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~ 二つの境界 ~

力を得た者は、必ずしも望む形でその力を試されるわけではない。

冒険者としての階段を駆け上がり、思わぬ二つ名を背負わされたマサミは、都市の視線と期待の中で新たな立場を得ていく。

だが同時に、貴族社会という別の舞台にも引き込まれ、素顔を隠すための「仮面」を選び取ることになる。

この章は、冒険者と貴族、表の顔と仮面の顔――二つの境界を跨ぐ者としての第一歩を描く。

 まずは冒険者ギルドで依頼を受けて、ランクを上げないとね。

「こんにちは、ケイトさん」

「マサミさん、今日はどういった御用ですか?」

「やっぱりランクを上げないと色々不都合が出てきてしまって」

 ケイトは察したように、マサミに耳打ちした。

「マサミさんなら、ロイドさんに言えばすぐにでもあげてもらえますよ」

 にっこりと微笑みながら言ってくれたが、そういうのすると後が怖いので、正式な手順に則ってランクを上げたいと申し出た。

「そうですか」

 ケイトはちょっと残念そうだった。


「では、こちらの依頼なんかどうでしょうか?マサミさんならお一人でも簡単だと思いますよ。ちゃんとランクアップのポイントも稼げますよ」

 南の森の魔物退治

「あ、はいお願いします」

「同じようなものを3つもこなせばすぐにランクアップですよ。」

「そうですね。」

「なにか浮かないお顔してますけど」

「わたし、その殺すということに抵抗があって」

「冒険者ギルドでランクアップのためには、街にとって特に有益なことをしなければいけないので、それは通りませんよ。」

 ケイトの厳しい言葉に襟を正すマサミだった。

 そうだよね、いずれはそういうことになるってわかってるはずなのに。そろそろ覚悟を決めなきゃね。


 あっさりと解決し、ギルドへ戻ってきて、ケイトさんに報告をして、報酬の受け取りなんかをしていると、待合で少し騒がしい声がしていた。

「おいおい、誰だよ俺たちのクエストを横取りしたやつは!」

 受付の方にきて受付に怒鳴り散らしている。

「おい、南の森の魔物退治は誰が横取りしやがったんだ。教えろ!」

 あれ、わたしがさっき終わらせてきたやつじゃないの・・・やだな、揉め事は。

 そう思っているとケイトさんがぴしゃりと言い放った。

「あなた方が受けていたわけではないのに、横取り呼ばわりするとはどういうことですか?」

 さすが、ケイトさん、荒くれものみたいな連中を相手に受付してるだけはあるね。

「大丈夫ですよ、依頼が完了したクエストの情報は終了のみで、詳細は誰にも知らせない決まりですから。」

 耳元でこっそり教えてくれた。

 大騒ぎしていた連中は捨て台詞を残してやけ酒をあおりに行ってしまった。


 ランクアップのためのポイントを稼ぐのはどうということはなかった。

 ケイトさんの選んでくれたクエストをこなしているだけで、トントン拍子に第三階層:跳ね人まで僅か数日であがってしまった。

 しかし、ここまで早いと周りの見る目も違ってくる。跳ね人となればもう、立派な冒険者だ。

 ましてやわたしの依頼を処理してくれるのは、ケイトさんだけなのを見ている人は見ているものである。


 そして、まだ跳ね人だというのに、ほかのグループが報酬の狙いでクエストを受ける準備を進めていたところをさらっていくので、新進気鋭のニューフェイス、「急襲の魔人」などと、あまり名誉的でない二つ名まで頂いてしまった。二つ名はもっと可愛いのを期待していたのだけどね。

 そんなことを思いながら、そろそろ人を助ける仕事とかないかななんてクエストボードを眺めていたら、例の怒鳴り散らしていた連中がやってきて、一直線にこちらに向かってくる。


 逆恨みなんて嫌だよ。ケイトさんのところ行っちゃおうかな。

 そんなことを思ってる間もなく声をかけてきた。にやけたとても嫌な顔をしている。

「急襲の魔人さんよ、俺たちと組まねえか?あんただってそろそろ大きな仕事がしたんじゃねえのか?」

「あ、いえ間に合ってますので」

 素っ気なく振り切ろうとしたが、しつこく付きまとってくる。


「なあ、南の森の魔物退治したのあんただって話じゃねえか、ちょっとぐらい話きいてくれてもいいんじゃねえか?なあ」

 やだなこういうのは嫌われる典型だよね、いつまでもネチネチするのって駄目だよね。

 もう、めんどくさい、吹き飛ばしちゃおうかな。そんなことを思っていると、ケイトさんがツカツカと寄ってきて割って入ってくれてその場を納めてくれた。


 ケイトさんまぢ女神。わたしはケイトさんに一生ついていくよ。なんて思っていたら。

「マサミさん、ギルドマスターがお呼びです。」

 さっきのなし、やっぱりこういうのくるよね。何か頼まれるやつだ。


「待っていたぜ、嬢ちゃん、そういや跳ね人まで自力で上げたんだってな、さすがだな」

「ケイトさんがあてがってくれたクエストが良かっただけですよ」

「謙遜するなって、俺は一言いってくれりゃ、ランクの一つや二つなら簡単にあげてやったのによ、どうせこうなるって分かってたからな」

 そういうロイドは豪快に笑っていた。

「そういや、急襲の魔人なんて二つ名がついたそうじゃねえか。跳ね人で二つ名持ちなんてそうそういるもんじゃないぜ。自信持ちな」

 そうは言われても、可愛い二つ名じゃないのが気に入らない。


「ところでな、領主のところに挨拶に来た貴族がな腕の立つものに護衛をさせろって依頼が来ててな、ここから少し西にいった領地をもっている伯爵様らしいんだが、領主を助けた冒険者に頼みたいって言ったらしいんだが、領主から賓客として迎えている以上、そのような雑務はさせられないって断られたらしいんだ。そこで嬢ちゃん、領主の顔をたてると思って引き受けちゃくれねえか。」

 それって同じことだよ、と思ったが言えるわけがない。

「わかりました、気は進みませんが」

「そうか引き受けてくれて助かったぜ。見てわかるとおり、冒険者ってのは品のないガラの悪い連中ばかりでな。伯爵様の護衛なんてとてもさせられない連中ばかりでな。そういうことだから一つ頼む」


 お貴族様の護衛かあ、なんか嫌だけど仕方ないよね。ギルマス直々にだし、領主も絡んでるし、断れる要素どこにもないじゃん。

「その代わりなんですけど、噂でも昔話でもなんでもいいので、転移系の魔法の話探してもらえませんか?」

 ロイドになら話しても大丈夫だと思う。どうせ四種扱えるの知ってるわけだし。

「ああ、探させておく。だからしっかり頼むぜ」


 わたしは、今後も貴族の仕事とかで顔を見られたりして、色々バレると困るので、冒険者としては仮面をつけることにした。

 少々胡散臭くなるけど、むしろその方が急襲の魔人としては格好もつくだろうと思った。

 ギルマスにも事情があるからとケイトさんにも知らせておいてもらうことにした。


 わたしは、街へ行き眼だけしか出ない仮面を見繕った。

 ギルド内でもあまり素顔を見られてはいないので、このまま仮面で隠すのもいいだろう。


 それにしても、この街へ来てからセーラー服は下に着てるのにその姿で生活してないよね、わたし。

 ローブで隠しっぱなしだよ。わたしのアイデンティティを返せー!と心の中でさけんだ。

挿絵(By みてみん)

 伯爵様は私をちらりと一瞥すると、しっかり働けよ、胡散臭いやつめ、などとほざいて馬車に乗り込んでしまった。

 うん、これでこそお貴族様だよね。妙な納得をしたマサミだった。


 さてと、魔法をバンバン打って戦闘なんてしたらこのお貴族様に何言われるかわかったものじゃないし、実力知られたら、強引に護衛になれなんて言われかねない。

 なので、先手を打つ、水の調和と気配察知を合わせるお得意の魔法。

 察知したら、近づく前に足止めして去る。

 何もしてないように見えるけど、それはそれでいい。

 護衛なんて居るだけでも仕事なんだから。


 数日そんなことをしているうちに伯爵家へ到着する。

 入口で報酬の入った布袋を目の前に投げられ、まるで追い返すように戸がしまる。

 変に接待されるよりマシだよね。わたしは布袋を拾うとさっさと来た道を引き返す。


 ギルドへ帰って報告すると、レルナードからの特別手当がでていた。

 相変わらず太っ腹だね。ありがたく貰っとくよ。

「ロイドさんからお話があるそうですよ。」

 もしかして目的のもの手に入ったのかな。


「伯爵様の護衛はどうだった」

「わたしの知ってるお貴族様そのものだったわ」

「それは手痛い評価だな、まあ、あんなのばかりじゃないから貴族をそう嫌ってやるな」

「わたしも、領主様は少し見直してるところだけどね。特別手当くれたし」

「わっはっは、意外と現金な奴だな。ますます気に入った」


「ところで、頼まれていたものだ」

 ロイドはテーブルの上に一冊の書を出した。

「いったいこんなものどうするんだ?ただのおとぎ話みたいなものだぞ。」

 わたしは早速パラパラとめくって見た。

 直感的に何かピースが嵌らないような違和感を覚えた。

「とりあえずありがと」

 わたしはその書をもってそのまま図書館へ向かった。


「こんにちは、ギルドのランクが変わったので確認お願いします。」

「おや、跳ね人ですか、ついこの間芽吹き手だったと記憶しておりますが。すみません、余計なことを申しました。3階までご自由にお入りください。」

「ありがとう、魔法関係の書物とか閲覧できるかな」

「はい、3階にありますよ」


 跳ね人まで上げたのは正解だったね。


 わたしは、転移魔法の糸口を探すべく魔法の関連書をひたすら読み漁った。

 次々とわたしの中に流れ込む魔法の使い方。わたしの特異体質はこういうところで発揮される。

 もしかしたら魔法ギルドに行く前にかなりの魔法知識が蓄えられてしまいそうだね。

 これは魔法ギルドに加入していない魔法使いってことになっちゃうのかな。えへへ。

 マサミはちょっと優越感のようなものを覚えた。


 更に知識を深めるべく、魔法関係の書物を読み漁る。

 ここ2週間ほど、図書館に来ては閉館まで読み漁っている。

 しかし、図書館の知識だけでどうにかなるようなら、たぶんほかの人でも気づいていることだよね。

 せめて、糸口くらいはほしいな。

 今こうして、魔法知識はどんどんわたしの魔法になっているから無駄なことではないのだけど。

 なに、なに、”時間を圧縮する考察・・・・”目に留まったのは今までとは毛色の違う魔法の学術書だった。

 元素系とはちょっと違うよね。こんな研究があったんだ。

 でも、ほとんどがその学術書の紹介というか、要約文しか載ってないね。

 こういう資料って、多分重要度が高いから、今のランクじゃ閲覧できないよね。

 ふとその時、”王宮の図書室”のことを思い出した。

 もしかしたら、王宮の図書室にならあるのかな。


 背に腹は代えられない、冒険者ランクを上げて、有名になって色々厄介ごとに巻き込まれるだろうけど、それすらも乗り越えなきゃね。


 図書館での調べものを一旦区切りをつけると、ここまでやった自分へのご褒美がほしくなった。

 あの教えてもらったカフェで甘いものと、お茶でもしようっと。


 なんか、こうして日中に街中を歩いてると、随分お日様にあたってない不健全な生活してたよね。

 せっかくだし、テラスでお日様の光を浴びながらお茶にしようかな。


 お茶をしなが、これからのことを巡らせていると、再び湧き上がるアイデンティティ問題。

 セーラー服姿で街中のお散歩くらい楽しみたいよね。

 そっか、ランクをあげて稼いだら、やっぱり拠点を構えたいよね。

 そしたらわたしまた自由じゃないの?えへへ。

 そろそろ、領主のとこからもお暇しないとだしね。

 そしたら、晴れてマルティーナ卒業だ~!


 そういえば、冒険者ギルドで建物購入の斡旋してくれるって言ってたよね。

 街のはずれのほうでいいし、安くていい物件あるといいな。

 明日あたり、ケイトさんに相談してみよ。


「こんにちは、今日は住むところで相談なんですけど。」

「マサミさん、こんにちは、この街に腰据えてもらえるんですね。嬉しいです。」

 あ、そうだった。この街を拠点にすること、つまり、この街の厄介ごとクエストが解消させられるってことだった。

 どのみち、巻き込まれるのは慣れっこだし、割り切るしかない。アイデンティティの前に拒むものなし!

「あまり高くない物件ありませんか?」

「住宅街の一軒家で、ちょっと古い感じなんですけど、街道沿いではないので、不便さはありますが、大金貨85枚で引き渡しできるものがありますが見てみますか?」

 宿2年分より安いってお得じゃない?いわくつき物件とかじゃなきゃいいや。

「それって、中で人殺しがあったとかじゃないですよね?」

「それは大丈夫です。そういう物件はギルドから斡旋しませんので、ただの古民家だと思っていただければいいかと思います。」


 さっそく、場所を教えてもらって、カギを受け取り、見に行ってみる。


 しっかり管理されてるみたいだね。入口がガタついてるとかないし。

 部屋の中も、確かに古いけど、掃除は行き届いてるし。すぐに入れそうだね。

 ここに決めた。


「ケイトさん、ありがとうございます。あの物件で決めたいと思います。」

「そうですか、よかったです。これからよろしくお願いしますね。」

 わたしは、持っている金貨から寄せ集めて渡す。

「はい確かに、この鍵はそのまま使ってください。スペアキーなどの存在もないようにギルドで仲介する際交換してありますので。」

「ありがとうございます。」

 至れり尽くせりだね。


「そうだ、明後日私お休みなんですけど、マサミさんのご都合がよければ、街の案内しましょうか?引っ越し祝いってことで」

「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします」

 ケイトさんとデートだ。なんかちょっと嬉しい。

「明後日の朝、マサミさんのお宅に伺いますね。あ、朝からでご迷惑じゃないですよね?」

「大丈夫です。わたしこの街きてまもないですし、さしてすることもないので」


 とはいえ、ケイトさんが家に来るとなると最低限の家具やなんかは取り揃えて置きたい。

 ベットなんかも必要だし。家ができたってことは家事道具も用意しないとね。


 でも、自力で探し回るのは大変だし、家買ったのだから家具とか家財道具の買える場所聞いてもおかしくないよね。

「ケイトさん、家具とか家財道具の買えるお店だけでも紹介してもらえますか。」

 地図を見ながら、ここは安いけどデザインがシンプルだとか、ここは可愛い小物があるとか、色々時間を割いてもらってしまった。

 なんだか相談に乗ってくれるお姉さんができたみたいでちょっと嬉しい。


 ベットとクローゼット、キッチン用品など結構物入りだった。

 ベットなど大型の家具を持ち帰るといった時には店主が目を白黒させていたけど、今となっては収納魔法や運搬魔法もお手の物だ。

 そしてやっぱり大事なのは浴槽。お湯に浸かるというのは、心の洗濯だから必須なのだ。

 値段は少々張ったが、良い買い物をしたと思っている。


 そして家が整ったので、マルティーナとしての最後の仕事が残っている。

 領主の家からお暇することだ。

 しっかりと、領主のところで買ってもらった高級ローブを着込んでマルティーナになりきる。

「少し、長居しすぎてしまったようです。わたしは、この街を離れ、気ままな一人旅にもどります。短い間でしたがありがとうございました。」

 これで、マルティーナと領主の物語は終わりになるはずだ。ありがとう、マルティーナ。そしてさようなら、マルティーナ。


 一旦街の外まで出て、人目のつかないところでローブを着替える。これからは、冒険者のマサミになる。

 なぜ、アイデンティティのセーラー服で街に入らないのかって?

 そう、急襲の魔人などといわれている冒険者のマサミが、この可愛いセーラー服で町を闊歩するのはわたしが許せないのだ。


 この街でセーラー服で闊歩するためのアイデアはもう既にあるのだ。

 まだ、関連付けされていない商業ギルドの登録をセーラー服のマサミとして登録して、急襲の魔人とは別の身分証を持つのだ。


 結局二重生活から解放されるわけではないが、冒険者のマサミと、商人のマサミを使い分けるだけのこと。

 自分だけの拠点もあるから、今後は楽に切り替えられるし。


 早速、自分の家へ帰った。そして、冒険者のローブを脱ぐと、お帰り!わたしのアイデンティティ!

 セーラ服姿で晴れてこの街を闊歩できる時がきたのだ。


 商業ギルドへ赴く。

「すみません、登録をお願いしたいのですが。」

「ほかのギルド証や、紹介状などはお持ちではないですか?」

 あれれ、そういうの必要なの?ギルド証見せちゃったら関連付けされちゃうじゃん。


 そう思ったとき、セーラー服のポケットに入れていた。長老様からもらったペンダントのことを思い出した。

「これは、紹介になりませんか?」

「これはこれは、水和族の族長会からの紹介ですか。すぐに登録の手続きをさせていただきます。」

 そんなに権威あるものだったんだね。長老様、ありがとう。

 やったー。これで商人のマサミとして使い分けられるね。


 大金貨15枚の初期支払いで、面倒な更新手続きや、ノルマなどなく継続資格となるというので、支払いを済ませ、手続きを終えた。

 きっと、どこかの貴族の道楽娘が思い付きで族長会から紹介取り付けて登録にきたとか思われているんだろうけど、すぐに商売するわけじゃないし、いいよね。

 それにしても、旅の商人さんは、こういうのでやってたんだね。元手もかかるし、ロマンを追うのって大変なんだね。


 いずれ商売するかもしれないけど、まずは、アイデンティティを守るための投資だからね。

 とはいえ、だいぶ懐が寂しくなってしまったのも確かだね。

 これからは、領主のところで、ご馳走になるわけにはいかないから、とりあえず、ケイトさんとのデート資金を調達しないとね。

 生活費よりも、ケイトさんとのデートをウキウキで優先するマサミだった。


 冒険者ギルドに戻り、日帰りで稼げる割のいい仕事をケイトさんから請け負った。

 家財道具などの購入で減った分を少しでも稼いでおきたいという建前で請け負った。


 街の国境方面に魔物が出没し、流通に影響が出ているという依頼だった。


 わたしは、得意の水の調和と気配察知を使うと、なんかワラワラといるね。

 なんでこんなにいるんだろ、しかも統制が取れてる感じ、もう少し大群がいるほうの奥へと集中してみる。

 この大群なのに、なんで、小出しに嫌がらせみたいなことしてるんだろうね。


 わたしは一際大きな悪意があるのを見つけた。

 この人?が操ってる感じで間違いないよね。

 少し遠回りだけど、回り道してこの人捕まえれば終わりとはいかないよね。

 この大群を街に寄せ付けないようにしてからでないと、統制がとれなくなった魔物が一気に町に押し寄せる危険があるものね。


 わたしは、統制が取れなくなった時のために、街に近いほうになるべく大きな風の壁を作った。

 急いで、この悪意の塊のような人らしきところへ回り込んだ。

「わるいけど、あなたの都合聞いてる暇ないから、あとで衛兵に話聞いてもらってね。」

 そういうと、風の拘束魔法で縛り上げた。


 すると、やはり突然のことで、統制が取れなくなった魔物が右往左往はじめたのだ。

 ちょっと混乱してるみたいだけど、街のほうへ行く魔物は風の壁にぶつかり、本能で逆方向、つまりは街とは離れていくほうへ霧散していった。

 わたしは、それに巻き込まれないように魔物を適当に誘導して散らした。


「さて、あなたを衛兵に引き渡すけど、変なこと考えないようにね。余計な手間増やされて、わたし今虫の居所が悪いから。」


 虫の居所が悪いのは確かだ。自分の手で直接やらずに、魔物を利用するなんて。

 魔物がいくら人にとって悪しき存在であったとしても、無暗に理由なく殺すことはしたくない。


 街の城門で衛兵に事情を話し、引き渡すとギルドへ報告に行った。

「そうでしたか、魔物を操って嫌がらせ的なことをしていた人がいたなんて。」

 何が目的だったかなんて、政治の世界で落としどころを見つけてくれるのだろう。

 大きな闇は感じるけれど、今は自分の事ですら回っていないのだから、忘れておこうと思う。


 明日はケイトさんとのデートだ。気分を切り替えて楽しもうと思う。


冒険者としての顔に「急襲の魔人」という二つ名を得て、商人としての顔に新たな身分を与えられたマサミ。

彼女はついに、自らの拠点を持ち、二重生活を本格的に歩み始めた。

それは自由を取り戻すための選択であると同時に、都市社会の光と影を同時に背負う覚悟でもある。

国境での戦闘で垣間見えた「魔物を操る者」の存在は、背後に潜む大きな闇を示唆していた。

しかし今は、責任と自由の狭間で揺れながらも、確かに前へ進む自分を信じるしかない。

そして、明日――ケイトとの小さな約束が、彼女にとって何よりの希望となる。

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