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ライラックは目を覚ました。
(岩?)
回りを見ると見覚えのある場所だった。
(確かここはダンジョン地下一階の突き当たりだったか)
壁の感じも、行き止まりの感じも間違いなかった。
(何でここに居るんだっけ?)
思い出そうとするが思い出せない。
(う~~ん、なんだったかな)
ふと足元を見ると白いキラーラビットの足とお腹が見えた。
(なっ!こんな近くにキラーラビットが!)
ぴょ~ん!ゴンッ!ベタッ!
その場から跳び退くこうとして、天井に頭をぶつけ地面に落ちた。
「キュキュ~!」
(いたたた、いったい何が)
そこで自分の手や脚がキラーラビットだと気づく。
「キュッ!キュキュ!」
(うそっ!なんだこれ?)
「キュッキュキュ」
(声もキラーラビットかよ)
「キュキュキュ~~~!」
(間違いなくこのキュ~は僕だ)
少しずつ自分の置かれた状況が分かってくるが、全く理解出来ないライラック。
(ポーリッシュたちを助ける為に、キラーラビットと相打ちになって……キラーラビットと一緒にダンジョンに吸収されたんだったか)
ダンジョン地下一階の突き当たりに立ったまま考え込むライラック。
(それでもってキラーラビットとして再生?地下一階?赤いキラーラビットだったよな、僕白いぞ?)
立ったままのライラックことキラーラビットを初級冒険者が発見する。
「おい!キラーラビットだ!」
「よしやるぞ…あれっ?アイテムとなる角が無いぜ?」
「ほんとだ。本当にキラーラビットか?」
そんな状況に気づかずに考え中のライラック。
(戦ったキラーラビットは赤でもかなり強かったから地下一階では無いと思うんだけど。あっ、僕は僕で別のキラーラビットになったのか?僕はレベル10だったから……)
ズザンッ!
(うぐっ!痛い)
「おい!全然逃げないからおかしいと思ったけど、なにもしてこなかったな」
目の前に冒険者が居る事にライラックは今気づいた。
「キュキュッ!」
(何をするんだ!)
「なんだっ?」
「角生えてないけど角落とすかな」
「倒すの苦労しなかったしどっちでもいいんじゃん?」
そんな会話を聞きながら、ライラックは光となって消えていった。
* * * * *
ライラックは目を覚ます。
(岩だ)
回りを見る。
(うん、地下一階の行き止まりだ)
二回目なので状況はわりと分かっているライラック。
一回目を思い出しながら角の生えている筈の頭を触ってみる。
(無い。キラーラビットの象徴でもある角が無い。ただのウサギ?)
落ち込むライラック。
(どうやって戦えと。角無しだと攻撃手段が無くなって、警戒もされないしやられ放題だぞ)
スパンッ!
(うおっ、痛い!)
目の前に冒険者が居た。
「今度こそ角落とすかな」
「分かんねぇ。でも楽に倒せて経験値が入るんだから悪く無いだろう?」
「まあそうだな」
冒険者の会話を聞きながら、ライラックは光となって消えていった。
* * * * *
ライラックは目を覚ます。
(岩!)
(地下一階の突き当たり)
(冒険者は無し!三回目だからもう慣れたね)
ライラックは安全を確認してから頭をフル回転させる。
(もう、ダンジョン地下一階のキラーラビット確定だ。相打ちになってからどれくらい経ったんだ?ポーリッシュたちちゃんと出られたかな。アナ泣いてないかな……)
スパンッ!
「キュ~~キュキュ~!」
(あ~~いつの間に!けっこう痛いな……いや、かなり痛い!)
「分かったから、経験値だけじゃなくアイテム落としてくれよ!」
ライラックは光となって消えていった。
* * * * *
ライラックは目を覚ます。
(岩)
(地下一階の突き当た………)
ズバッ!
「キュキュ~!」
(いってぇ~!四回目だぞ!て言うか湧くの待ってただろ!)
「いいから、アイテムね」
ライラックは光となって消えていった。
* * * * *
ライラックは目を覚ます。
(岩!)
スパンッ!
「キュッ!キュキュッ!」
(早いって!すっごく痛いんだからな!)
「なんかこいつアイテム落とさないらしいぞ?」
「えっまじで?」
そんな会話をする冒険者の後ろには列が出来ていた。
* * * * *
ライラックはもう状況を確認する事も回数を数える事もしなくなった。
ライラックが湧くのを冒険者が列を成して待っているのだ。
相打ちになった赤いキラーラビットくらい強かったらなんとかなるかもしれないが、地下一階に湧く程度で角無しじゃあスライム以下確定だ。
目を覚ませば死ぬ程の痛みが襲ってくる。
精神が持つ筈がない。
それでもライラックは頑張っていた。
ライラックは目を覚ます。
(先ずはアナの元気な姿を思い浮かべ、ポーリッシュたちの活躍する姿を………)
スパンッ!
「キュ~~!」
(アナ~!)
「なんかさぁ、アイテム落とさないって本当らしいな」
「まじが、こいつケチくせえな!」
ライラックは光となって消えていった。
何度死んだか分からないが、冒険者への恨みだけは募っていくライラック。
スパンッ!
「キュキュキュッ!」
(冒険者許すまじ!)
スパンッ!
「キュキュキュッキュキュ!」
(お前らに絶対地獄を見せてやるからな!)
精神の限界を超えた先には闇落ちしか無かった。
そんな時、ライラックの精神を引き戻す出来事が起こる。
いつものように目を覚ましたライラックに、斬られた痛みが襲ってくる。
スパンッ!
声を出すのも苦しいライラックだったが、列の後ろによく知った顔を見つける。
「キュッ!!」
(アナ!!)
光となって消えていく間、ライラックはずっとアナを見つめていた。
(元気だった。少し成長して少女っぽくなっていたな。アナを守る様に回りにポーリッシュたちも居た。なんか装備も新しくなってた。きっと中級冒険者になったのかもしれない。みんなでアナを守ってくれていた。ありがとう)
その後何度目かに目覚めた時、目の前にアナが居た。
湧いて直ぐなのだが、ライラックは涙目で両手を広げる。
「キュキュ!」
(さあ来いアナ!元気な姿を見せてくれ!)
「えっ?!」
アナは驚いて一歩下がった。
ライラックは両手を広げたままアナに一歩近づく。
「キュキュ!」
(さあアナ!剣を振り降ろせ!)
「アナちゃん!気をつけて!」
ポーリッシュたちがアナを守る様に左右で剣を構えた。
そんなポーリッシュたちにライラックは涙目で微笑んだ。
「キュキュッ!」
(ありがとうみんな)
そしてライラックはもう一歩踏み出してアナに斬れと合図する。
「アナちゃん、なんか分からないけど斬れって事かも」
キラーラビットのライラックは頷く。
「えっ、頷いた??」
「「「「………」」」」
みんな不思議がるが、ライラックは両手で来いと合図している。
「なんか大丈夫だと思う」
「「「頑張ってアナちゃん!」」」
アナは困惑しながらも、ポーリッシュたちの声援に後押しされて剣を振り下ろす。
スパンッ!
「キュッ!キュキュキュッ!」
(痛い筈なのに全然痛くない!よく頑張った偉いぞアナ!)
光になって消えながらライラックは、親指を立てて決めポーズをした。
アナとポーリッシュたちは無言だった。
目の前にはアイテムがいっぱい落ちていたからだ。
「このキラーラビットって、アイテム落とさないんじゃなかったっけ…」
「ポーリッシュさん、私レベル上がったみたい…」
「「「「えっ?」」」」
「勘違いじゃなくて?」
「うん、なんかピロリロリ~ンて聞こえた」
アナは初めての魔物討伐だったので、みんな疑問しか残らなかった。