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~ 新しき白、古き影 後編 ~

旧EP21の三分割最終章になります。

前書き後書きは後日アップします。

 雪白庵の事態が収束したところで、公爵家へ挨拶がてら近況報告を兼ねて出向くことにした。

 後ろ盾になってもらっている公爵家にはこまめに報告しておかないと、後々大きなトラブルになった際面倒になるかもしれないからね。


 セリーナ様とは久方ぶりに和やかなお茶会ができた。

 前回のお茶会はわたしにとっては壮絶バトル会場だったのだから、この和やかなお茶会は心の平穏そのものだと思った。

 セリーナ様にはお礼を言ったが、大したことではないし、命の恩人に少しでも報いられたなら嬉しい事だと言われてしまった。


 わたしは、公爵家へ出向いたついでに、書庫の閲覧をお願いした。

 王家に近い公爵家なら、ちょっと変わった書物もあるかもしれないと思ったからだ。


 使用人に案内されて、入るとそんなに広さはないけど、やはり公爵家だけあって貴重そうな書物が結構並んでいた。

 魔法関係の書物が収めてあるところを聞いて、そのあたりを調べてみることにした。


 これは・・・

 最初に目を惹いたのは、”魔法で料理”というなんとも心躍るタイトルの本だった。

 べつに、魔法で火をつけるとか、水を出して使うとかそういうのではなく、材料を変化させる魔法を使うというものだ。

 少し気になったのは、使った材料の変質を時間軸で変えるというものもあった。

 これって、カレーの一回冷まして、翌日のカレーが美味しくなるのに使えるのでは?と思って熱心に読み込んでしまった。

 ふと気づき、なかなかに興味深いけれども、これを読んでいると夜になってしまいそうだったので、後日改めて読みに来ようと思った。


 次に見つけたのは、”魂の融合”という本だった。この魂と融合というキーワードがわたしの心に響くものがあった。

 ページをめくるごとに、何かが流れ込んでくるような奇妙な体験をする本だった。

 その体験は王宮の図書室の本で感じたのと似た感覚だった。

 数ページめくっていくと、”魂の魔法における関係”という章に出くわした。


 気になったので深く読み込んでいくと、魔法に魂が影響するという一節があった。

 魂に刻まれた記憶との相関関係や、時間と場所を選ぶ魔法の存在。

 常に魔法は魂との共鳴関係にあると・・・

 ”魂が影響する”つまり、魔法を使う際に、魂の影響を受けてる、王宮の図書室の入退室も同じ資格があっても入れる人と入れない人がいる。

 もしかして、転移には魂が影響するってこと?

 時間の魔法にも魂が影響するとすれば・・・


 わたしはすべてがしっくりと嵌った気がした。


 他にも興味深い本が沢山あり、きっと王宮の図書室にも同じような本があるのかもしれないけれど、ここへ訪れる必然によってこの魂との共鳴を解説した本を読むことができたのだと思った。


 ”時間の超越者”という本があった。

 この本ではおとぎ話に近い書き方をされているが、実はこれが、転移の魔法を使った人たちの記録なのではないかとも思える記述がいくつかあった。

 この本を読んだことで、私の中で幻想のようにぼやけたイメージの転移魔法が確信へと変わった。

 とにかくイメージを固める事、魂に刻まれるほどの強い気持ちが持てる場所への転移。


 わたしは、この確信へと変わった転移魔法を一刻も早く試してみたいという衝動が突き上げていた。

 この図書室で実験するわけにはいかないので、とりあえず街に戻り、自宅で実験してみることにした。

 自宅に戻ったわたしは、レスティラントの自宅のイメージを固めて、その場にいるイメージを形作る。

 目を閉じて強く念じる。自分で初めてこの世界で手に入れた自分だけの空間、そこには強い想いを馳せることができる。

 ゆっくりと目を開けると、間違いなくそこはレスティラントの自宅だった。

 わたしは、足が震える感覚を覚えた、胸の鼓動が早鐘のように鳴り響き、震える体を思わず両手で抱きしめた。怖かったわけじゃない。武者震いというものかもしれない。そう思った。


 わたしは、この世界の理の一端に触れた。

 ついに転移魔法を手に入れたわたしは、魂と強く結びついているイメージできる場所、最初の名もなき辺境の村を、急に懐かしくなり、デディアさんや、長老様にも会いたいと強く願った。


 今度は目を閉じるでもなく、ほんの一瞬の出来事、懐かしい村の風景が目前にある。

 感動の余韻に浸っていたいが、村のみんなにも早く会いたかった。まさに、ただいまと言える光景。

 この村で日常となっていた、デディアさんへの挨拶。

「お嬢ちゃん、戻ってきてたのかい。」

「はい、ただいま!」

 デディアさんはお帰りと優しく迎え入れてくれた。デディアさんの声を聴いたことで急に懐かしさがこみ上げ、涙しそうになった。

 村で通りすがりに出会う懐かしい人たち。そこには以前と変わらない暖かさがあった。

 この村で日常だった挨拶を村の皆に済ませると、長老様に会いに行った。


「おやおや、お嬢さん、元気にしておりましたか。」

 和やかな長老様の雰囲気だ。わたしは、長老様の懐かしい声と以前と変わらない優しい言葉とうとう涙ぐんでしまった。

「お久しぶりです。」

「星刻になられたそうですね。」

「え、長老様それは・・・」


 そう、ここに来ているのはあくまでセーラー服姿のマサミだ。

 しかし、星刻になったのはあのローブと仮面を被ったマサミ。

 名前がいくら一緒だからとは言っても別人として活動しているのだ。

 わたしがきょとんとしていると、長老様は言った。

「魂の形じゃよ、我々水和族は調和を重んじておるのは知っているじゃろ」

「はい、以前お伺いしましたので。」

「魂の形は衣服で隠せるものではないのじゃよ、そして、お嬢さん、時に触れましたな」

 長老様のドキッとさせる一言にびくりと反応してしまう。


「時に触れる事、それは誰しもができる事ではない、そして、魂が不安定になれば、時に飲み込まれてしまう。くれぐれもお気をつけなされ」

 長老様の言葉はとても深く、そして、警告ともとれる話をしてくれた。

 魂が不安定な時に決して時に触れてはならないと。時の狭間に挟まれ戻れなくなるという話をしてくれた。

 時の狭間から戻れなくなる、それは永遠に止まった時間を彷徨うことなのだろうかと恐怖した。

 わたしは、知らずにそんな危ない魔法に触れていたのだ。


「我々の間では、時に触れた者を”時渡(ときわたり)”というのじゃ、時間をも超越する者のことじゃ」

 わたしは、クレオスペリアの領主の図書室で読んだ”時間の超越者”という本を思い出していた。


「今のお嬢さんは、とてもしっかりした魂をしておる。いまの魂が変質したときに注意すればよい。今は大丈夫じゃ」

 長老様曰く、わたしの魂は強く揺るがないものを持っているので、それが変わらぬ限り狭間へ行くことはないだろうとお墨付きをもらった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

【旅の寄り道コラム】


 転移魔法


 魂の記憶と、時間の圧縮が重なって初めて使える。

 魂が不安定、揺るがない心を持っていないと想定外の場所に飛ばされたり、

 時間や空間の狭間に飛ばされ戻ってこれなくなる。

 自分が行ったことのない、思い入れのない場所へは飛べない。

 一緒に誰かを連れていくためには、その魂の形を見つけ、

 自分と同じようにイメージできないといけないため、他人と一緒に転移することは不可能に近い。

 魂の共鳴する場所へ呼ばれることがある。その場所に残る強い残留思念に引っ張られることがある。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 魂の変質が何を意味しているのか、私にとって魂が時渡に危険な状態がどんなものなのか、まだ知るすべはなかった。

 その危険を覚悟したうえで使っていかなければならないことを心に刻んだ。


 この世界に転移魔法を使いまくる人がいない理由がわかったような気がする。

 使えても黙っているしかないよね。長老様のようにその事実をわかる人以外にはね。


 王宮の図書室に入れる入れないは、魂の共鳴、図書室に呼ばれていない人は入れないってことなんだね。図書室自体が何らかの思念を持っているってことなのかもしれないね。


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