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~ 名もなき辺境村 ~

名もなき辺境の村に辿り着いたマサミ。

そこは人間族も獣人族も肩を並べて暮らす、素朴で穏やかな共同体でした。

迷い人として迎えられた彼女は、居場所を得るために働き、学び、そして少しずつ村人たちと心を通わせていきます。

これは、異世界で初めて「仲間」と呼べる存在に出会う物語の始まりです。

 気配察知で殺気を放っていないことを確認する。

 これははじめての接触にあたって、とても重要なことだ。


「こんにちは、わたしはマサミ、遠いところから来ました。」


 言葉、言語体系、これは神様(?)の計らいでなのか、あまり苦労したことがないのが幸いだ。


「やあ、こんにちは。こんな辺境の村になにか用事でもあったのかい?」


 クマのような獣人さんだね。

 でもとても穏やかみたい。


挿絵(By みてみん)


「実は道に迷っていて、ここがどこなのか、どんな所なのか分からないんです。」


「そうかい、それはとてもお困りだね。この村は、名前もついていないような辺境の村さ。旅の行商人なんかは、中間の村とか、西の小村、なんて呼んでるみたいだけどね。」


「村に名前がついていなくても困らないのですか?」


「ああ、この世界じゃ、よほど重要な町とかにしか名前なんてついていないものさ。それでも、ここに暮らす人たちにはなんの問題もないからね。」


 ちょっと驚きを隠せない感じだったけど、確かに、いちいち村の名前なんてなくても、遠くへ行く人とか遠くから来る人がいなければ、隣村とか西の隣村でも済んじゃうものね。

 たぶん、人の出入りは旅の行商人くらいしか居ないのかもね。


「今は行く当てがなくて、困っているのですけど、当分この村に居させて貰うことってできますか?」


「それなら村の長老様に会うといいさ。あのちょっと大きめの家に居るから。」


 所謂村長さんみたいな感じなのかな。

 受け入れてくれると嬉しいけど。


「ありがとう、わたし、さっきも名乗りましたけどマサミって言います。あなたのお名前聞いてもいいですか?」


「ああ、俺はデディアだ、よろしくな、人間の嬢ちゃん。」


 人間の嬢ちゃんて言ったってことは、人間族もいるってことだよね。

 それも、獣人と人間族の仲は悪くはないと言えるよね。

 とにかく長老様のところに行って落ち着ける場所見つけないとね。


 長老様の家の前で、マサミは声をかける。

「こんにちは、わたしはマサミ、村の人から伺ってきました。」


 なるべく丁寧に話すのは信頼の第一歩だよね。


「おやおや、これは人間族のお嬢さん、どうかしましたかな?」


 とても穏やかで、色々話は聞いてもらえそうだ。

 ここは甘えておこう。


「長老様、さっきデディアさんから聞いたのですが、わたし、迷ってここまで来てしまったんです。それで、当分この村に居させてもらえないかなって思って。」


「それはそれは、お困りでしょう。こんな村で良ければ、いくらでも居なさって結構ですよ。村の者にも伝えておきましょう。」


「ありがとうございます。ただ、わたし、この世界のお金みたいなもの持ってなくて、何か村でお手伝いしながら居させてもらえたらって思ってまして、図々しいお願いだとは思いますが、力になってもらえないでしょうか?」


「そんなに畏まらなくても、この村じゃ、労働力こそが通貨みたいなものですよ。デディアに会っているなら、あの者に手伝いを申し出るといい。良いところを紹介してくれるだろうよ。」


「ありがとうございます。その、お世話になりついでで、なんなのですが、その、住むところもなくて……」


「そりゃあ、そうだね。マサミさんといったかのう。当分はうちの納屋が雨風しのげるから自由に使ってもらって構わないよ。」


「ありがとうございます!」


 住むところと、働けるところができれば、一先ず安心だよね。


「あの、長老様、この村とか、国みたいなものの事、少し教えてもらえると助かります。」


「ああ、そうだね。この村に名前がないのはもう聞いたかと思うけど、ここはラティーナ王国という国の辺境の村さね。王様は中立的な立場を取られる方でね、我々獣人族も人間族も平和に暮らしているよ。しかし、魔物はおる。この村も時々襲われることがあるんじゃが、大抵はデディアをはじめとする力の強い土耕族が撃退してくれるのう。狩りは風飛族が得意とするな。」


 風飛族、なんか素早そうな名前。

 そのうち会えるかな。


「わしら、調和を重んじる水和族が代々この村の取りまとめを行っておる。火猛族も戦闘には長けておるのじゃが、どうも、ほかの種族と折り合いが悪くてのう。昔はこの村にもおったのじゃが、結局自分たちで出て行ってしまってからは、それきりじゃ。彼らとて悪い者ばかりではないのじゃが、気性が荒いのが難点でのう。」


 そう語る長老様は、どことなく自分の力不足を感じているような口調だった。


「わたしも、何かできることあったらやってみます。ありがとうございました。」


 その言葉の裏にマサミの決意があった。

 火猛族、この村の力になることが出来たら、もっとみんなが安心して暮らせそうだよね。

 何ができるかわからないけどね。


 早速、長老様の家を出ると、デディアを探した。

 有名人らしく、すぐに見つけることができた。


「デディアさん、長老様にお仕事のお手伝いをと言われたのですが、何かわたしに出来そうなことありますか?」


 デディアは「それなら」と、知人らしき人の畑仕事を手伝うように勧めてくれて、連れて行ってくれた。

「じゃあ、よろしくたのむよ」とその人にわたしを引き継ぐと、デディアはそそくさと行ってしまった。


「わたし、マサミって言います。よろしくお願いします。」


「ああ、長老様の言っていた子だね。そんなに畏まらなくても、この村じゃ、みんな知り合いみたいなものさ。たぶん、お嬢さんのことももう、皆知っているよ。」


 マサミはちょっと驚いたが、まあ、こんな小さな村じゃすぐ伝わるよねと思って納得した。

 皆に知っていて貰えるってことは、それだけで強みになる。


 しばらくは、そこで畑仕事を地道にしながら、皆に色々聞き、この世界には魔法職と物理的な剣や弓、槍など一般的に認識できる職業があることが分かった。

 しかし、このような小さい村では魔法を使える者は少なく、それも偶発的に使えるようになっただけという感じの人しかいないため、本格的な魔法の利用には至っていないのが現実である。

 しかも、剣術や戦闘に関することはほぼ教えあうこともないそうだ。

 弱い魔物を追い払う程度では、そこまで必要ないというのが理由らしい。


 わたしはこうも思う。

 確かに強すぎる力は過剰な軋轢しか生まないが、抑止力となることもあるのだ。

 だから使い方なのではないかと。

 抑止力として使えば、無用な戦闘と消耗を防げるという効果もある。

 それは皆にとって利益のある事だと思う。


 それでも、相手が様々な事情で、その抑止力を無視することもあるだろう。

 しかし、そうなった時には弱いだけの力では、むしろ被害が拡大するのだ。

 争わないという選択肢が一番いいのは分かりきっていることだが、相手がいることだ。

 何が起きるかわからないのである。


 わたしは、この村にとって過剰過ぎない抑止力をもってもらって、魔物との戦闘を少しでも少なくしたいと考えた。

 が、それはわたしがすることなのじゃないかもしれない。

 村にとって迷惑な行為かもしれない。

 そこは村の人たちとちゃんと話さないといけない、とわたしは思う。


 わたしはまず、お手伝いをしている所で話を聞いた。

 魔物の被害で困っていることはないかと。


 すると、生活に困ってしまうほどの被害はないが、少しだけ畑が踏み荒らされることで嫌気がさすことがあるという。

 ちょっとしたことかもしれない。

 でも、デディアたちの手間を増やすわけにはいかないから、黙って我慢することで耐え忍んでいるとも。

 自分たちが我慢すれば済むことなのだと言っていた。


 確かにデディアの手を煩わす案件が増えたら、それだけ他の大事な所で手が足りなくなるかもしれない。

 わたしは、そのことを心にとめながら考える。


 つぎに、デディアたちがどんな風に魔物を追い払っているのか、それは過剰な労働になっていないかということを確認した。

 既に、実は無理が出ている。

 しかし、村の防衛を任されている以上、手を抜くわけにはいかないと言っていた。

 デディアたちが少し頑張れば済むことだと、誰にも言わずに済ませていたことを教えてくれた。


 わたしは確信した。

 きっと他にも困っているけど、自分だけが我慢すればいいって、みんなが少しずつ我慢を重ねている。

 こんな状態がいつ崩れたっておかしくない。


 わたしは、長老様に相談にいった。

 皆がそんな風に思いながら少しずつ我慢している。

 今はいいかもしれない。

 でも少しだけ強い脅威が現れた時、それは、その時はいいかもしれない。

 でももっと強い脅威が現れたら?


 わたしは長老様に問いかけた。

 長老様は今は皆で調和しながら、少しずつ我慢を分担しているのだと。

 でも、わたしの問いかけに長老様は少し考え、そして、わたしに逆に問いかけてきた。

 何か考えがあるのではないかと。


 わたしの経験から、色々な様々な状況を話した。

 その中で村としてできそうなことを、長老様は決断してくれた。

 そう、教育と継承によって少しでも村の支えを強化していこうと。


 長老様は、村の中心に皆を集め、戦闘のこと、魔法のこと、色々なことをまずは分かる範囲で教えあい、少しでも広げていくことを伝えた。

 そして、その中で教えることが上手な人にその職を与えることを皆に告げた。


 調和を重んじていた村だからこそ、力を分け合うことは良いことだと皆が賛同してくれた。

 魔物を誰かが交代で相手にできるなら、デディアたちの負担も減らせるのではないかと。

 実は、皆が皆それぞれに少しずつの我慢をしていたことを知ってはいたが、それを口にすることで誰かだけの負担になることを恐れていただけなのだ。


 長老様の教育と継承の方針はこうして受け入れられ、すぐに教えるのが上手な人が出てきた。

 じつはわたしもその教育を受けたいと思ったのだ。

 魔法や剣術を習えることで、わたしの特異体質で素早く習得できることには自負がある。

 もちろん、覚えたスキルを少しでも村のために役立てたいと、恩返ししたいと思っている。


 わたしは、ここに長居するつもりもない。

 わたしがこの異世界へ落とされた理由と、帰るための道しるべを探さなきゃいけないのだから。


 村の中に、様々な魔法と戦闘技術があることが分かった。

 小さな村だからと馬鹿にならないものである。


 わたしは、水の調和、風の補助、土の治癒といった魔法を習得した。

 剣術も、重たい剣を持つことはできないけど、軽い剣ならとすぐに習得した。


 しばらく、その教育の現場で教えるというよりは、見本を見せたり、剣術の相手をしたりと補佐的な役をこなした。

 そうしているうちに、わたしの技術と魔法はみるみる向上していった。

 教師役の人からは目を丸くされた。

 もともと出来たのではないかと疑われたりもしたが、最初の扱いを見れば、最初からできたなどという疑念はすぐに晴れた。


 わたしは、長老様からデディアたちの負担を少しでも減らすために魔物を相手してもらえないかと言われたが、実は少し躊躇した。

 わたしは、異世界では相手を殺すという行為をしなければ生き抜けないこともあった。

 しかし、わたしは何度やっても、殺すという行為に抵抗があるのだ。


 長老様にそのことを率直に話すと、その気持ちは大切なものだと教えてくれた。

 決して相手を殺すことを、たとえどんな相手であろうと慣れてはいけないことだと。

 しかし、力あるものがそれを振るわないことは、弱いものや仲間が殺される可能性があるということでもある、とも。


 確かにそうだ。

 目の前に助けられる人がいるのに、助けなければ、それは見殺しにする行為だ。

 わたしが殺したも同然の行為だ。


 わたしは、デディアたちに同行することを承諾した。


 村を監視している人が警笛を鳴らす。

 魔物の群れが村に近づきつつあるらしい。


 わたしは、デディアたちと共に魔物の群れに立ち向かうべく、迎え討つための場所へと向かった。

 今回の魔物の群れは、今までとなにかが違うとデディアが呟いた。


 わたしも周りに気配察知をしてみたが、数が尋常ではない。

 一匹ずつは弱い。村で今回訓練を受けた者でも十分に対応できる範疇だ。

 しかし、この数を相手にするとなると、疲労で崩れるだろう。


 わたしは、わかる範囲の魔物の数と、どのくらいの範囲かをデディアに伝えた。

 それを聞いたデディアが狼狽の色を見せた。

 わたしが今まで見たこともないデディアの絶望の表情。

 このような大規模の襲撃を経験したことがなかったのだろう。


 わたしは、デディアに立ち直って欲しかった。

 絶望するときじゃないと。


 わたしは、村を最終防衛線として提案した。

 プランはこうだ。

 足の速い者が村に伝達し、村で防衛や戦闘の訓練を少しでも受けた者は村の最終防衛線にとどまり援護する役。

 少しでも腕に覚えのある者は、その少し前で防衛戦に参加する。

 わたしたちは魔物の数を少しでも減らしながら村の防衛線へと後退し、皆と協力して殲滅を目指すのだ。


 犠牲者は避けられない。

 けれど、このまま迎え討てば全滅必至だからだ。


 わたしは、こんな状況を何度も経験してきた。

 しかも孤軍奮闘だってあった。

 だからこういう時、強いのだ。

 一人で頑張ってどうにかなるものじゃない。

 皆で生きるを選択するのだ。


 村が見え始めるところまで来たところで、わたしはできる魔法を放つ。

 どのくらいの威力になっているのかなんて、わたし自身も知らない。

 考えうる攻撃魔法を魔物の群れに放った。


 それは、自身でも驚くほどの効果があった。

 しばらく時間稼ぎができそうなほど、あたりを吹き飛ばしてしまった。

 自分でも驚いて尻もちをついてしまった。


「はは、わたしのこの威力ってなに……」


 九死に一生を得るとはこのことかもしれないと、頬を涙が伝っていた。


「嬢ちゃん大丈夫か?嬢ちゃんのおかげで勝てるかもしれない。」


 デディアが手を差し伸べ、親指を立てた。

 その後ろでは大歓声が上がっていた。


「嬢ちゃんがつくってくれたこのチャンスを生かすぞ!」


「おおー!」


 先ほどの威力ほどではないが、わたしも魔法の援護射撃を行った。

 多少の負傷者は出たが、奇跡的に亡くなる者はいなかった。


 戦闘が終わると、この奇跡的な勝利に大歓声があがっていた。

 デディアは私を肩車すると言った。


「嬢ちゃんは、この村を救ったヒロインだ。胸を張れ!そして、この歓声は嬢ちゃんに向けたものだ。全部受け取ってやれ!」


 わたしは、救えたんだ。

 そう思った途端に、嬉しいけど、涙が頬を伝っていた。


 戦闘が終わった直後だというのに、村人が慌ただしく動き回り始めた。

 長老様の一声で戦勝パーティを、マサミを称えるパーティをしようと、村人が皆で準備を始めたのだ。


「あのとき、嬢ちゃんがいなかったら、俺は絶望で死んでいただろう。そしてこの村も。この村は嬢ちゃんに返しきれないほどの恩を受けたんだ。遠慮なくこのパーティを受けてくれ、俺たちの女神様!」


 デディアは優しくマサミに声をかけた。


「うん!ありがと!」


 マサミは笑顔で元気に返事した。

名もなき村での日々は、マサミにとって初めて「守られる側」から「共に支える側」へと歩み出す時間でした。

皆が少しずつ我慢を重ねていた現実を知り、力を分け合う仕組みを作ることで、彼女は村にとって欠かせない仲間となっていきます。

魔物の大群との戦いを共に乗り越えたとき、歓声と涙の中でマサミは確かに感じました――自分はもう、ただの迷い人ではなく、この村の仲間なのだと。

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