~ 闇を覆う光 ~
王都へと近づく道のりは、平和な田園風景に彩られていた。
しかし、その静けさの裏には、鉱山からあふれ出す魔物という新たな脅威が潜んでいる。
マサミは、仲間の協力と異世界の知識を駆使し、前例のない規模の作戦に挑むことになる。
「闇を覆う光」とは、破壊の炎で魔を払うと同時に、彼女の心に影を落とす光でもあった。
魔物の大群を退けて以来、襲撃の気配はなかった。
開けた平原を進む馬車。
その硬い車輪のコトコトと鳴る音と振動。単調な音が変化の時を迎えた。
王都に近づき、街道が石畳に舗装されたしっかりとした作りに変わったのだ。
わたしは、心の整理をしながら、まだ考えがまとまらなかった。
しかし、景色は王都を支える広大な田園地帯へと変わっていった。
ふと、窓の外を見ると、心が洗われるような、静けさと、平和な風景が広がっていた。
「あと、4,5時間ほどで王都ラティノウンの私の別邸に着く、君はそこに居てくれ。もし、気晴らしがしたいなら、王都を見て回っててくれても構わない。自由にしててくれ、数日は滞在することになるからな」
これは、きっとわたしに気を使ってくれてるんだね。わたしも落ち込んでばかりいられない。
「レルナード様、ありがとうございます。」
気持ちを切り替えるためにも、元気に返事をしてみた。
城門の警備は獣人族と人間族で守ってるんだね。やっぱり王様は中立の立場なのかな。
王都ラティノウンか、レスティラントより、さすがに広いよね。
レルナードの別邸に着くと、数名の護衛部隊のみでほかの連中や、傭兵はこの別邸で待機となった。
別邸では、わりと広い部屋をあてがわれ、ほかの人とはちょっと待遇が違うようにも思えたけど、まわりからも、馬車に同乗しているし、特別扱いもあるだろう程度の認識だった。
執事らしき人から、依頼報酬の半金といって、結構重たい金貨袋を渡された。
レルナードのこういうところが憎めないのよね。
わたしは執事さんに場所を聞いて、この王都の冒険者ギルド本部へ行ってみることにした。
街並みはレスティラントと同じような感じではあるけど、人の数が増えたイメージだ
大きな商店が多いね、このあたりはやっぱり、本店みたいな感じがあったりするのかな。
この商店のマーク、レスティラントで高級ローブ買ったお店と同じだね。もしかしたら、あの店の本店なのかな。
こっちは、高級カフェのマークだね。カフェといえども、高級店になると支店があるんだね。
主要都市に支店があるっていうのも一つのステータスなのかな。
あれだね、冒険者ギルドの本部は。
さて、クエストボードでも・・・
「おいおい、ここは嬢ちゃんみたいな子供がくるところじゃないぜ。」
「はははは」
周りからも同調した笑い声が聞こえる。
どこにでも居るんだね、こういう連中は。別に気にしなきゃいいんだよね。
「嬢ちゃん、迷子か何かなのかい?」
あーもう、めんどくさいから吹っ飛ばしちゃおうか。
そんなことを思っていると、ツカツカと足音が聞こえてきた。
「あなたたち、いい加減にそういうこと止めなさい」
あれ?これも前にあったような。
「もしかして、レルナード様の護衛で来たマサミさんですよね?」
なんでわたしのこと知ってるの。
「申し遅れました、私はこのギルドで受付をしております。セシリアと申します。先日、レスティラントのケイトから連絡を貰いまして。私ケイトと同じ職場にいたこともあって、今も連絡を時々とりあってるんですよ。」
あ、なるほど、ケイトさんがわたしの絡まれ体質を心配してくれたのかな
「はい、改めまして、マサミです。よろしくお願いします。」
「今日はどのようなご用件でしょうか。」
セシリアさんは、こそっと耳打ちしてくれた。
「ここでは私が専属でマサミさんのご用件を処理させていただきますので」
そういうことね、もうすっかりわたしの個人情報が・・・
「今日は、何か依頼でもないかなと思って」
「そういうことでしたら、お任せください。こちらへどうぞ」
この流れって・・・やっぱり厄介ごとやらされるパターンだよね。
「こちらになります。数日前街の近くの鉱山から魔物があふれ出すという事件がありまして、十名ほどの鉱山夫が犠牲になりました。現在はやむなく鉱山の入口を閉鎖して警備兵が入口で対処している状態なのです。この鉱山は国としても重要な鉱山でして、兵を送り込んだのですが、鉱山の構造上一進一退を繰り返している状況なんです。こちらにも依頼が上がってはいるんですが、受け手がいないのが現状でして、この話をケイトにもしたところ、マサミさんがこの街に来るということで、お願いしてみてはとなりまして。」
当然こうなるよね・・・
「わかりました、準備をしてから行きたいとおもうけど、鉱山が魔物の巣につながった可能性というのはあるんですか?」
「はい、その可能性を検討されてはいるんですが、ほかの出入り口が見つからないという不思議な状況です。」
「それだと、魔物の巣がつながったとした場合かなり大きなものがということも考えられますよね」
「その可能性も否定はできません」
どうしようかな、大きな魔物の巣だった場合、移動方法がないと調査もできないよね。
「重要な鉱山ということは、兵士のかたの協力もしてもらえますよね」
「ええ、王宮へ連絡すれば可能だと思います。」
「たとえば、先行の調査のためにわたしを早飛の方に運んでもらうことって可能ですか?」
「前例はありませんけど、可能だと思います」
「鉱山の入り口付近で調査したあと、指定の方向へ運んでもらいたいということでお願いできますか」
「すぐに手配します」
それから4時間ほどで、ギルドへ早飛の人が来た。
やっぱり行動は早いんだね。
「嬢ちゃんが運んでくれって人かい、俺はデリスだよろしく頼む。」
「はい、わたしはマサミです」
「早速行こうか」
デリスはわたしをひょいと抱えると、あっという間に上空へあがり、鉱山へと向かった。
「ひっ」
思わず声をあげてしまった。
「心配しないでくれ、これでも、荷物を落としたことは一回も無いんだ、暴れないでくれりゃ大丈夫だ」
そうですね、荷物になりきります。
空を飛ぶってこんな感じなんだね。
とてもいい眺めだ。
あっという間に鉱山の入り口に到着した。
ほんとに早いんだね。
「で、これからどうすればいいんだ」
「ちょっとまってください。確認しますので」
わたしは、気配察知を最大限まで広げる。
「わたしを指示する方向へ運んでもらえますか。」
「わかった」
気配察知は移動中には狭まるが、少しゆっくり目に飛んでもらったので、反応のあるほうへと若干効率はよくないが飛んでもらった。
「このあたりに魔物の巣の出入り口があるはずです。場所は覚えておくことってできますか。」
「ああ、大丈夫だ、任せておけ」
「同じような方法で、次の出入り口を探します。」
「了解だ」
デリスが的確に飛んでくれたので、3か所の出入り口はすぐに特定できた。
「嬢ちゃんすごいな、こんな簡単にこれだけ巨大な魔物の巣の出入り口を特定するなんて」
「デリスさんが的確に飛んでくれたおかげですよ」
「謙遜しなくたって、嬢ちゃんの実力は俺が認めるぜ」
デリスに帰りも運んでもらって、ギルドへは夕方には戻ってこれた。
「セシリアさん、ただいま」
「随分早かったようですけど、何か問題でもありましたか」
「いえ、出入り口の調査が終わって帰ってきました」
「もう、わかったのですか、こんなに早く終わるなんて」
「俺も驚いたが、嬢ちゃんは的確に出入口を見つけてくれたぜ」
デリスに出入り口の位置を地図上で示してもらった。
「こんなに巨大な魔物の巣・・・いったいどうすれば」
「セシリア、何かあったのか」
ギルドマスターがセシリアに声をかけてきた。
「マスター、これを見てください。」
「これは鉱山付近の地図じゃねえか。鉱山で新たな動きでもあったのか」
「いえ、魔物の巣の出入り口が特定できたのですが」
「それはお手柄じゃねえか、で、なんだこんなところにマークしてあるが、これが出入口なのか」
「はい」
「なんだこりゃ、デカすぎだろ」
「それで困っていまして」
皆であたまを抱えているところへ、わたしは恐る恐る手を挙げてみる。
ギルドマスターが反応した
「なんだ嬢ちゃん、名案でもあるのか」
「人手をお借りできるならなんとかできるかもしれません」
「嬢ちゃん言ってみろ」
わたしは考えた、これだけ巨大になった空間へ火炎魔法を打ち込んでも、一つの出入口からもう一つの出入口へ到達させることはできない。
しかし、酸素不足でくすぶっている火は、中途半端に燃えカスをガス化させる、そして残っている空気も希薄化させる。
そこへ大量の空気が供給されると、爆発的に発火し、まるで爆炎を打ったかのように燃え広がるのだ。
そして空気が供給された出入口まで炎を吹き上げる。バックドラフトである。
しかし、しっかりと酸素不足を監視しながら出入口の封鎖と解放をしないといけない。
わたしは、鉱山の出入り口も含め4か所に伝達ミスを防ぐためにわたしの世界で使われているフォネティックコードにしたがって、ポイント名を付けた。
鉱山入口をポイント=アルファ、その他の出入り口を順番にポイント=ブラボー、=チャーリー、=デルタ
そして、何があるかわからないので連絡人員として、各ポイント向けに3名ずつ計12名とわたしの移動を補助するデリスの早飛、計13名。
早飛にはそれぞれ、アルファ=1、=2、=3、・・・とそれぞれポイントに対応する連絡係にもコードネームで行動してもらうことにした。
名前で指示していては、わたしは12名の名前を覚えないといけないうえ、場所の指示を間違ってしまえば大変なことになるからだ。
4箇所の各出入り口の封鎖と解放を素早く行う人員を準備してもらう。
ただし、出入り口を開放・閉鎖する要員は決して出入口の正面に立たないことを徹底してもらった。
まずわたしたち連絡部隊のうちわたしとアルファ部隊3名、デリスの5名で鉱山入口で集合する。
ブラボー、チャーリー、デルタ部隊はそれぞれの出入り口封鎖後、鉱山入口にいるわたしたちと合流する。
合流をもって、ほかの出入り口が封鎖されたことを確認として、わたしは、鉱山の入り口から強力な連鎖火炎魔法を打ち込む
わたしは、デリスにあらかじめ決めておいた魔物の巣の中央付近へ運んでもらう。それに連絡部隊全員も同行する。
わたしは、移動中も気配察知で、魔物の気配が消えていく様子を観察しながら進む。
三分の一程度まで魔物の気配が消えたところを見計らう。
「アルファー=1、=2、ゴー」
これは予め取り決めておいた、鉱山入口封鎖の指示だ。
鉱山入口を封鎖したのち、アルファー=2のみ、わたしたちのところへ合流して封鎖が終わったものと見なす。
アルファー=1は引き続き、封鎖に異常がなければ待機である。
わたしたちは、予定地点、魔物の巣の中心付近に待機する。
その間も、わたしは気配察知を最大限に広げて監視する。
それでも全体を監視するのは無理だが、燻るポイントぐらいは監視できそうだった。
最初に燻り始めたのは、ポイント=チャーリー方面だった。
「チャーリー=1、=2、ゴー」
これも予め打ち合わせていた行動をしてもらう。
封鎖を解き、炎が出入口から吹き上げたところを再び閉じる。
閉じたのち、チャーリー=1は封鎖に異常がないかの監視待機。
チャーリー=2が戻ってきたことで、上手くいったと見なす。
続いて、ポイント=ブラボー、=デルタも同じようにうまくいったようだ。
わたしたちは、念のため各ポイント方面を回りながら魔物の気配が消えたことを確認する。
確認が終わったポイントへ連絡を送り無事終了したことを伝え順次解散してもらう。
最後にわたしたちは、鉱山入口へ行き、すべてが終わったことを報告する。
そこへはギルドマスターが来ていた。
「嬢ちゃん、俺には詳しいことは分からねえが、うまくやってくれたんだな。ありがとよ」
皆は一様に喜びの声を上げている。
そしてわたしは、また一つ命の重さを背負った。しかし、その重さがどんどん軽くなってしまっていることに、この時のわたしは気づいていなかった。
緻密な作戦と仲間の連携によって、鉱山を覆う魔物の巣は殲滅された。
人々は歓喜し、マサミは英雄としての役割を果たした。
だがその胸に残ったのは、また一つ命を奪ったという事実。
そして、その重さが次第に軽くなっていく自分に気づかぬまま、彼女は歩みを進めていた。
光が闇を覆うとき、同時に心の奥底に新たな闇が芽生えていたのである。




