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 街から少し離れた所にある切り立った山。その麓にダンジョンの入口はあった。


 入口の横には詰め所があり、領主軍の兵士2人が警備していた。

 回りには数件の出店があり、どれもダンジョンで必要そうな食料やアイテムを販売していた。


 ライラックたちはギルドカードを兵士に見せてダンジョンに入る。


 斥候役のレッキスを先頭にライラック、チンチラ、ポーリッシュの順だ。


 入口を入ったところでライラックはみんなにポーションの小瓶を差し出す。


「ポーリッシュが回復魔法を使えるけど、何があるか分からないから一応持っておいて」


「「「ありがとう」」なの」


 みんな腰に付けたポーチに入れる。


「それと解毒薬も」


「「「えっ?ありがとう」」なの」


「地下一階に毒攻撃をしてくる魔物いなくない?」


 不思議そうなポーリッシュにライラックが答える。


「何があるか分からないから念の為さ」


「「「………」」」


 3人は微妙な表情をしていた。


 少し進むと分かれ道のところでさっそくスライムに遭遇する。


「よし、じゃあまず僕が…」

「ファイアボール!」

「ウィンドカッター!」

「ウォーターボールなの!」


 ボウッ!シュパッ!バシャッ!


 3人の魔法が当たりスライムは光となって消えていく。


「よっしゃ~!」

「やったわ!」

「楽勝なの~」


「………」


 いきなりの出来事にライラックは呆然としている。


「どうしたのよライラック」

「いや、突然だったから」

「何言ってるの、魔物は早い者勝ちなのよ。レッキス、次どっちに行くの?」


 レッキスが左右の洞窟の奥を(うかが)う。


「見たところどっちも一緒かしらね。右にしましょうか」


 呆けていたライラックが我に返る。


「ちょっと待って。えっと、右にはスライムが2体一緒に居そうで危ない気がするから左にしようよ」


「はっ?」

「えっ?」

「なの?」


 魔物に遭遇しない為に5年間ずっと全力で気配を探りまくってたライラックの索敵能力は、めちゃくちゃ高くなっていた。地下一階のフロアー半分なら魔物の位置も数も全て把握できる程だ。

 ただライラックはレベル4の自分に出来るのだからみんなも出来ると思っているので、ハッキリ言わないみんなに合わせているつもりだった。


「右にスライムが2体居るんなら、行って倒した方がいいんじゃない?」


(あっ、2体と戦うつもりだったから選んだのか。余計な事言っちゃったかな……でも)


「2体居たら何があるか分からないから危険だよ?」


「4人居るんだから大丈夫よ!」


「お兄さんって右にスライムが2体居るって分かるの?」


「えっ?えっと……気がするだけかな?」


「そっかぁ、優秀な斥候なら分かるみたいだから期待したけど、気がするだけかぁ」


「「「…………」」」


 なんか微妙な空気になる。


「はいはいっ!気がするだけならどっちでもいいでしょ。それにスライムが2体居るならそっちがいいに決まってるわ。右に行くわよ!」


 ポーリッシュの掛け声と共に、みんなが右の洞窟に進む。


 スライムが2体居た。


「気のせいが当たったわね。じゃあファイ…」


「ちょっと待ったぁ!!」


 さっきの事を思い出し、ギリギリで止める事に成功するライラック。


「なっなによ。びっくりしたじゃない」


「いや、魔物1体を僕が惹きつけてから、他の1体を攻撃してもらおうかと思って」


「ふぅ~ん、じゃあそう言う事だからみんな行くわよ!」

「は~い!」

「なの~!」


 ライラックが1体に斬りかかると、もう1体のスライムに3人が魔法を撃つ。

 魔法を受けたスライムは光と消え、もう1体のスライムもライラックが倒して光と消えた


「確かにこの作戦だと2体のスライムも楽勝ね!」

「いつもだったら逃げ回らなきゃいけなかったから面倒だったのよ。お兄さん素敵!」

「楽勝なの~」


 ライラックは危険なダンジョンの中なのに楽しそうな3人を見て複雑な心境だった。

 ダンジョンはいつ命を落としてもおかしくない場所だ。今までライラックは考えられる準備をして常に注意を払って慎重に行動してきた。ライラックにとってダンジョンは危険な場所で、楽しいと思った事など一度も無かった。


 3人のハイタッチを待つ手がライラックの目の前で止まっていた。


「なにしてるのよ」

「ハイタッチですわ」

「タッチなの~!」


 ライラックは慌ててみんなの手にタッチした。


 パパパンッ!


 「次はもっと元気にタッチね。じゃあどんどん進むわよ!」

「行くわよ~!」

「バンバンなの~」


 ライラックは3人に置いて行かれそうになり慌てて着いていった。



 茶色いワームと遭遇、見た目は大きなミミズだ。


「きもっ!ファイアボール!」

「うわっ!ウィンドカッター!」

「虫さん!ウォーターボールなの~!」


 ボウッ!シュパッ!バシャッ!


 スパイダーに遭遇、大きめの茶色いクモだ。


「うげっ!ファイアボール!」

「いや~!ウィンドカッター!」

「虫さんにウォーターボール!」


 ボウッ!シュパッ!バシャッ!


 地下一階から十階は弱い魔物が1体か2体で居るのだが、最初以外は1体にしか遭遇しなかったのでサクサク進んでいた。


 そんな時キラーラビットに遭遇。


「きゃ~かわいい~!ファイアボール!」

「ごめんね~!ウィンドカッター!」

「ウサギさ~ん!ウォーターボール!」


 スカッ!スカッ!スカッ!


「あっ!」

「まあ!」

「なの!」


 魔法を避けたキラーラビットが3人に真っ直ぐ突っ込んで来る。


「わっ!」

「あっ!」

「なの!」


 ガキィィン!


 調子に乗って油断していた3人の前に出て、ライラックがキラーラビットを受け止めた。


「おおっ!」

「素敵っ!」

「なのっ!」


「今の内に魔法を撃って!」


 魔法を撃ってと言われて喜ぶ3人。


「任せて!ファィアーボール!」

「お兄さんの為に!ウィンドカッター!」

「ウサギさん!ウォーターボールなの!」


 ボウッ!シュパッ!バシャッ!


「キュー!」

「はぅっ!」


 魔法はキラーラビットに当たったが、誰かの魔法がライラックも当たった。


 「「「あっ」」」


「気にせず魔物を倒すまで続けて!」


 そう言ってからライラックはキラーラビットの足を剣で斬りつけて転ばせた。


 そこにみんなの魔法が炸裂する。


「行っけ~!ファィアーボール!」

「トドメよ!ウィンドカッター!」

「ウサウサ!ウォーターボールなの~!」


 ボウッ!シュパッ!バシャッ!


「キュ…」


 キラーラビットはそのまま光となって消えていき、ドロップアイテムであるウサギの毛玉を落としていった。

 そしてみんな同時にレベルが上がる。


「やった~!レベルが上がったわ!」

「私もよ~」

「なの~」


「……僕も」


 ライラックは今まで気にして無いと言っていたが、レベルアップはやっぱり嬉しそうだった。


「おめでと~!」

「おめでとうですわ~!」

「おめでと~なの~!」

「おっおめでとう」


 ライラックは3人につられてハイタッチをした。


「ふふっ、結果的に楽勝だったわね」


 何気なくポーションを飲んで体力を回復しているライラック。


「「「あっ!!」」」


 3人が顔を見合わせる。


「私じゃ無いからね」

「私でもありませんわ」

「えっ……私も違うなの」

「でもライラック濡れてるわよ?当たったの水魔法だよね」

「……みんながいじめるなの」


 今までは前衛が居なかったから、正確に狙う必要が無かった事情を察するライラック。


「気にしなくて大丈夫だよ。魔物に近すぎた僕も悪かったんだし、これからはみんなの魔法に合わせて魔物から離れるようにするから少しずつ練習していこう」


「ライラック優しい~!」

「お兄さん素敵~!」

「お兄ちゃんなの~!」


 レッキスとチンチラがライラックに抱きつこうとするのをポーリッシュががっちり受け止めた。


 その後、何度かキラーラビットと戦って連係が上手くなった頃、地下六階へ降りる階段の前に着いた。


「ふぅ~キラーラビットもマジで楽勝になってきたわね」


「でも、スライムが魔法1回で倒せなくなって来たのよね~」


「ダンジョンでは階を一つ降りると魔物のレベルが一つ高くなるから、地下一階のスライムがレベル1で地下五階のスライムはレベル5の強さになるから」


「へぇ~そうなんだ。同じ相手なのに倒せないから、調子悪くなってきたのかと思ってたわ」


「この階段を降りるとまた強くなるから、みんなの魔力残量を考えると引き返した方が良さそうな気がするんだけどどうだろう」


「「「あっ魔力!」」なの!」


 気まずそうな3人。


「言われてみると少し身体がだるいかも……忘れてた訳じゃないのよ?忘れてた訳じゃ」

「そう言えば気怠いわ」

「だるだるなの~」


「うんそっか。じゃあ魔力を節約しながら戻ろうか」


「「「……はい」」なの」


 ライラックはホッとした表情で3人を見つめた。


「なによ……ライラックがいけないのよ。一緒だと安心できるしなんか楽しいんだもの」

「私もお兄さんのお陰で安心だったわ」

「楽しかったなの~!」


「喜んでもらえて僕も嬉しいよ。じゃあ戻ろうか」


「「「はい!」」なの!」


 帰りの道中、魔物が1体の時はライラックが戦い、2体の時は片方を魔法で倒して進んだ。


 ライラックは片手剣と盾のオーソドックスだが、セオリー通り戦えば一番安全なスタイルだ。

 帰る途中で危なくなる事もなく、無事ダンジョンを出る事が出来たライラックたち。


「ふぅ~やっと出てこられたわ」

「とても気怠いわ」

「ねむねむなの~」


 レックスとチンチラがふらふらとライラックに抱きつこうとするのをポーリッシュががっしり受け止めていた。


「みんなと無事に出て来られて良かったよ」


「ライラックのお陰だわ。じゃあ冒険者ギルドに報告に行きましょう」


 冒険者ギルドに向かいながら、ライラックはみんなに話し始める。


「今日はありがとう。いつもの僕だったらPTを組んでても必要無い戦闘は反対してたんだ」


「え~、あんなに楽勝だったのに?」


「そうなんだけど、いつもの僕は安全が第一だから少しでも不安があると安全を選ぶんだよ」


「どうして今日は?」


「ん~何でだろう……みんなが楽しそうだったからかな」


「私はライラックが安全を気にしてくれていると思ったから安心して戦えたよ」

「お兄さんかいてくれるから戦いに集中出来たわ」

「安心だったなの~」


「それはなによりだった」


 冒険者ギルドに戻ってアイテムを換金して、報酬と共にみんなで均等に分けた。


「今日は誘ってくれてありがとう」


「こっちこそ助かったわ。またPTに誘ってもいい?」

「僕でいいのならもちろんだよ」

「じゃあチャンスがあったらね!」

「次が楽しみだわお兄さん」

「またなの~!」


「ああ、またね」


 みんなと分かれて冒険者ギルドに残っているライラックに話しかける者が居た。


「なんだ小僧、今回のPTは上手くいったのか」


 ライラックが振り返ると、ギルドマスターのラインランダーがニヤニヤ笑っていた。


「あっ、ラインランダーさん」


 少し離れた受付に座っている受付嬢のトリアンタも微笑んでいた。


「小僧の安全第一は嫌がられなかったのか?」


「それが、いつも通りの僕だったら嫌がられてたと思うんですが……」


「……ですが?」


「僕は安全第一で行きたかったんです。でも彼女たちは楽しそうに危険に向かっていくので、その姿を見ている内にそれも安全の一つの要素なんじゃないかって思えて来たんです」


「ふむ、それで?」


「それで、いつもなら逃げるような魔物とも戦って、どんどん地下に潜っていってレベルも上がって」


「ふむふむ、危険だったか?」


「いつもなら危険だと思う事もいっぱいありました。でも彼女たちは凄く楽しそうで、危険が危険な感じじゃ無くて、最後に僕がいて安心だったって言われたんです」


「で、小僧はどう感じたんだ?」


「危険だとは思うんですが、いけると思うようになっていて……初めて楽しいって感じました」


 ラインランダーが破顔して、ライラックの頭を撫でた。


「良かったじゃねえか小僧、これでもっと強くなれるな!」


「あっ、ありがとうございます」


 ライラックはラインランダーの言葉の本意はよく分からなかったが、スッキリした表情をしていた。


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