2.神隠し
「お目の高いお嬢ちゃん、本日はどんなことでお困りで…?」
いつの間にか正面に座る男が商人然とした怪しげな笑顔を張り付けて、私にそう投げかける。その笑顔にいつもなら多少の不信感を感じたはずだろうが、事務所に漂う浮世離れした雰囲気と一刻を争う自身の置かれた状況が私の口を開かせ、男にこれまでの経緯を語り聞かせていた…。
◇
「……くーん、…木くーん起きて―、……かーけーるーくーん」
「うわぁあ!!」
たった今私の前でまるで悪夢を見たかのように飛び起きたのは隠木 翔隆くん、彼は私 帰山 陽子の所属するオカルト研究部の部長で、ややモサくて根暗なオタク気質である点を除けば誰にでも優しい普通の大学生だ。
「ハルちゃん、名前で呼ばれると幼少の頃、クラスメイトたちがマラソン大会で最後に走ってくる俺を見て「カケルって名前なのに足遅いんだ…」って落胆の顔を向けてきたトラウマが蘇るからやめてって言ったよね!?!?」
どうやら自分の名前に強烈なトラウマを抱えるらしいオギ君が悲惨な過去を思い出しもがいているのを気にも留めず、私はさっさと本題に移る。
「今月の活動報告の期限、明後日までだけどどうしよう?」
私たちの大学には毎月部活動の記録を活動報告書にまとめて担当教員に提出しなければいけないという決まりがあり、半年間正当な活動が見られない場合は廃部処分となる。そしてオカルト研究部、通称オカ研は現在5ヶ月間活動報告書が受理されていない。つまり既に廃部にリーチがかかっている状態なのである。
もちろん私たちもサボっていたわけではなく、地域信仰についての研究報告書や妖怪を主題にした物語についての分析レポート、突如校内に流れたどんな依頼も解決する事務所の噂についてまとめたレポートなどを活動報告として提出したのだが、具体性と独自性に欠けるとして受理してもらえなかったのだ。
そういうわけもあって期限が迫っているにもかかわらず内容すら決まっていない報告書をどうするかオギ君に暗に圧をかけているのだった。
「今回の内容は神隠しについて、なんてどうだろう?」
私が報告書について触れた瞬間、さっきまでブツブツと何かを言いながらうなだれていたオギ君が目を輝かせて訴えてくる。
「大学の近くの山に廃れた神社があるよね?今は住宅街になってるけど昔はあの山のふもとには小さな村と竹林が広がっていたらしいんだ」
オギ君の言った住宅街は駅から大学までの間にあるため、私を含め電車通学している生徒には馴染みの深い場所で、それと神隠しに何の関連があるのかと私が考えていると痺れを切らしたような、どこか興奮しているような様子でオギ君がその答えを口にした。
「昔、そこで夕暮れまであそんでいた子供たちが集団で神隠しに遭っているんだ…」
初めてのWeb小説ということで拙作ではありますが、週1以上で投稿できればとと思っています。応援、感想、改善点等あればお伝えください。執筆に活かしていきたいと思います。