まで以上に深刻な話をしてくれた。
「マサミさん、あなたには隠していたが、この村は辺境である以上に、良好であると言っていた人間族との関係なのじゃが――」
長老様は話し始めた。
「実は、根深いところで人間族と獣人族は良好なだけの関係ではないのです。この辺境の村が魔物に襲われていることは中央に知らせていますが、援軍を送ってもらえる可能性はないのです。自分たちで何とかするしかない状況の中で昨日のようなことが起きた。わしらは、あのような事が起きる可能性も知っておった。実はここから少し離れた村でも同じようなことがあり、村人は全滅、廃村となってしまった村があるのじゃ。わしらも、そんなことに怯えながら昨日の出来事を迎えた。覚悟を決めたつもりだったが、怖かったのも本当じゃ。そして、中央からの援軍がなければ退けられないと諦めていた面もあるのじゃ。だから、マサミさん、あなたのお陰で生きる勇気が出たのじゃ。本当にありがとう。」
わたしは、中央とこういった村の関係、そして中立を謳っていながら、そういった差別的なことが起きていることに憤りを感じていた。
しかも、まだ続きがあった。
「マサミさん、あなたにはもっと現実を知ってもらいたい。でも、我々の運命を押し付けることはしたくないのじゃ。その滅んだ村の近くに魔物の巣が発見され――というか、大規模な魔物の襲撃のあった場所は大抵、魔物の巣が形成されていると言われておる。多分この近くにもあるはずじゃ。次が起きればどうすることもできないかもしれない。マサミさんをわしらの運命に巻き込みたくないのじゃ。一度はマサミさんに救われたが、次があるとは限らない。わしは村人を守りたいが、命をかけて守ってくれたマサミさんを巻き込むことは、もう耐えられないのじゃ。どうか逃げて生き延びてほしい。」
しかし、わたしには決意があった。
魔物の巣があるなら、潰せばいい。
虐殺になるのかもしれない。
でも、この村の人たちを見殺しにすれば、それもまた、わたしの罪だ。
どっちを選ぶのか――わたしはもう決断している。
わたしはまず、魔物の巣について詳しく聞いた。
洞窟のような構造で、出入口は二、三箇所。
大きさは規模によって異なるが、あれだけの量の魔物がいたのだから、かなり大きいはずだ。
村の狩人に、魔物の巣の出入口や外見、位置など、調べられる範囲で構わないので調査をお願いできるかと尋ねると、「その程度ならお安い御用だ」と言ってくれた。
わたしは、調べ上げてくれた情報をもとに、ある考えに至った。
長老様に、火の魔法を習得する方法はないかと尋ねると、近くに火猛族の少人数の村があるという話をしてくれた。
そこでなら、長老様の紹介で火の魔法を教えてくれる者がいるかもしれないという。
わたしは、火猛族に理解のある村人に連れられて、その村へ向かった。
長老様の紹介状を見せたが、そう簡単に教えてくれるものではなかった。
当然だ。脅威になるかもしれない者に、自分たちの魔法を教える者などいない。
ましてや、火猛族は人間族にそれほど寛容ではなかったのだ。
わたしは、引き下がるわけにはいかない。
火猛族の長老様に、わたしと、誰かこの村の者と試合をさせて欲しいと言った。
火猛族の長老様は、わたしの姿を見て言った。
「子供に直接的な攻撃をするなどというのは、力ある者として恥ずべき行為だ。だから、この村で一番魔法力のある使い手が火の魔法を唱える。それを消し去ることができたなら、勝ちと認めよう。」
願ってもない提案だった。
広場にて、相手が火の魔法を放つ。
近づくだけでも火傷しそうなほどの火炎だった。
しかし、マサミには妙案があった。
火は空気が遮断されれば消える。
土魔法で火炎を囲み、上から水をばしゃーんと浴びせる。
そして、土魔法を消すと、跡形もなく、何もなかったかのように火炎は消えた。
あっけないほどだった。
周囲の火猛族も「なぜ消えた?」「あれほどの者の火炎を消すなど信じられない」とざわめいた。
「これほどの知恵者がいるとは。私も精進せねばな。長老様よ、彼女の勝ちだ!」
相手はそう断言した。
長老様もマサミの勝利を宣言してくれた。
しかも、相手をしてくれた者が、マサミに直々に魔法を教えてくれることになった。
マサミの覚えの良さに、彼は目を丸くした。
普通なら数週間かかるであろう魔法の習得を、マサミはたった数時間で覚えてしまった。
最初の小さな炎から始まり、教えてくれた相手を超えそうな勢いで火炎魔法を使いこなした。
帰る前に、マサミは友好の証として「洗濯魔法」を教えた。
考え方は簡単だ。水を風で洗濯機のように回すだけ。
火猛族の女性陣にはすっかり喜ばれ、仲良くなることができた。
挙句には「またいつでもいらっしゃい」と言われるほどの歓迎ぶりだった。
マサミは再び元の村へと向かった。
同行してくれた村人は、「あれほど簡単に火猛族と仲良くなるとは」と褒めてくれた。
わたしは思う。
互いに認め合える点が見つかれば、そこを接点に仲良くなることもできるのだと。
そして何より、火猛族は力を重んじる。
ならば、勝てばいい。そこが接点になる。
協調は、待つものではない。
どちらかが手を差し伸べなければ、何も始まらない。
その一手さえ間違わなければ、いくらでも広がると思う。
火猛族との出会いは、マサミにとって大きな気づきの場となった。
力を重んじる彼らに挑み、知恵と工夫で認められた経験は、ただ力を持つことではなく「どう使うか」が信頼を生むのだと教えてくれた。
そして、協調は待つものではなく、自ら手を差し伸べることで始まる――その実感は、マサミの成長の証であり、これからの歩みに欠かせない指針となっていく。




