第十四話:涙の旅立ち
第十四話完成だよっ!
ふぅ、ここまで大変だったぁ……
朝日が昇り、日の光が森を照らしだした頃、エルフの里の入り口に里に住むエルフ達が集まっていた。
里の頭首――長を見送るために。
長
「白。私がいない間、里のことは任せましたよ?」
白
「お任せ下さい。若が戻られる日まで、この白、命をかけて里を守り抜きます!」
エルフ達の一歩前で、白は長の手をぎゅっと握りしめる。力強い言葉とは裏腹に、その目からは涙がこぼれていた。
いや、白だけではない。その後ろにいるほかのエルフ達も声を殺して泣いていた。
チャンボ
「みんなに凄く慕われてたんだね……」
長の後ろでその様子を見ていたチャンボはしんみりと言う。
こんなに尊敬されている長を里のみんなから取り上げるのはちょっと罪悪感があるけど、これもアンモニウムの銀河征服を阻止するため。里のみんなのためにも、頑張らなくちゃね!
長
「――それでは……」
別れの挨拶がすんだのか、長はアラン達に近づく。
アラン
「……もういいのか?」
長
「ええ、大丈夫です。」
そう言ってすぐに目元を抑える。平静を装ってはいるが、長もまた別れるのがつらいのだ。
長
「……さあ、行きましょう。」
アラン
「ああ。」
長を先頭にアラン達は歩き出す。後ろでエルフ達の言葉が聞こえるが、歩みは止めなかった。
白
「若!!」
その時、一際大きなその声に長は思わず歩みを止めた。振り返ると、涙で顔をぐしゃぐしゃにした白が駆け寄ってきた。
白
「若……絶対、無事で帰ってきてくださいね……!」
長
「――ええ。約束しましょう。」
長は白の頭を一撫ですると、歩みを再開した。
白
「お元気でーー!!」
白は長達の姿が見えなくなるまで、手がちぎれるほど手を振っていた。
アレックス
「それにしてもよぉ。長を仲間にしたのはいいとして、これからどこに行くんだ?」
チャンボ
「あっ、そういえばそうだねっ。」
森を抜け、見晴らしの良い草原に出たところで、アレックスがそんな疑問を口にした。
確かに、長を仲間にしてからのことを全く考えていなかった。さて、どうしたものか……
アラン
「……長、何かいい案はないか?」
長
「そうですねぇ…。とりあえず、街に行って情報収集をするのがいいんじゃないでしょうか?仲間を増やすにしても、まず情報が必要ですし。」
流石頭首というべきか、冷静な判断をする長。まとまりがなかった三人にとって、長のような人物はものすごく頼りになると思われる。
アラン
「そうだな。この近くにある街というと……」
長
「ここから北西に行ったところに、エグリスという街があります。それほど大きな街ではありませんが、人の出入りは多いので情報収集にはよいかと。教会もありますしね。」
アラン
「エグリス……芸術の街か。」
アランは北西に見える山脈を眺める。
エグリスは北国の中では有数の工芸品の産地だ。街の規模は小さく、人口はそれほど多くはないが、商人や巡礼者など様々な人が出入りするため、人間だけでなくエルフなどの異種族もいるそうだ。
しかし、ここからエグリスに行くには少し問題がある。
アラン
「ここからだと迂回しなくては街に行くことができない。それなら少し東にあるレギオンのほうがよくないか?」
このまま北西にまっすぐ進んでいけば、道も整備されていないガタガタの山道を歩くことになる。普通の道でも相当な距離を歩くのだ。それはご免こうむりたい。
長
「しかし、レギオンは異教徒が集まる宗教の村。私達のような異種族が立ち入れば、追い出されるのが関の山でしょう。」
アラン
「む……確かにそうだな…。」
山道も嫌だが、異教徒の村と対立するのはもっと問題だ。
怪しげな薬や奇怪な魔法を使う連中と関わるのはなるべく避けたほうがいい。
アレックス
「あぁもう、めんどくせぇな!!俺様達には馬が二頭もいるんだぜ!?山道なんてへっちゃらじゃねぇか!」
そう言って乱暴に手綱を引っ張るアレックス。馬は不服そうに嘶いた。
……二頭しかいないの間違いだろう?こっちは四人もいるんだから。
アランは額に手をつき、はぁ~、とため息をつく。
アレックス
「おい!そのため息は何だ!?言いてぇことがあるならはっきり言え!」
アラン
「……はぁ~。」
アレックス
「て、てめぇ……」
わなわなと肩を震わせるアレックス。
やれやれ、本当に脳みそが少ない奴だ。
チャンボ
「まあ、とにかくさっ!考えててもしょうがないし、それでもいいんじゃないかな?僕は歩きでも全然構わないし。」
長
「私も賛成です。このままここで考え込んでいても何も始まりませんしね。」
アラン
「うむ……それもそうか…。」
アランは腕を組んで考える。
確かにここにいてもしょうがない。ここは毛嫌いせずに山道を行くのもありか……?
アラン
「よし。では行くとしよう。早くしないと日が暮れてしまいそうだ。」
チャンボ
「それじゃ、しゅっぱ~つ♪」
アラン達は芸術の街――エグリスに向け、北西に向かって進んでいった。
時は過ぎて、日没が迫った夕暮れ時。エルフの里のある部屋で、一人の男が目を覚ました。
ガラン
「う、ん……。ここは……?」
ガランは頭痛のする頭を押さえながらゆっくりと体を起こす。どうやらベッドに寝かされていたらしい。
あたりを見回してみるが、明かりがついていないのかよく見えない。
パァ……!
ガラン
「う、なんだ?」
窓の外から急に光が差し込んできた。しかしそれは一瞬で、カメラのフラッシュのようにあっという間に消え去った。
ガランは窓の外に顔を出してみる。そこには――
ガラン
「な、何だこりゃ!!?」
ガランの目に飛び込んできたのは、目の前の家が爆破炎上している光景。そしてなにより、それをやったと思われる黒い影。
ガラン
「魔族…。もう追いついてきやがったか!」
ガランは慌てて外に飛び出す。エルフの里はほぼ壊滅状態だった。
木をくり抜いて造られた家は半分以上焼け落ち、無残に引き裂かれたエルフ達が何人も倒れている。
ガラン
「ひでぇ……」
白
「おい!お前!」
その惨い光景に顔をしかめるガランに一人の少年が近付いてきた。
彼も魔族にやられたのか、きれいな銀髪は土で汚れ、左の肩からは出血もしている。
ガラン
「あんたは……?」
白
「今はそんなことはどうでもいい!魔族が攻めてきたんだ!早く逃げろ!!」
必死の形相で怒鳴りつけるように言う白。しかし、ガランはこの少年がだれなのかを知りたかった。
ガラン
「あんたが、俺を助けてくれたのか……?」
白
「助けたのは自分じゃない。若だ。この里の頭首様だ!」
この里の頭首……。てことは、俺はこの里に借りがあるということか。そう言うことなら――
白
「…?何をしてるんだ?」
ガラン
「どうやら助けられらしいからよぉ。礼と言っちゃなんだが、こいつらを何とかしてやるよ!」
そう言うと、手近な魔族に殴りかかった。いきなりの攻撃に魔族はなすすべもなく吹き飛ばされる。
ガランはそんな魔族には目もくれず、手当たりしだいに殴り飛ばしていく。
しかし、殴り倒された魔族の間を縫って、ガランに迫る影――
ガラン
「なに!?」
他の魔族を相手にしていたガランは避けることができない。
しかし、その時――
魔族
「ぎゃあーー!!?」
いきなり断末魔をあげると、うつ伏せに倒れこんだ。魔族の後ろには、いつの間に移動したのか白の姿があった。
白
「元盗賊の俊敏さを舐めてもらっちゃ困る。
おい、お前!こいつら一気に潰すぞ!」
ガラン
「おう!!」
圧倒的な力で敵をねじ伏せるガランと、素早い動きを生かし、一人一人着実に倒していく白。
ガランの活躍もあり、何とか魔族を退けることができた。
白
「はぁ、はぁ……。何とか倒したな…。」
ガラン
「大丈夫か?」
ガランは座り込んでしまった白に手を差し伸べるが、白はそれを弾いた。
白
「……さっきにパワー。それにその腕の紋章。お前、やっぱり魔族だったんだな。」
ガラン
「……………」
魔族――それは銀河征服を目論むアンモニウム大魔王の手下ということを意味している。つまり、魔族は悪の存在と定義されているのだ。
わかっていた。アンモニウムの下から逃げ出しても、俺に居場所がないことなど分かっていた。俺を助けてくれたと聞いて少し希望を抱いたが、やはり魔族が他の種族と手を取り合うことは無理なのか……
白はガランの手を借りずに立ち上がる。そして、すっ、と手を出してきた。
ガラン
「……え?」
白
「確かにお前は魔族だった。でも、お前はこの里のために味方であるはずの魔族を追い払ってくれた。礼を言う。ありがとう。」
ガラン
「あ、あぁ……」
突然礼を言われ、どう返せばいいかわからないガラン。
これは……手を握ればいいのか?
そう思い、差し出していた白の手を取り、握手をする。白はうっすらとほほ笑んだ。
白
「自分の名前は白。お前は?」
ガラン
「ガランだ。」
白
「ガラン、か。よろしくな。」
ガラン
「お、おう。」
先の戦闘を経て、すっかり打ち解けた二人は、ガランを助けた経緯やなぜアンモニウム星から逃げ出したのかなど、いろいろなことを話した。そして――
ガラン
「そういえば、俺を助けてくれたっていう頭首様はどこにいるんだ?」
白
「……あぁ。今日の朝、旅立たれたよ。」
先ほどまで明るい表情を浮かべていた白が途端に暗い顔になった。
ガラン
「旅?なんの旅に?」
白
「実は……」
白はチャンボ達のことを話した。
ガラン
「アンモニウム大魔王を倒すだと!?そんな無茶な――」
白
「たとえ無茶でも、彼らはきっとやってくれると思う。……約束したんだ。絶対、無事に帰ってくるって。」
白の表情はどこか悲しげで、不安の色を濃くしていた。
すべての魔族を掌握するアンモニウム大魔王を倒す。それは世界征服するのと同じくらい難しいことだ。
しかし、そんな奴がいるならば……もし、役に立てるのなら、俺は――
白
「……ん?どうしたんだ?」
突然立ち上がったガランに不思議そうな目を向ける白。
ガラン
「俺、そいつらに会いに行きたい。」
白
「え?」
ガラン
「大魔王を倒そうとする動きがあるなら、俺は全力でそれに加勢する。あんなひどい魔王は、いないほうがいいからな。」
白
「そうか……」
白は立ち上がり、ガランの肩を叩く。
白
「それなら行ってくるといい。あいつらなら、きっと受け入れてくれるさ。」
ガラン
「白、いろいろとありがとうな。」
白
「気にするな。本当は里の再建を手伝ってもらいたかったけど、幸い誰も死んでないし、何とかなるよ。きっと。」
そう言って笑う白。そういえば、左肩から流れていた血はすでに止まっていた。
エルフのその再生力に驚きを隠せないガラン。
白
「おそらく若達はエグリスに向かっているはずだ。森を抜けて北東にある山の先にある街だよ。」
ガラン
「北東か……。わかった。じゃあ、行ってくる。」
白
「ああ。若によろしく言っといてな。」
こうしてガランは、長を追って里を後にした。
たとえ魔族でも、きっと打ち解けあえる。そう信じて――
というわけで、次の町に向けて出発だよっ♪
ガラン
「それより重大なことがあるだろう。里をメチャクチャにしやがって!」
まあまあ、文句は魔族の皆さんに言ってやりたまへ♪
じゃあ、次回もお楽しみに〜♪