~ ビューティフル・ディスガイズ ~
王妃との出会いが導いたのは、華やかな宮廷の奥に隠された「美の仮面」の裏側だった。
貴族社会の優雅さの影に潜む病と虚飾――それは、マサミの異世界知識が試される新たな舞台でもあった。
表面的な美と隠された真実、個人の善意が社会的使命へと昇華していく転換点となる。
こんなに早く王宮を再訪することになるなんて思ってもみなかった。
門番さんに、この星刻のギルド証を呈示した。
門番さんが敬礼してくれてこのまま自分で入っちゃっていいってことだね。
なんかすごいね、王宮に顔パスってこういうことだったのね。
この入口の庭園はいつ見ても手入れが行き届いていて奇麗だね。
「こんにちは」
はっ、前にもこんなことが・・・
振り返ったマサミに上品に手を振り、にこやかに近づいてきた人物、見まごう事なき王妃様
「こ、こんにちは、王妃様、先日は大変なご無礼を・・・その・・・ご容赦を」
「あらまあ、私そんなに怖い人に見えるのかしら」
「いえ、とんでもございません。わたしが礼儀知らずな発言をしてしまっただけです」
あたふたと慌てるマサミ
「あらあら、お気になさらずに、私こそ突然お声をかけてしまってごめんなさいね」
そこからは、王妃様に誘われるがままに奥の王族専用庭園で二人だけのお茶会に連れてこられてしまった。
緊張しまくっていたわたしをフォローしてくれる王妃様はとても穏やかで、上品で、綺麗で、優しい笑顔が素敵な人だ。
王妃様とは、庶民の生活や街の様子なんかを聞かれ、ごくごく普通に雑談と呼べる程度の会話を交わしていた。
話をしている中、クレオスペリア領主グラントール公爵夫人のセリーナが医者にもわからない原因不明の病に伏せているという話を聞かされた。
また、魔法で延命措置をとっているような危険な状態でもあるようだ。
そのセリーナは王妃様の従妹にあたり、助ける方法がないかと事あるごとに模索していたのだそうだ。
そんな話をされて、放置できるわけがない。
ただ、助けられるかどうかも分からないが、わたしの世界で聞いたことがある病気であればこの世界で治せない病も治せるかもしれない。
助けられるかもしれない人を放置することは、わたしのプライドが許さない。
しかしわたしは今、レルナードの護衛という立場でここへ来ている。更にほかの街へ行くとなれば、護衛という仕事を放棄して行くことになる。
貴族の依頼を放棄することの意味や、こういう場合のギルドの対応なんか全くわからない。
治らなければ、死が待っている病の人と貴族の護衛、もっとも、その死の淵に立っている人も貴族なのだが、どちらを取るかと言われれば、わたしは迷うことなどしない。
早速、わたしは冒険者ギルドのセシリアさんに相談に行った。
「こんにちは、セシリアさん」
「あら、こんにちは、今日はどんなご用件ですか?」
わたしは、事情をすべて包み隠さず話して、どうなるのかを聞いた。
まず、依頼を放棄することは、依頼失敗としてカウントされるらしい。たぶん、これはわたしにとって問題じゃない。
依頼の半金をすでに受け取ってしまっている件は、依頼主との話になるらしい。貴族相手の場合、ペナルティとして依頼料総額の倍額が要求されるケースもあるらしい。
貴族の横暴さはわたしも嫌というほど見てきた。すんなり払うには額が大きすぎる。ちょっとだけ問題になる。
しかし、どこにでも抜け道はあるものだ。
わたしが星刻になっていることで、規則上、依頼失敗の記録は残るが、星刻に対してギルドがペナルティを課すことはないのだそうだ。
なぜなら、星刻が失敗するような案件はだれがやっても無理であるという判断からだそうだ。
本来、護衛のような簡単な部類に入るものは失敗とはクライアントが死んだりといったことになるが、現状それもないので、依頼主のレルナードとの話し合いになるという。
わたしは、レルナードとの話合いをしようと思ったが、今回は王族が絡んでいるということで、セシリアさんが、ギルドマスターのラルフに事情を説明し、ラルフが直接レルナードと話をつけてくれる事になった。
わたしは、レルナードからもらっていた半金を全額ギルドに預け、王妃様のところへ向かった。
王宮で王妃様に取り次いでもらい、治せる確証があるわけではないが、助けられる可能性を捨てたくないと伝えたところ、わずかでも可能性があるなら行ってほしいと頼まれた。
王妃様は取り急ぎ、クレオスペリアへ向かうための手配をしてくれた。
クレオスペリアへ向かうために用意された手段、それは、早飛部隊によるカートでの移動になるらしい。
つまり、わたしが以前単独で早飛の人に抱えられて移動したことを、籠に乗せて運ぶ方法なのだそうだ。
なんとも豪勢な移動手段であるうえ、交代要員を使い昼夜問わずリレー式で向かうのだそうだ。
王族とはすごい力を持っているのだとつくづく実感した。ただし、緊急時以外は使われることはないそうだ。
わたしは、全く病気に対して効果が得られなかった時にペナルティでも課されるのではないかとヒヤヒヤしていたが。
わたしは、移動中、予め聞いていた症状を整理し、聞いたことのある病気かどうかの特定方法を考えていた。
聞いた症状はこんな感じだ。
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症状
・腹痛が続く
・食欲がない
・疲れやすく、息切れがひどい
・顔色が悪い
・手足がしびれる
・手足の感覚がなくな
・物を持てなくなる
・気分が沈んでることが多い
・物忘れするようになった
・ここ数週間は寝たきりの生活になっている
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症状を聞く限り自律神経失調症、心臓、消火器、貧血、脳、糖尿病、ビタミン不足、うつ病、多岐にわたりすぎる。
うつ病でここまで酷くなった場合はもう、もっと脳梗塞やなんかで酷いことになっているはずだ。こんな単純なものじゃない。
自律神経失調症ならもっと違った現れかた、もっと分かりやすく出ていたはず。
糖尿病はのどの渇きや、体重減少なんかがみられる。ここまで酷くなっているのにのどの渇きなどはない。これは否定できる。
心臓病なら、胸の痛みなんかを訴えたりするだろうからこれも否定。
消化器系で手足の感覚や筋力の衰えまでいくとギランバレー症候群・・・でもその場合、早期にでているはず。これも否定。
脳の影響もあるだろうけど、脳だけに絞れば両手、両足まで症状が出ていることから副次的に脳に影響がでているだけととれる。
様々な検討を続けた。しかし、決定的な結論がでない。
そして、3日ほど経った頃に、クレオスペリアに間もなく到着できるとの知らせを受けた。
このまま、領主城の中庭まで飛ぶそうだ。
中庭へ籠が降ろされると、わたしは、公爵夫人の部屋へと案内された。
夫人は床に臥せっており体力的にほとんどの時間を眠っているのだそうだ。。
わたしは、夫人の横で脈などを見たが、脈はよわよわしく、今にも儚く命の炎が消えそうな印象を受けた。
顔色が悪いと聞いていたが、貴族というのは床に臥せていても、化粧をされ、見舞いに来た人たちに素顔を見せないものだと知らされた。
夫人を見つめながら、何かないかと、決定的な何か原因はないだろうかと思案していたところ、メイドがやってきて化粧を直すので、しばらく離れていてほしいと言われ、夫人から少し離れた椅子に座って化粧をするところを何気に見ていた。
そして、白い粉を振っていることに気が付いた。
え、まさかねえ。
急いで化粧をしているメイドに駆け寄り、それは何かと尋ねたところ、顔を白く見せる魔法薬だと聞かされた。
魔法薬って、そんなものは魔法でも何でもない、おしろいだ。
ここまできて、マサミはある結論に至る。
もしかして、おしろい中毒・・・
わたしの世界でもおしろいで鉛や水銀といった中毒が発生したことがある。
鉛ならば、口の中を見ればほぼ確定だ。
「口の中をみせてもらっていいですか。」
メイドに許可をもらって、唇をひらくと、やはり・・・この歯茎の縁が黒っぽく見える症状は鉛中毒の症状に間違いない、血液中の硫黄と鉛が結合して黒っぽくなって、歯茎の末梢血管から放出されたものだ。
「使っていたその魔法薬を見せてください。」
メイドが持っていたものを渡してくれた。
高級そうな入れ物に入った白い粉、この中に鉛が使われていれば素人の私でも間違いないと言える。
でも、どうやって・・・
「これに使われている物って教えてもらうことできますか?」
「いえ、老舗の商店のものでして、その製法は公開されていないのです。」
マサミは魔法薬の入れ物を見ながら考える。
成分を知る方法だよね。今回は鉛中毒を確認できればいいから、鉛元素だよね。
元素、元素、もしかして地図魔法が応用できたりしない?
地図魔法は元素の気配をみるもの。なら、この魔法薬の中身に絞って精密に見れればいいんだよね
イメージを集中する。鉛は原子番号82Pb、元素をイメージ化して、これに絞って、水の調和で見つけたら水音で知らせてもらう。
しばらくすると反応があった。
鉛中毒の治療法はわたしの世界では確立されている。キレート剤だ
難しい構造はしていなかったはず、たしか、硫黄水素結合のチオール基二つと水酸基一つ
キレート剤をイメージしながら、体内の鉛に作用させればいいんだ
イメージを固めると深く念じるように、”大地よ、体内に擁する害毒を抱き、固めよ!”
お願い、効いて。
祈りが届くように、夫人の体から黒っぽい砂のようなチリが放出された。
そのチリは風に巻かれ、煙のように消えていった。
奥方の頬に赤みが戻ってきた。
「もう・・大丈夫・・・だと思います。精の付くものを・・・食べさせて、安静に・・・していれば・・・回復していく・・・はずです。」
「大丈夫ですか!」
「わたしは・・・大丈夫・・・です。」
わたしは、治癒時の反動を受けたらしい。のどが痛む。
元素に干渉する強力な魔法は、もしかしたら、わたしの体内の元素にも干渉してしまうのかもしれない。
その後、王都に戻ったわたしは、セシリアさんからレルナード護衛破棄の事の顛末を聞いた。
レルナードは事情を聴いてこう言ったそうだ。
「誰も往復の護衛などといった覚えはない。マサミの護衛は王都につくまでだったはずだ」と。
依頼書にも往復の護衛とは書いておらず、しかも、依頼が完了したから別邸で依頼料を支払っており、報酬の副次的なものとして、別邸の来賓室で滞在をしてもらっていたのだと。
そして、レルナードは部隊を連れ、無事レスティラントへ帰還したそうだ。
ギルドに預けていた半金としていたものは、報酬のすべてなので、わたしに戻ってきた。
レルナードは貴族としては異例なのかもしれないと思い始めていた。
※病気の診断はフィクションです。
セリーナ夫人を蝕んでいたのは、華やかな化粧の裏に潜む鉛の毒。
マサミは異世界の知識を応用し、命を救うことで「美と危険」の仮面を打ち破った。
その行為は、単なる善意を超え、人命を守る使命感をさらに深めるものとなった。
そして同時に、彼女の存在が王族や貴族の世界に不可欠なものとして組み込まれていく兆しでもあった。




