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~ 騒乱 ~

穏やかな日常の余韻を破るように、街に走る騒乱の気配。

小さな子どもを守るために立ち上がったマサミの行動は、やがて領主を巡る陰謀と大規模な戦いへとつながっていく。

ここで描かれるのは、ただの喧嘩騒ぎではなく、社会の闇と権力の影に触れる序章。

そしてマサミは、自らの戦術眼と力を試される局面へと踏み込んでいく。

 ケイトさんと楽しい夕食を済ませたあと、大通りへ出ると何やら騒がしい声が聞こえてきた。

「ケイトさん、なんか騒がしいよね」

「この時間になると、あちらこちらで喧嘩や何かが起きるのは普通のことなのだけど、今夜はずいぶん騒がしいわね」

 なんだろ、嫌な予感がする。

「ケイトさん行ってみよう。」

 突如走り出したマサミ、ケイトもマサミの後を追うように走っていった。


 現場にたどり着くとそこには、小さな男の子が尻もちをついたまま涙目でひたすら「ごめんなさい」を続けていた。

 相手の大男は、酔っているようで、怒りの収まりがつかないようだ。

 野次馬が周りを囲ってはいるが、誰一人その男の子を助ける様子はなかった。

 恐らくは、恰好から男の子は貧民街の子供だと思う。だから誰も助けようとはしないのだろうね。


 大男には見覚えがあった。忘れもしない、ギルドの最初の依頼のことでわたしに難癖をつけてきたあの男だ。

 しかし、今は商業ギルドのマサミだ。冒険者ギルドの話はできない。

「なんでそんなに怒っているの?この子こんなに謝ってるじゃない。」

 わたしは思わずその大男を睨みつけてしまった。

「なんだと、クソガキが!お前こいつの姉貴か何かなのか?」

「ち、違うけど、こんな小さな子相手にそんなに怒鳴ることないじゃない!」

 わたしは、以前の鬱憤までこめてしまっていたのかもしれない。

「っち、そこのクソガキが俺様にぶつかってきやがったんだ。ああ、痛てえ、痛てえな、どうしてくれるんだよ。骨が折れちまってるかもな」

 まるで言動がチンピラだ。

「こんな小さな子がぶつかったくらいで折れるようなやわな体には見えないけど?」

 わたしの怒りもピークに達しそうだ。でもダメここで本気出したら。冷静にならないと。

「なんだと、このアマ!」

 わたしの言葉に挑発されたのか、拳を振り上げ向かってきた。

 わたしは、とっさにそいつの足元に風魔法を放ち転ばした。

「あら、酔っぱらいすぎて足元もおぼつかないのかな」

「なんだとこのやろう!」

 もう一度立ち上がろうとしたところ転ばす。

「酔っぱらいは嫌ね、自分で転んで難癖つけるのかしら、いやだいやだ」

 さらに挑発を続ける。

 野次馬からもクスクスと含み笑いが聞こえてきた。

「っち、バカにしやがって、覚えてやがれ。!」

 捨て台詞をはいて去ろうとしたところを、もう一度転ばせてやった。

 はースッキリした。


 そこへケイトさんが息を切らしながら追いついてきた。

「マサミさん、いったい何が」

 もうそこには野次馬も解散しはじめてちりじりになっていたところだった。

「大丈夫ですよ、この子がちょっとね。酔っ払いに絡まれてただけよね。」

 男の子に向かってウィンクした。

「ケガはないかな」

 男の子を見たところ尻もちをついていただけでケガはない様子だった。

「ありがとう、お姉ちゃん」

 元気に手をふりながら去っていく男の子

「もう人にぶつからないようにね」


 やっと息が整ったケイトさん。

「マサミさん、走るの早いのね、私にはきついわ」

「えへへ、無我夢中で走っちゃったから、ごめんなさい」

「ええ、いいのよ、無事ならそれで」


「だいぶ遅くなったし、帰りましょうか」

「はい!」

「マサミさん、昨日ねロイドさんが来てもらえないかって言ってましたよ。ちょっと込み入った案件があって、それの事だと思うのだけど」

 ああ、どんどん巻き込まれていくのね、わたし。

「わかりました、明日伺います」

「ありがと、助かるわ」


 翌日、ギルドへ顔をだすと、ギルドマスターの部屋へ通された。


 そこには知った顔があった。領主のレルナードだった。

 でも、今は冒険者のマサミ、領主とは初対面だからね。


「おお、嬢ちゃん来てくれたか。ちょどよかった。」

 このちょうどよかったって言葉ですべて悟ったよ、また領主がらみの依頼だよね。


「レルナード、紹介するぜ、冒険者のマサミだ、跳ね人だが、腕は確かだ。二つ名”急襲の魔人”てのは聞いたことないか」

「ああ、噂には聞いている、登録からわずか数日で跳ね人までランクアップした新進気鋭の新人がいるってな」


「マサミです。領主様よろしくお願いします。」

「ああ、あまり畏まらないでくれ、ロイドとは旧知の仲でな、時々こうして直接依頼をすることもあるんだ、私のこともレルナードと呼んでもらって構わない。」


「嬢ちゃん、また、すまないが護衛の仕事引き受けちゃくれないか。領主様が前回の王宮帰りに襲撃を受けたって話くらいは聞いたことがあるだろう。」

 レルナードがロイドの言葉を遮る。

「その件は私から話そう。その時は旅の者に助けてもらって難を逃れたのだが、今回は、前回の襲撃の規模からして、また襲われる可能性が高いんだ。そこで、腕の立つ冒険者に護衛を頼みたいと依頼をだしていたところ、マサミさんをロイドが推薦してきたってわけだ。」

 まあ、全部わたしだから事情もなにも知ってるけどね。断りたいけど、無理だよね~


「レルナード様には直属の部隊がいると聞いていますけど、それではダメなのですか?」

「ああ、前回の襲撃で十数人の精鋭部隊がほぼ壊滅状態に追い込まれてな。すっかり兵士の士気が下がってしまっているんだ。」

「そんな相手にわたしが通用するんでしょうか」

「聞いているよ、パーティでこなすレベルのクエストを一人でやり遂げてるってね」


 あちゃーロイド、そういうところは言っちゃうんだねー。

 てことは、わたしが四種の魔法の使い手だってこと、レルナードには知られてるよね。

 ちょっとロイドをにらみつけると、案の定”許せ”みたいなポーズしてるじゃん。


 この二人は相当親密な仲だね。

 もしかしたら、昔共に同じ戦場で戦ったことがあるとか、冒険仲間だったとか、色々あるけど、まあ、そんな感じだろうね。

 まあ、わたしも、この街に腰を据えるって決めちゃったし、遅かれ早かれってとこだよね。

「わかりました、引き受けますが、護衛はわたし以外にどんな方が何人くらいつくんですか」

「私の直属の部隊から20名、腕の立つ傭兵を10名ほどつける予定だ。」


 ならたぶん、あの早飛っていう、翔翼族もつくんだろうから、いざとなったら、その人にレルナードを預けてしまえば、安全は保たれるかな。

 ほかの人たちは自分の身ぐらい守ってもらえば、なんとかできるね。


「出発はいつなんですか」

「四日後だ」

「ところで行先はどこなんですか?」

「また王宮へ行かないといけなくなった」


 大抵、ドンピシャで襲われるケースそのものだよね。


「もう一ついいですか、その前回襲撃を受けたときの相手というか、仕掛けてきたのは誰かわかったのですか?」

「いや、旅の者が生け捕りにしてくれたのだが、全員自害してしまってな。結局分からずじまいだ。」


 闇が深いね、あの連中騒ぎ立てるからちょっと油断したね、それも手の内だったのかな。

 自害するような訓練された連中は、動静をみて、静かに事をすすめるものだとおもってたからね。

 まあ、領主を狙うくらいの連中だものね、それくらいはするのかもね。


 そういえば、この街にも噂程度だけど、暗殺ギルドがあるって話だし、レルナードは見張られてるのかな。

 国の第三位の街の領主だものね、見張られてないほうがおかしいよね。


 今回ばかりは簡単な足止めで済むような連中じゃないよね。

「マサミさんには、私の馬車に同乗してもらいたいのだけど、いいかな」

 えーまたレルナードと二人で馬車の中なのーやだよーやめたいよー

「あ、はい、分かりました」


 わたしは、四日後の出発を前に、街の外へでて、移動中の襲撃を抑え込む方法を考え、シミュレーションを繰り返していた。

 移動する馬車の中から、水の調和と気配察知を組み合わせてなるべく広く薄く張る練習をした。

 自身が中心となるので、さほど難しくはないけど、せいぜい、1.5kmから2kmくらい、止まっているときよりは遥かに短い距離になる。

 前方から来たなら、止まれば時間稼ぎくらいはできるかな。

 後方から来た場合は足止めしつつ、馬車の速度を上げてもらう。

 横から来た場合も、前方方向なら止まるしかないよね。

 横後方から来た場合は、後方と同じで。

 上空から・・・これはないよね、領主の部隊に飛べる人がいるんだからね。

 あ、ちょっとまって、空を囮で排除しつつって色々させたら、護衛部隊が分散しちゃうよね。

 精鋭部隊がやられたのって、分散させられたからじゃないの?

 最後に領主だけってなったら、なんの迷いもなく一直線で追いかけてきてたものね。


 数日にわたる馬車の旅だもの、少しづつ削られたらひとたまりもないわよね。

 補充にしたって、馬車で2日ほどのところで数時間かかるものね。


 わたしは、急いでギルドへ戻った。

「ケイトさん、大至急ロイドさんに会わせて」

「はい、取り次ぎます」


「ロイドさん、前回領主様が襲われた状況の記録って確認できますか?」

「できないことはないだろうが、何か気にかかることでもあったのか」

「精鋭部隊が壊滅したのって、護衛部隊を分散させられたからじゃないかなって」

「なるほど、確かに精鋭部隊とはいえ、各個撃破されたら脆いな、その線で守り切る方法はあるのか?」

「むしろ、分散させられてやられたのなら、分散させられないように、追いかけなければ良いだけの話です。あえて取り逃がすことで、こちらの防備は崩れません」

「なるほど、相手が絶対的な優位ならそんな小賢しい手は使ってこないというわけだな」

「そうです。どのみち相手は捕まえたところで、白状するような連中ではないんです。無理に追いかけてもこちらが手薄になるだけ、そういうことなんです」

「その線で確認してみよう。」


「ただ、問題があるとすれば、常に緊張状態が旅の間続くことになります。国境方面の魔物騒ぎのように」

「そこには解決策はないのか」

「ないことはないですが、たぶん、内通者か、監視者がいると思って行動しないといけないと思います。」

「その内通者や、監視者の目をかいくぐる方法があるのか?」

「うまくいけばの話ですが、別々の城門から別の任務を帯びた部隊に見せかけて早めに出発させた部隊を途中で合流させるとかなら、幸いまだ時間はありますし」

「いざ襲うタイミングとなったときに絶対的にこちらが優位なら襲われるリスクを減らせる、そういうことだな」

「そうです。帰りもうまくいくとは限りませんが」

「わかった、レルナードに内密に連絡してみよう」


 四日後の出発時にレルナードを守る護衛部隊は、当初の予定通り直属部隊20名、傭兵10名とわたしの構成で出発した。

 出発から二日後、前回襲われたタイミング頃を見計らって別の城門から出発した別動隊5名ずつの二つの部隊計10名が合流。

 更にその二日後、別動隊5名と10名の二つの部隊が合流したため、25名増の倍近くの移動部隊となった。

 その間、相手も体制を崩そうと細かい手出しはしてきたが、こちらの人数が急激に増えたことで難なく追い返した。

 人数が増えたことで、移動中の警備負荷は軽減され、護衛部隊は健全なまま進むことができた。

 しかし、それでも相手は領主をねらうような連中だ。油断はできない。


「君のおかげで、ここまでは無事これてるな」

「いえ、わたしは、ロイドさんに気になったこと伝えただけです。」

「ところで、君と背格好の似た女性なのだがマルティーナさんという女性を知らないか?」

 えーなんでここでその名前でてくるかな。もしかして気づかれた?

「いえ、知らないです」

 わたしですなんて言えるわけないよー。

「そうですか、なんとなく雰囲気が似ていたものだから気にしないでくれ」

 もう、ドキドキしちゃったよー。心臓に悪いからそういうのやめてーほんとに。

 仮面つけててよかったー。

 マルティーナは二度と戻ってきません。どうか諦めてください。


「レルナード様、止めてください」

「なにかあったのか」

「右前方の森に魔物多数の反応があります。」

「馬車を止めろー!」

 馬車を止めてもらったことで、気配察知が使える。

「今、正確な数を確認します。」

 100・・・200・・・300、あの時感じた、そう、国境の魔物騒ぎの時と同じ魔物使いの反応

「魔物約300が潜んでいます。魔物使いが二人・・・です。」

「ここにきて魔物使いまで出してくるとは」

「暗殺を諦めて力押しで来るつもりですね。」

「数の問題か、一人5,6体づつ相手をするというのはなかなかに骨のおれる仕事だな」

「わたしが行きます。」

「一人でか?」

「はい、ほかの護衛の方たちは、レルナード様を守ることに専念させてください。」

「無理をしているわけでは無いのだよな」

「大丈夫です。レルナード様を無事王宮へお連れするのがわたしの仕事ですから。」

「無事に戻ってきたら何が欲しい、望みのものを言え」

「そういうの、わたしの世界で死亡フラグって言うんですよ、無事に帰ってきてからにしてください。」

「わかった、無事に戻れ、それが依頼の命令だぞ」

「もちろんです、わたし痛いの嫌いなんで」

 わたしの場合、死ぬか生きるかの選択じゃない、300程度の魔物相手なら殺す覚悟だけだ。そして魔物使いの人も。


 焼き殺すと、森まで影響が出ちゃうし、かといってちまちま倒してると疲れてわたしがどうなるかわからない。

 土を細かくして、風で小さな竜巻のように魔物を巻き込んでいく。

 可哀そうだけど、痛くしてごめんね。サンドブラスターというやつだ。やすりで皮膚を削られていくようなものだ。

 森の木々にも少し影響あるけど、火をつけるよりは影響は少ない。

 魔物の数はあっという間にいなくなり、そして魔物使いも一緒に

 わたしは、とうとうこの世界で自分の手で人を殺した。その命の重さを背負っていくのだ。

 結局、わたしは虐殺をしたことにかわりはないのだ。

 襲ってきたのが悪いなんて言うつもりはない、自分の心の中で今一度整理をつけないといけなくなった。


 馬車に戻ると、わたしは一言、終わりましたとだけ伝えた。


 レルナードは私の気持ちを察してくれたのかしらないけど、声をかけずにそっとしておいてくれた。


数百の魔物と二人の魔物使いを前に、マサミはついに自らの手で人の命を奪った。

それは勝利であると同時に、心に重くのしかかる「命の重さ」との対峙でもあった。

守るために選んだ行動は、虐殺にも等しい現実を伴い、彼女の心に深い影を落とす。

マサミが善意の延長ではなく、使命のために命を背負う存在へと変わり始めた瞬間を刻む。

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