第十八話:エグリスへ!
第十八話完成だよっ♪
ようやくエグリスに到着だね。
エグリスへ向かうため、最後の関門である山に足を踏み入れた我ら五人は、その途中にガランの相棒だというコウモリ――ステルスと出会い、行動を共にすることになった。
だがこのコウモリ、無駄にうるさい。まるで不審者を見つけた犬のようにきゃんきゃん吠える。少しは静かにしてもらいたいものだ。
チャンボ
「長、もうすぐ抜けれそうかなっ?」
長
「ええ、そろそろ見えてくるはず……あ、見えましたよ。」
長の指差す先には山の自然の雰囲気に似つかわしくない巨大な石の壁が見えた。長方形に切り出された石を均等に並べて作られたそれは、まるで城を守る城壁のように続いていた。
長
「あとはこの石壁に沿って歩いていけば入口につけます。」
アレックス
「もう着いちまったのかよ。つまんねぇ道のりだったぜ。」
山賊の根城があるという山を抜けてきたが、実際は襲われることもなく平和そのもの。本当に山賊がいるのかと疑いたくなるほど静かだった。
ガラン
「そう言うなアレックス。オレでよければいつでも相手になってやるからよ!」
アレックス
「言うじゃねぇか。今度は容赦しねぇでいくから覚悟しとけよ!?」
ステルス
「へんっ!お前じゃガランの旦那には勝てねぇよーだ!」
アレックス
「ッンだとくそコウモリ!!?」
アラン
「ぎゃーぎゃー喚くな。これから町に入るのだ。少し静かにしてろ!」
まったく、このステルスが来てからずっとこの調子だ。元からうるさい奴だったが、ステルスのおかげでそれに拍車がかかっている。
……まあ、それがクマ除けならぬ山賊除けになったのかもしれないが、一緒にいる我らの中でこれを楽しんでるのはチャンボくらいなものだ。
アラン
「おいステルス、街に入ったらしゃべるなよ?」
ステルス
「なんでだよ!?ってか、なんでお前なんかに命令されなくちゃならないんだよっ!!」
いちいち面倒くさい奴だな……
アラン
「いくら様々な種族が混在するこのガイアといえど、喋るコウモリなんてものは極少ない。それで騒ぎにでもなれば、お前達が魔族であるということがばれてしまうかもしれないだろう?」
いくら説明したところで魔族は魔族。受け入れられる可能性は低い。ならば隠し通すしか方法はあるまい。
チャンボ
「ははっ、気を付けてねステルス♪後ガランも♪」
ステルス
「やかましいわっ!!」
ガラン
「おう、任せとけ!」
同じ魔族でこうも違うものか…。あまり言うことを聞いてくれないステルスと違って、ガランはそれなりの教養を持っているから助かる。
アラン
「そういうお前も気をつけろ。それでも一国の王子か?」
チャンボ
「星の王子だけどねっ♪」
長
「皆さん、そろそろしゃんとしてくださいね?入口関所が見えてきました。」
長の言葉に皆の視線が前に向けられる。そこには一際大きな門があった。
頑強そうな鉄の格子があり、あれを閉じればまず入ってくることはできないだろう。上の方を見てみれば、分厚い石の壁の上には足場があり、大砲が並んでいる。
アラン
「随分厳重な迎撃設備だな。まるで城の城門のようだ。」
長
「ここには城の代わりに教会がありますからね。エグリスにとって教会は、城と同じくらい大切なものなのです。」
アレックス
「芸術の街って言うなら、自分の作品を壊させたくないがために作った、てのも考えられるかもな。」
チャンボ
「この街の長なら芸術を手掛けていても不思議はないし、あり得るかもねっ♪」
ガラン
「なぁ、そもそも芸術ってなんだ?」
長
「芸術とは、建築や工芸などの様々な形で美を表現することです。やはり、多くの人々は見た目が煌びやかなものを好みますからね。」
ステルス
「おれは使えれば別に見た目なんてどうでもいい気がするけどなー。人間どもの考えはよくわからん。」
ガラン
「ま、オレらは実用性重視だからな!」
アラン
「せめてそのボロボロの上着は新調した方がよさそうだがな。」
チャンボ
「せっかくだから情報集めのついでにお店をのぞいてみよっか♪」
そんなおしゃべりをしている間に門番らしき人物が視界に入ってきた。それを確認し、居住まいを正す。
ステルスはなるべく目立たないようにガランの肩にとまった。
門番
「止まれ。」
もう少しで門に着くというところで門番に呼び止められる。
軽装だが、手に槍をもったその門番はじろじろとこちらを見ながら近寄ってきた。
門番
「見ない顔だな。巡礼者か?」
長
「私の友人ですよ。門番さん。」
と、我らを代表するように長が一歩前に出た。すると、先ほどまで厳つい表情を見せていた門番がパッと明るい顔になった。
門番
「おお、長さんのご友人でしたか。先も言いましたが、巡礼ですかな?」
長
「いえ、このガイアを旅している旅人ですよ。先日偶然出会いましてね。私もエグリスに立ち寄ろうと思っていたので、同行させていただいたというわけです。」
門番
「なるほど。見たところまだお若いのに。探究熱心ですな。」
自然な流れで話を進めていく長。即興で考えたのか、はたまた初めから用意していたのか。どちらにせよ狼狽えた様子もなく、門番が不審がる様子もない。一応面識はあるようだが、さすが長だな。
しばらくの間会話が続き、長が門番にお金を渡すとその代わりに門番は長方形の木の板を手渡した。長がそれを受け取ると会話は終わりを告げ、我らの元に戻ってきた。
アラン
「長、それは?」
長
「これはエグリスに入るための許可証です。エグリスにいる間はこの許可証の呈示を要求されることが多々あるので、なくさぬようしっかりと身に着けていてくださいね。」
アラン
「ほぅ……」
渡された木の板を見てみると、そこには花の文様が彫られていた。それは精巧に再現させており、まるで本物の花のような美しさがそこにあった。
許可証に彫刻とは、さすが芸術の街といったところか。そんなことを思いつつ、許可証を懐にしまった。
長
「それでは皆さん。さっそく中に入りましょうか。」
ガラン
「おう!なんかわくわくするな。」
この街に来たことがあるらしい長と、許可証を握りしめて歓喜するガランを筆頭に我らはエグリスへと足を踏み入れた。
街の中は活気に満ちていた。メインストリートには露店を開く商人や、巡礼に来たと思しき白服の集団が目立ち、その種族も人間、エルフ、ドワーフ、ワイバーン、獣人など、様々だった。
チャンボ
「きれいな街だねぇ♪」
アラン
「ああ。さすがは芸術の街だ。建物もなかなか洒落ているな。」
あまり芸術に関して詳しいわけではないが、素人から見ても一目で素晴らしいと言えるものばかりだ。
ところどころに出ている露店をのぞいても、アクセサリーやガラス工芸などそんじょそこらではお目にかかれないであろう見事な作品が置かれている。
ガラン
「面白そうなもんがたくさん並んでるなぁ!」
アレックス
「同感だぜ。芸術に興味はねぇが、なんか目移りしちまうな!」
アラン
「ほう、筋肉バカのお前でも心を揺さぶられるとはな。」
アレックス
「誰が筋肉バカだ!?絞め殺すぞ!!」
長
「まあまあ、落ち着いてください。」
いつもの喧嘩に発展しそうになってきたところを長が止める。
おっと、公衆の面前で危うく取り乱すところだった。危ない危ない。
チャンボ
「ねぇねぇ、せっかくだから少しの間自由時間にしない?いろいろ見て回りたくなっちゃった♪」
アラン
「おいおい。ここに来たのは情報収集と仲間集めのためなんだぞ?遊びに来たんじゃないんだからな?」
長
「では、情報収集は私がやっておきますので、皆さんはしばらくこのエグリスを見て回ってはいかがでしょうか?」
チャンボ
「賛成っ!」
ガラン
「サンキュー、長!」
まったく、大事な任務を放り出してまで遊びたいのかこのガキどもは……。はあ、と思わずため息がこぼれる。
アラン
「いいのか、長。」
長
「構いませんよ。せっかく芸術の街に来たんですから、少しくらい楽しんでも罰は当たりませんよ。」
アラン
「そうか。……だが、我も付き合うとしよう。」
さすがに長にばかり負担をかけるわけにはいかない。ここは手伝うのが筋というものだろう。
長
「ありがとうございます。では、三時間後に中央広場の銅像の下で合流しましょうか。」
そう言ってアレックスに地図を渡す。
アレックス
「おう、わかったぜ。」
アラン
「アレックス……」
アレックス
「言わなくてもわかってらぁ!俺様はあくまで王子の護衛のために着いていく。王子のことは俺様にまかせ――」
アラン
「待ち合わせ場所を間違えるなよ。」
別に我はチャンボの心配をしているわけではない。長と戦った時に見せたあの強さなら一人でも十分身を守れるだろう。だが、この筋肉バカが待ち合わせ場所を覚えていられるかどうか……
そこまで考えてふとアレックスの表情を見ると、まさに鬼の形相といった感じの顔だった。
アレックス
「テメェ、おちょくるのも大概にしろや!!いくら俺様でも間違えるわけねぇだろうが!!!」
ガラン
「ま、もし忘れたときはオレが覚えとくから心配すんな!」
ステルス
「へへっ、それなら安心だな。こんな図体でかいただのバカよりガランの旦那の方がよっぽど役に立つなー。」
アレックス
「ぬおーーーッ!!!どいつもこいつもバカにしやがってーーーッ!!!!」
ついには頭をかきむしって叫び始めたアレックスに待ちゆく人々がなんだなんだと足を止め始めた。
まったく、ここにはガランとステルスもいるというのに……
長
「あはは……。と、とにかく行きましょうか。チャンボさん、ガランさん、アレックスさん。また後ほどお会いしましょう。」
チャンボ
「じゃあねぇ♪」
ガラン
「またあとでなぁ!」
アレックス
「ぬおーーーーーッ!!!!!」
アラン
「いい加減黙れ。」
アレックス
「へぶっ!!??」
一撃手刀を加えて黙らせたが、その眼はまるで獲物を狩るライオンのように鋭くとがっていた。
まあ、その時我と長はすでに背を向けて歩き出していたのだが。
まったく、この先が思いやられる……
さすが工芸の街だけあってきれいなところだねっ♪
アラン
「わかっていると思うが、遊びに来たんじゃないからな?」
もちろんだよ♪