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冒険者ギルドに行けば今のレベルを確認できるアイテムが有るが、キラーラビットのライラックには無理だ。
(今の感じからすると、レベルは6くらいかな)
今まで聞こえたピロリロリ~ンの回数からレベルを予想するライラック。
(じゃあ地下六階に行って試すか)
そのまま地下六階に降りて魔物と戦う。相手は角のあるキラーラビットだ。
基本、仲間意識があるようなので攻撃してきたりはしないが、こちらが攻撃すれば話しは別のようだ。
ライラックはスタスタと角のあるキラーラビットに近づいて胸を小突く。
戦闘開始だ。
「キュキューー!」
「キュキュ~!」
スカッ!ズドン!
(うっそ!)
レベルは変わらなそうなのに、カウンターで決まってしまった。
熟練度の高いスキルはかなり強力な事が分かった。ルビーアイドと戦って熟練度はもの凄く上がっていたのだ。つまりこのカウンターは上級冒険者上位でも通用するって事だ。
(たしか上級冒険者は地下四十階くらいからだったから、それくらいまで行ってもいいって事か)
ライラックはそのままピョンピョンと地下に潜っていった。
地下三十階。
途中の相手とも戦ったが、カウンター、ー発で決まるのは変わらなかった。
(スキルの熟練度は高いけど、レベルは低いから防御力が心配だな。当たらない様に気をつけよう………いや、やられても復活するから気にしなくていいか)
その後ライラックはどんどん戦いを挑むが、相手にならなかったので、スキルは封印してテクニックだけで戦う事にした。
ライラックは地下三十階のボス・アラクネの部屋の前に居る。
因みに10階毎にボスが存在していて、地下十階は初級冒険者の登竜門ワイバーンで、地下二十階は中級冒険者の中間試験的な存在のミノタウルスだった。
そして中級冒険者の卒業試験とも言える地下三十階のボスがアラクネだ。
ボス部屋に入ると蜘蛛の背中に人間の上半身が乗ったアラクネが居た。
ライラックは石を投げつけた。
怒ったアラクネは蜘蛛の糸を吐いて攻撃してくる。
ライラックは飛んでくる蜘蛛の糸を躱しながら間合いを詰める。
もう少しと言うところで蜘蛛の糸の網を吐いて来た。
アラクネが勝ち誇った様に笑った。
ライラックは全力で大地を蹴って、一瞬で天井に飛ぶ。
アラクネはキラーラビットを見失って目を見開いている。
ライラックは天井を蹴ってアラクネにズドン!
(おっ!)
一発で決まらず、立ち上がろうとしている。
ライラックが接近してラッシュをかけると、無事に光となって消えていった。
ライラックは相手になりそうな次のボスを楽しみに、アラクネの後ろにあった階段を降りて地下三十一階に進むのだった。
途中の魔物を倒しても、必ずレベルが上がる訳では無くなった。そして地下四十階ボス部屋の前。
相手はグリフォンだ。
鷹の上半身にライオンの下半身。強力な爪が武器で、風魔法も使ってきてスピードも早い。
中々手強そうでライラックは嬉しそうだ。
ボス部屋に入ったので、ライラックは石を投げつける。
戦闘開始だ。
「ギエェェェエエエエエ!」
グリフォンが吠えている間に一気に近づく。攻撃手段はパンチとキックの超近接攻撃しか無いのでライラックは近づかないと勝負にならない。
グリフォンも爪攻撃があるのに近づかれるのを嫌がって、翼で羽ばたいて風を起こして来た。
小さくて軽いキラーラビットは簡単に飛ばされて転がっていく。
距離が離れると、また風魔法のウィンドカッターがたくさん放たれた。
ヒュン、ヒュン、ヒュン!
ヒュン、ヒュン、ヒュン!
躱すのが得意なライラックは、風魔法を華麗に掻い潜ってグリフォンに近づいていく。
ヒュン、ヒュン、ヒュン!
ヒュン、ヒュン、ヒュン!
ヒュン、ヒュン、ヒュン!
ヒュン、ヒュン、ヒュン!
グリフォンがウィンドカッターの数を増やすと、ライラックの避けるスピードも早くなる。
打つ手がなくなり、また風でライラックを飛ばしてしまおうと羽を広げるグリフォン。
それを見たライラックは、大地を全力で蹴ってグリフォンの翼に向かって跳んだ。
ズドンッ!
バサッ、スカッ!?
グリフォンが羽ばたいても片方の翼からは風が吹かなかった。その上ライラックを見失って焦るグリフォン。
「キュキュ!」
声にグリフォンが振り向くと、翼には穴が空いていてライラックは背中に乗っていた。
「!!!」
ライラックは片方の翼の根元を蹴った。
ドゴッ!ボキッ!
「グエッ!!」
もう片方の翼も蹴る。
ドンッ!ボキッ!
「グエッグエッ!!」
両方の翼の骨を折られたグリフォンは、首を回してくちばしで攻撃する。
シュンッ!パンッ!ドカ!
シュンッ!パンッ!ドコ!
シュンッ!パンッ!ドン!
シュンッ!パンッ!ドガ!
突っつくたびにパリィされて更に顔を殴られたグリフォンの顔は、ボコボコになっていった。
グリフォンはゴロンと寝転がって、ライラックを背中から追い払う事に成功する。
ホッとしたのも束の間、寝転がって低くなったグリフォンの顔の下に、丸くなってキックのエネルギーを溜めたライラックが居た。
「!!!」
(ほいっ!)
ドゴンッ!!
ボキィッ!!
「グゲッ……」
首の骨が折れたグリフォンは、そのまま光となって消えていった。
(だいぶ相手も強くなってきたな。この先、攻撃手段が近距離だけって言うのも厳しいな。遠距離攻撃として魔法でも使えたら良かったんだが)
ライラックは元々魔法が使えなかったので、キラーラビットになった今も魔法が出来ないと思っていた。
(角無しのキラーラビットだからパンチとキックしか無いんだよなぁ………あれっ?確かキラーラビットって風魔法で攻撃して来なかったか?)
ライラックはグリフォンの後ろにあった地下四十一階への階段を降りながら、魔法の事を考えていた。
(魔物は詠唱なんてしてなかったから、イメージすれば出来るのかもしれない。風、風よ、風よ飛べ、風よ吹け!吹き飛べ!)
短い両手を前に翳しているがなにも起きない。
(……………先に進もう)
階段を降りきて地下四十ー階をピョンピョンと進み、出会った魔物と訓練も兼ねて戦っていく。
もちろん風魔法の事を考えながらだ。
今のライラックの戦闘スタイルは、ボクシングだ。
キラーラビットはキックが強力なのだが、冒険者たちに怪我をさせない為に一番攻撃力の低そうなパンチを使っていて、いつの間にかそれが一番得意になっていた。
ボクシングは超接近戦なので、攻撃も防御も考えてからでは遅いので、無意識に身体が反応するまで練習する事にした。
(避けて避けてパンチ!と風魔法!)
スカッ!スカッ!パンッ!
(避けて避けて避けてパンチ!風よぶっ飛べ!)
スカッ!スカッ!スカッ!パンッ!
避ける動作を身体に染み込ませながら、魔法も織り交ぜて魔物と戦っていく。
スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!パンッ!風よ切れ!
(風魔法出ないな…………足を止めて避けながら風魔法行くか!)
スカッ!スカッ!スカッ!吹け!スカッ!スカッ!スカッ!風ちゃん吹いて!スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!パンッ!風様お願いします吹いて!
(うん、相手の目の前でずっと避けて居られるけど風魔法は出ない)
スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!スカッ!パンッ!
最初は楽しそうに避けていたが、馴れてくるとその表情も義務的になり、その次は惰性でやっていた。
(うはっ!楽しくないのに何やってんだ僕。先へ進もう)
階層を進むと途中の雑魚もパンチ一発ではやられなくなり、レベルも何戦かしないと上がらなくなってきたので、ライラックは戦っていて楽しくなってきた。