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 ライラックとアナは仲が良く思いやりのある兄妹だ。


 両親を亡くした時、兄ライラックが9才で妹アナは5才だった。冒険者になるのは学校を卒業した13才からが一般的だが、ライラックは生活の為に学校へは行かず、9才で冒険者になった。アナは5才なのに両親を想って泣いたりせず、兄の為にいつも笑顔だった。


 それから5年。ライラックは14才、アナは10才となった。


 ライラックは冒険者として生計を立てながら貯めた貯金で、妹アナを学校へ行かせた。


 アナはそんな兄の思いに応える為にと勉強を頑張ったが、兄の助けになればと近所の食堂でも働きだした。



「アナちゃん学校行きながら働くなんて大変でしょう」


 食堂の娘ポーリッシュは14才。学校を卒業して冒険者になったばかりだ。冒険者としてあまり忙しくないので、しょっちゅう店の手伝いにやって来ていた。


「少しでも兄の助けになりたいんです」


「お兄さん思いなんだね。何の仕事をしているの?」


「冒険者です、今兄は14才ですからもう冒険者歴5年になります」


「えっ?14才で冒険者歴5年って、私13才でまだ4ヶ月よ、凄いじゃない!歳も殆ど変わらないし色々と教えてもらおうかしら」


 この国では、13才で学校を卒業してから冒険者になるのが一般的で、その前に冒険者になる者はまず居なかった。


「あまりおすすめは出来ませんよ」


「どうして?14才で冒険者歴5年の人なんて居ないわよ?凄い事だわ。同年代が放っておかないわね」


「そうなってくれたら私も嬉しいのですが。兄はもの凄く安全を優先するみたいで、あまりPTにも馴染めずいつもソロで活動してるみたいです」


「そうなの?別に安全を考えるのは冒険者として変じゃないと思うけど」


「基本的に魔物は危険だから逃げるそうで、つい最近レベル4になったって言ってました」


「えっ?!冒険者が魔物から逃げるの?5年でレベル4??私、始めて4ヶ月だけどレベル4よ……えっ?」


「兄は私を一人にしない為に、危険な事は極力しないみたいなんです」


「そっか、アナちゃん両親が……」


 ポーリッシュもアナも俯いてしまい、空気がしんみりする。


 しまったと思ったポーリッシュが急に元気を出す。


「いいお兄さんじゃない」


 アナはポーリッシュを見て、元気にしようとして言ってくれた事に気づく。


「はい、いい兄です」


「とってもいいお兄さんだわ!」


「はい!とってもとってもいい兄です!」


 ポーリッシュはアナが元気になって嬉しそうだ。


「まあでも、冒険者として安全を考えるのはすっごくいいと思うんだけど、5年でレベル4はちょっとねぇ…………あれっ?もしかしてお兄さんってライラックって名前?」


「はい、そうですけど」


「そうなんだ………ギルドで噂だけは聞いた事があるかも」


「私は平気ですのでどんな噂だったか聞いても?」


「ん~、言いにくいんだけど、スライムより弱い冒険者とか……臆病ライラックとか……逃げ……忘れちゃったわ」


 またポーリッシュが気をつかってくれた事に気づくアナ。


「他の人が何と言おうが気にしませんから大丈夫です。私にとっては世界一の兄ですから」


「アナちゃんにこれだけ思われてるなんてお兄さん幸せ者ね。きっと色々言ってる人たちがおかしいんだわ。なんだか私もアナちゃんのお兄さんの事が好きになってきちゃったかも」


「そう簡単にお兄ちゃんは渡しませんよ」


「アナちゃんごと貰っちゃうからいいもんね~!」


「ポーリッシュお姉ちゃん手強そ~」


「あっそうだ、リアルにPTメンバーが足りなくて困っていたから、今度私たちのPTに誘って見ようかしら」


「いいかもしれないです。いつもソロだって言ってたので兄も喜ぶと思います。でも無理はしなくていいですからね。兄のスタイルがみんなと合わないのは私も何となく理解出来ますから……」


「大丈夫よ。今度誘ってみるわね」


「……無理はしないでくださいね」


「……きっと大丈夫よ」


「「………」」


「「ぷっ!」」


 アナとポーリッシュは笑っていた。

 




  *  *  *  *  *




 冒険者ギルドにライラックが入って来る。


 着古した長袖長ズボンを着て、片手剣と盾を装備している。冒険者歴5年とは思えないまるでかけ出し冒険者の様な出で立ちだ。


「おっ、来たな小僧」


「おはようございます。ラインランダーギルド長」


 入って右の簡易酒場にいるスキンヘッドのごつい男、冒険者ギルドのラインランダーギルド長がライラックに声をかける。


「スライムは危険だら今日も雑用依頼か?」


「そうしたいんですが、今日は魔物を狩る日なのでちょっと緊張してます」


「ああ、妹の学費の為だったか。無理はしないと思うが、まあ頑張って来い」


「はい、ありがとうございます」


 そこで3人組の女の子がギルドに入って来る。


「あ~いたいた!あなたがお兄さんのライラックでしょ!」


「えっと?君のお兄さんでは無いと思うんだけど」


「私はポーリッシュよ。アナちゃんが働いている食堂の娘ね」


「あっ、妹がいつもお世話になってます。素敵なお姉さんだって聞いてます!」


「ふっふっふ、その素敵なお姉さんがPTの誘いに来たのよ。だから私たちとPT組んでダンジョンに行ってちょうだい」


「僕をPTに誘いに?ギルドでの噂とか聞いてます?」


「聞いてはいるけど大丈夫よ。私たちは女の子3人のPTだから信用出来る人しか誘わないのよ。その点アナちゃんのお墨付きもあるし合格よ!」


「ありがたい話しなんだけど本当に僕でいいの?安全を第一に考えるあまりだいぶ迷惑をかけるとかもよ?」


「迷惑かどうかはやってみないと分からないから気にしなくていいわ」


「それでいいならいいか。じゃあよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくね」

「やさしくお願いしますね」

「おねがいなの~」


 こうしてライラックは、ポーリッシュのPTに加わりダンジョンへ行く事になった。


 ダンジョンの入口は街の外にあり、向かいながら自己紹介をした。


「改めまして私はポーリッシュ。一応このPTのリーダーでレベル4の魔法使いよ。攻撃魔法も回復魔法も初級なら出来るわ」


 黒い長めのローブに三角帽、長い杖を持ったまさに魔法使いって感じの装備だ。


「私はレッキスよ。魔法使いだけど斥候役ね」


 左右の腰にダガーが装備していて、動きやすさの為なのか胸の谷間も二の腕もおへそも太股も見える露出度高めのお色気忍者の様な服装だ。


「これはまた……動きやすそうだね」


「そう、動き易いのよ。斥候に動き易さは大事だと思ったの。でも一番は魅力的な事ね。お兄さんから見てどうかしら」


 そう言って胸元を強調するポーズをとるレッキスだが、もう一人の小さな女の子に押されてよろけてしまった。


「あららっ」


「邪魔なの。私チンチラなの。背は低めだけどそこが可愛いいのなの。攻撃魔法が得意だから期待してなの」


 こちらも露出度そこそこの、子供っぽい可愛らしさの魔女っ子の服装だ。


「よろしく、ってか全員魔法使いなんだね」


「女の子は体力が低い分、魔法が使えないと冒険者としてやってけないから、女の子に魔法使い率は高いわよ」


「確かに冒険者は体力は重要だけど、魔法使いだけのPTでよく無事にやってこれたね」


「魔法をバンバン撃てば大丈夫なのなの」


「魔法でごり押しだったか。無事でなによりだったね」


「男の冒険者って変な人も居多いでしょ?だから女の子だけでPTを組もうとしたんだけど中々女の子の前衛が見つからなくてね。仕方なく3人でダンジョンに行ってたのよ。そしたらアナちゃんのお墨付きのあるライラックが見つかったの。冒険者歴5年なのに私たちと同じレベル4とか低くて助かっちゃったわ……あっ!褒めてるんだからね」


「ははっ、レベル上げるつもりは無かったから気にしてないよ」


「妹さんを大事にしてるお兄さんなら信用出来そうだわ。それでイケメンなんだからもう決まりね、やさしくしてね」


 またお色気ポーズをするレッキスにポーリッシュがゲンコツをする。


「いったぁ!」


「ライラックを誘惑しない!」


「じゃあ最後は僕の番かな。名前は知っての通りライラック。冒険者歴5年でレベルは4。ギルドの噂通り僕は臆病で意気地なしだと思う。魔物との戦闘は何があるか分からないから基本戦わないし、戦ってても絶対に勝てる場合じゃないと逃げるから。毎日アナの元へ帰る為に危険な事は極力しないかな」


「噂そのまんまね。まあアナちゃんから話しは聞いてたから分かってるわ。私たちにとって重要なのは信用だからよろしくねライラック」

「やさしくしてねお兄さん」

「お兄ちゃんよろしくなの!」


「うん、よろしくポーリッシュ、レッキス、チンチラ」



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