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ライラックとキラーラビットの戦いが始まろうとしていた。
耳を塞いで丸まってた赤いキラーラビットが立ち上がり、ライラックの様子を覗っていた。
赤いキラーラビットは地下十階から先の魔物で、その中でも更にレベルが1から10まである。
レベルが一桁ではPTであっても相手にならない。
ライラックはレベル10になっていたので赤いキラーラビットレベル1だったら何とかなりそうなのだが、それでも一人ではどうなるか分からない。
ましてやあの男たちがレベルの低いキラーラビットを捕獲して連れてくるとは思えない。
勝てるか分からないが、其れでもライラックは前に出る。
(安全なんて関係ない。命を賭けてでも倒してみせる!)
剣と盾を構えたライラックが一歩近づくたびに、キラーラビットの鼻と耳がピクピクッと反応する。
後ろのポーリッシュたちには冒険者の楽しさを教えてもらった。
ライラックはまだ間合いが遠いのでもう一歩近づく。
不意にキラーラビットが角をライラックに向けて突っ込んで来る。
「早い!」
ライラックは全身に力を込めて踏ん張る。
ガキィィィン!!
シナモンは吹き飛ばされたが、ライラックは盾でガッシリ受けとめる事が出来た。
「重いけどなんとか。くらえ!」
盾の向こうに居るであろうキラーラビットを剣で突く。
「キュッ!!」
剣先がかすりキラーラビットが離れていく。
キラーラビットの頬が傷ついていた。
ライラックが腰を据えて構えていると、またキラーラビットが突っ込んで来た。
ガキィィィン!ゴリゴリゴリッ!
ぶつかってからキラーラビットが力で押してきた。
「くっ!流石に力勝負はマズい」
ライラックは押されて下がってしまうが、後ろには動けないポーリッシュたちが居るので避ける訳にはいかない。
「くっ!これでどうだ!このっ!このっ!」
押されながら何度も剣で刺す。
「キュキュッ!!」
剣を嫌がってキラーラビットがまた下がる。
ライラックは時間がある時は冒険者ギルドで色々な事を調べていた。
キラーラビットもその一つで、攻撃手段は三つ。
一つは頭にある角での突進。これが最も強力で、受け損なえば大ダメージをくらい、直ぐに追撃が来るのでそこで終了だ。
二つ目が、強靱な両脚での蹴りだ。角の突進だけを警戒していると、突然しゃがんだかと思うと両脚の蹴りで吹き飛ばされるのだ。そうなると追撃で角が来るからこれも受け損なえば即終了だ。
三つ目が魔法だ。キラーラビットは魔力を持っているので魔法も使えるのだ。苦戦すると使ってくるのが風魔法。相手の態勢を崩したり気を逸らす為に使って来て、そこに角の攻撃や蹴りが来る。
要は魔法で態勢を崩されても終わりって事だ。
「キラーラビットの要である脚さえ傷つければ……」
またキラーラビットが突っ込んできた。
ガキィィィン!ゴリッ!
スカッ!
「なっ!!」
力比べに来ると思っていたライラックは、すかされて態勢を崩して一歩前につんのめってしまった。
足元には両手を地面についたキラーラビットが、丸くなって両脚に力を溜めていた。
「!!」
ブオンッ!!
瞬時に前に飛んだライラックの後ろ足をキラーラビットの蹴りが掠った。
自分で跳んだのだが、不規則に回転して跳んでいく。
「落ちたところを狙って来る!」
ライラックは両手両脚を広げて回転を遅くして着地に備える。
地面が迫った!
「うおおぉぉぉお!」
両脚でビタッとは行かなかったが盾をキラーラビット側に構えて何とか着地した。
叫び声に驚いていたからなのか、追撃は来なかった。
「ラッキー!あっ!マズい!!」
キラーラビットは気づいてないようだが、ライラックから見るとキラーラビットの背中側に立てないで居るポーリッシュたちが見えた。
ライラックはキラーラビットに突っ込む!
「痛っ!足を痛めたか!なんのこれしき!」
ライラックは痛みを堪えて走る。
驚いたキラーラビットが真上に飛ぶ。
「おっ!これは着地を狙えるんじゃないか?」
直ぐにキラーラビットの着地に合わせて態勢を整える。
キラーラビットが落ちてくる。
ライラックは盾を構えながら剣を突き出して突っ込んだ。
「うおぉぉぉおおお!」
落ちてくるキラーラビットは丸まって両脚に力を溜めている。
「当たれぇぇぇぇええ!!」
「キュゥゥゥゥゥ!」
両者激突!
シュパッ!
ガンッ!
ドゴンッ!
両者相手の攻撃を避けようともせず攻撃を繰り出していた。
ライラックの装備していた盾はひしゃげ、左腕は曲がっちゃいけない方向に曲がっていた。
剣を杖代わりにライラックが立ち上がってキラーラビットを見ると、キラーラビットの両脚は使いものにならないくらい傷ついていた。
(勝てるかもしれない)
ライラックがそう思った瞬間、回りの音が聞こえて来る。
「いいぞ~ライラック~!」
「頑張ってお兄さ~ん!」
「お兄ちゃん頑張れなの~!」
「ライラック~!」
「集中していて分からなかったが、ずっと応援してくれていたのか」
ライラックはキラーラビットを警戒しながら、ポーリッシュたちをチラッと見た。
両手を上げて全身で応援してくれていた。
力が湧いてきたライラックは、剣を杖代わりにキラーラビットへ近づく。
左腕は使い物にならないし両脚は歩くのがやっとだが、剣を持つ右手は力がみなぎっている。
最後、両者が見つめ合う。
悔しそうに睨む赤いキラーラビット。
「じゃあな、キラーラビット!」
「キュ!」
ライラックが剣で突きを放つその瞬間、キラーラビットも動いた!
ザシュッ!ズンッ!
ライラックの目にはキラーラビットの背中を貫いている剣が見えた。
「やった……ゴホッ!」
ライラックは口から血を吐いた。
(何だこれ?)
全身の力が抜けて、またライラックの耳に音が戻ってくる。
「ライラック~~!」
「気をしっかり持って~!」
「お兄さ~ん!」
「いやなの~!」
(何で悲しそうに叫んでいるんだ?)
ライラックの視界では、キラーラビットが光になってダンジョンに消えていこうとしている。
(あれっ?僕の手も光ってるぞ?)
「「「「うぁ~~ん!」」」」
よく見ると自分の胸には深々とキラーラビットの角が刺さっていた。
(やられたのか…………まぁキラーラビットを倒せたからいいや)
ライラックは最後の力を振りしぼってポーリッシュたちを振り返る。
「ゴホッ、ダンジョンを出るまで気をつけてね。ゴホッゴホッ、それとアナにすまないと謝っておいてくれると助かる」
「「「「うぁ~~ん!!」」」」
ライラックはキラーラビットと共に、光となって消えていった。